使い過ぎに注意!アメリカのデビットカード -自動貸越で高額の「手数料」

デビットカードとは

アメリカに長期滞在する人は、米銀とつながったクレジットカードがあった方が何かと便利だ。しかし、米国内での「クレジット・ヒストリー」がない新参者は、簡単には米国のクレジットカードをつくれない。高収入の駐在員の方々でもそうなのだから、我々XXな人々には絶対無理。そこでデビットカードというのをつくることになる。日本にもあるからご存知と思うが、銀行キャッシュカードと同じく、銀行口座にある額の範囲内でATMで現金が引き出せる。さらに、お店でクレジットカードと同じように決済できる。クレジットカードではないので借金にはならない。その場で口座から引き落とされるカードだ。

アメリカではこのデビットカードが普及していて、デビットカード利用の方が、クレジットカード利用より多くなってきた。決済回数で2016年に2.3倍の開きがある(月間決済回数は世帯平均でデビットカード45.0回、クレジットカード19.3回、小切手7.1回、銀行自動決済(ACH)7.1回。Federal Reserve System, “Recent Developments in Consumer and Business Payment Choices – June 2017” による)

使い過ぎも借金もないはずだが

デビットカードの利点は、何といっても借金にならないこと。だから利息をとられることもない。当然、使い過ぎもない。クジットカードだと借金なので銀行口座にお金がなくてもついつい使い過ぎてしまうが、デビットカードはそれがない。銀行としても、貸金焦げ付きの心配がないので、だれにでも安心してカードを発行するわけだ。

だが、アメリカでは、デビットカードでも、残高以上のお金を使い過ぎてしまえる、つまり「自動貸越」サービス付きの場合が多い。便利でいい、などと思ったら大変。気前よくバンバン使っていたら、大幅な使い過ぎ(overdraft)になり、多額の罰金(「手数料」と言いくるめられている)を取られる。

たった1回の使い過ぎで35ドル程度の罰金。2回の使い過ぎで70ドル、3回で95ドルになる。銀行監視のNPO「責任ある融資センター」(Center for Responsible Lending)の2016年調査によると、アメリカの銀行はこのデビットカード使い過ぎ罰金で年間138億ドルを稼いでいるという(Rebecca Borné, Peter Smith, and Rachel Anderson, Broken Banking: How Overdraft Fees Harm Consumers and Discourage Responsible Bank Products, Center of  Responsible Lending, May 2016 )。銀行手数料総額419億ドルの33%に相当する。この額は、例えばアメリカ国民が書籍・新聞・雑誌に使う全支出額131億ドルを上回るという。アメリカでデビットカードが普及するのはこの商法で銀行が儲けられられるからなのでは、などと勘ぐってしまう。

私の失敗

実は私もこの間これで失敗した。口座残高以上にデビットカードを使おうとすれば「これ、使えませんよ」と拒絶されると思っていた。ところが使えてしまった。クレジットカードだって私の場合、利用限度額を越えたり、引き落としできずにカード利用不可になっている場合がよくある。店で「使えない」と言われるのに慣れているし、大した恥でもない。だからデビットカードについても使い過ぎは警戒していなかった。

ついでにその時は飲み屋でいい気分になって、「俺が払うから」といい格好をしているところだった。銀行残高を思い出す冷静な判断力はなかった。ルンルン気分で家に帰って、いやまてよ、口座にあんな大金残ってなかったんじゃないか、と思い出す。オンラインバンキングで調べると、残高にマイナスが付いているではないか。初めて見る記号だ。

翌朝1番で現金を口座に振り込みはしたが、何か罰金でも来るのか。ようやくその時点で、いろいろ勉強し始め、そしてわかった。私の銀行でもデビットカードの使い過ぎには1回に付き34ドルの罰金(手数料)が付く。がーん。

罰金付きサービス、入るかどうかは選べるが

普通の銀行口座では、このデビットカード罰金がなかったり少なかったり、年1回までは大目に見てくれたり、いろいろ善処してくれる仕組みがある。しかし、私のようなXXな人間が入る口座維持料金がない代わりに各種優遇もない銀行口座では、そのような防御策はなかった。

(デビットカード使い過ぎのルール、「手数料」は銀行によって様々に異なる。Spencer Tierney, “Overdraft Fees: What Banks Charge,” Nerdwalletが全体的にまとめ、紹介している。)

使い過ぎができるようにするかどうか(自動貸越サービスを受けるかどうか)は、預金者本人が選択できる。2010年以前は、多くの場合デフォルトで使い過ぎできるようになっていて、自分で積極的に変更しない限り、意図せぬ使い過ぎ「特恵」(と罰金)を享受する仕組みになっていた。銀行業界はこの商法で2008年に計237億ドルを稼ぎ、2009年には385億ドルの収入を見込んでいたという(Connie Prater , “Fed: Consumers Must Opt In To Debit Card Overdraft Fees,” CreditCards.com, July 1, 2010)。高まる批判を背景に、2010年、連邦準備制度理事会(FRB)が新規則(Regulation E, 12 CFR. Part 205, November 17,2009)を導入し、利用者の自発的選択(opt-in)があって初めてこの罰金商法に組み込まれる形にした。

銀行の親切による利用者保護?

だから当然私も、この「サービス」が利用できるようどこかで選択したはずなのだ。しかし、その記憶がまるでない。銀行は通常、この商法を「使い過ぎ防護」(overdraft protection)サービスと呼び、親切(courtesy)でサービス提供していると言う。提供する義務はないのですが、まあおもてなしで残高超過でも決済してあげますよ、手数料は付きますが、というニュアンスだ。新参者の私は口座開設時の各種設定の際、よくわからないまま、ありがたそうだからと加入選択をしてしまったらしい。

確かに、ニューヨークような寒い冬に暖房代が決済できなければ凍死してしまうというような状況では、この「親切」はありがたい。しかし、通常は、高い罰金を取られる「サービス」に好んで入ることなどしないだろう。使う際にオンライン確認できない(紙の)小切手の場合は、後で残高不足になる場合があるから、それでも決済してもらえるサービスは意味がある。しかしデビットカードは、その場で残高が足りているかどうかオンライン・チェックできる。だったらそこで決済不可とするのが本当ではないか。

シンクタンク「ピュー慈善トラスト」(PCT)の2014年調査では、使い過ぎ経験者の52%が自発的に同サービスの選択をした記憶がなかったと回答している(Pew Charitable Trusts, Overdrawn: Persistent Confusion and Concern About Bank Overdraft Practices, June 2014)。私と同じような人が半分以上居たわけだ。また同調査で、68%の人が、罰金35ドルを取られるよりその場で決済拒否された方がいい、とも答えている。

新規則で、積極的にサービス選択しなければ取り込まれないようにしても、その説明が誤解を生むようなものだと、やはりこの商法に引っかかる人が絶えない。そこで連邦消費者金融保護局(CFPB)は、このサービス説明の際の適切な文書モデルを銀行に提示し、消費者をまどわせないような対策をとっている。この8月にも最新の4モデルを発表し、各界に意見を求めた(Consumer Financial Protection Bureau, ”CFPB Unveils Prototypes of “Know Before You Owe” Overdraft Disclosure Designed to Make Costs and Risks Easier to Understand,” August 4, 2017)。

対策:使い過ぎたらとにかく即入金

根本的な対策は、この罰金付き使い過ぎサービスに入らないことで、入ってしまっている場合は抜けた方が賢明だ。しかし、このサービスは、オンラインバンキングで簡単に停止手続きを取ることはできないようだ。支店に行くか電話をかけなくてはならない。

サービスに加入していて、使い過ぎたらどうするか。とにかくすぐ入金したらいい。私の場合も、すぐ気付いて現金を振り込んだからまだよかった。損害は1回分の罰金34ドルで済むだろう。しかし、34ドルは悔しい。高い勉強代だった、と思っていたのだが、何とこの罰金も科されなかった。

日曜に飲み屋で使い過ぎをして、月曜朝にATM入金したのだが、その後の状況をオンラインバンキングで追っていくと、最初は使い過ぎと入金双方に「手続き中」(in process)のマークが付いていたが、入金の方はその日のうちにマークが消えて正式に受け付けられ残高増となった。その翌日になって使い過ぎ金額の方のin processマークが消えた。どうも、外部での支払い決済は遅れて実行されるようだ。つまりそれで私の「使い過ぎ」は記録上はなかったことになった。

狐につままれたようだったが、いろいろ調べると、他銀のサイトに次のような説明があった。

「営業日終了前に超過分の入金をすれば口座の使い過ぎを回避できます。…入金期限は、支店では閉店時間まで、ATMなどでは東部時間午後11時まで。(以下略)」(JPモルガン・チェース銀行のウェブページ

また、TD銀行のデビットカード関連FAQでは「使い過ぎ手数料を回避するためにはいつまでに口座入金をすればよいのか」という問いを設定し、使う前に入金しなさいと一般的注意をした後、次のように言っている。「営業日の下記期限時間内に入金しても引き出された額をカバーできます。支店内端末では東部時間午後8時まで。電話・オンライン送金では東部時間午後11時まで。ATM入金では東部時間午後8時まで(ただし、開設して90日以上経た口座について100ドルまで)。」

銀行が最終的な決済をする仕組みはよくわからないが、とにかく、使い過ぎに気づいたらできるだけ早く入金するに越したことはなさそうだ。それで助かる可能性もある。私の場合も、いろいろ神経を擦り減らされたが、結局、損害ゼロで貴重な勉強をさせてもらえた。

それにしても、移民がアメリカで生きていくためには、実にいろんな生活ノウハウに習熟しなければならないものだ、と改めて感じ入った。