深夜(午前0時過ぎ)にニューヨークの地下鉄に乗ったらどうなるか。最近、アジア諸国からの帰り便が真夜中になり、そういう事態になってしまった。治安がよくなったとは言え、大きな荷物を抱えたまま深夜にかの悪名高いニューヨーク地下鉄に乗るのは不安だ。(ニューヨークの地下鉄は夜通し動いている)。
しかし、予想外に、大したことはなかった。ジョン・F・ケネディ空港からエア・トレインでジャマイカ駅に着いたのが午前1時。それから私のアパートのあるブルックリン・サンセットパークまでE線とD線の地下鉄に乗る。各駅停車ばかりになる上、待ち時間も長いので3時間近くかかった。
深夜のニューヨーク地下鉄はホームレスの人たちの格好の寝床になるようだった。夏の地下鉄では気づかなかったが、寒くなってからの深夜地下鉄でそれを実感した。(乗車料金はどこまで行っても定額。出札チェックはないので、一旦中に入ればいつまでも居られる)。車両のほとんどの人が寝ている。大きな荷物を抱える人、座席に横になる人。居眠りではなく深く長い睡眠であることが一目でわかる。暴力沙汰や騒ぎを警戒したが、車内は予想外に静かで、轟音を立てる古い地下鉄の中で不気味な静寂が支配する。
私も大きな荷物を持つが、旅行者らしくないぼろのリュックや段ボール箱などを抱える。意図的かどうかはともかく、よれよれのズボンとジャンパー、古いスニーカー。私も立派にホームレスの一群に混じって見える。まったく危険を感じなくなった。
しかし、他の方々のように、寝入ったりはしない。リュックから、友人に勧められたアンナ・アレント『革命について』(On Revolution)を取り出し、読み始めた。戦争と革命の20世紀を生きたアレント(1906~1975年)。ユダヤ系の女性思想家で、自身ドイツからフランス、さらにアメリカへの亡命を経験している。フランス革命から始まる暴力の連鎖から彼女の困難な時代を解き明かそうとしている。20世紀が「戦争と革命」の時代だったなら、21世紀は「平和とテロ」の時代か。「ワールドトレードセンター行き」の地下鉄で寝るホームレスの人々を見ながらそんなことを考えた。