東アジアの新大陸 ―DeepMindの人工知能開発と多民族社会

移民の流入、多民族社会…これらは、某国大統領を例に出すまでもなく、「問題」としてとらえられることが多い。が、そのもたらす恩恵について語られることはほとんどない。

例えば、人類最強の棋士を破ったAlphaGoを開発した英国DeepMindのデミス・ハサビス。父親がキプロス島からの移民、母親が中国系シンガポール人だ。その事業スタートに力を発揮した友人のムスタファ・スレイマンは父がシリア出身の移民。二人は「将来、複雑でダイナミックな金融システムをモデル化し、難しい社会問題を解決できるようなシミュレーションプログラムを開発する」といった希望を話し合っていたという(David Rowan, “Inside Google’s Super-Brain,” Wired, 22 June 2015; David Rowan「Inside Google’s Super-Brain: DeepMind4億ドルの超知能」(Atsuhiko Yasuda訳)『WIRED』Vol.20、2015年12月1日)。

少なくとも一つの領域で人類を超える知能をつくりだした彼らの事業を、シリコンバレーの、これまた大成功してしまったスタートアップ、グーグルが買収していた(グーグルも共同創業者サーゲイ・ブリンがロシア移民)。DeepMindのハサビスは売却の決断をこう振り返る。

「数十億ドルのビジネスをつくりあげることと、知性を解明すること。将来振り返ってみたときに、どちらがより幸せだったと思えるのだろう? それは簡単な選択でした。」(同上)

このような才能を、日本は生かすことができるか。日本もまた、多様な民族が東海のかなたに流れ着いて交じり合って生まれた多民族社会だ。豊かな自然の富をもち、かつての人々にとっては十分すぎる大地を与えた東アジアの「新大陸」だった。

だから日本も確かに優秀な人材を多数輩出し、活力をもった文明社会を形成してきた。が、今それが息切れしてきているのではないか。それなりにつくりあげた安楽な社会で、高齢化を迎え、徐々に活力を失ってきていないか。