夏の冷房が必ずしも充分でないニューヨークの宿で耐えに耐え、ついに9月が来た。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども、風の音にもおどろかれぬる」(古今集)の時期。やや涼しくなった公園に風が吹きわたり、木々を揺らし始めた。やがて木の葉が色づき、落葉もはじまる。
先住民の森を風が渡る
夜、公園を走ると、風が乾いてすがすがしい。暗闇にそびえる木立は、大都会ニューヨークの中とも思えず、インディアンの人たちが暮らした遠い日々に舞い戻らさせられる。原生林が生い茂っていただろう。今、高層ビルが建つところも、先住民たちの小さな居留地があるだけだった。大陸を渡ってきた風が木々をわたり、まだ旺盛な葉のついた高木をざわつかせる。その先に星々。深い暗闇が世界を支配していた。
10月、徐々に寒くなる。公園バスケ(と壁打ちテニス)であばれるので、寒くはない。夏と同じ格好だ。
11月、さらに寒くなり、長ズボンのトレパンをはく。そのうち長袖シャツも。次いで薄手の手袋。11月下旬、薄手のジャンパーを羽織った。12月、ジャンパーの下にセーターも着る。手袋をしても手先が冷える。作業用の厚手の手袋に変えた。夜間は0度近くまで下がるようになった。
寒風の中を走ると、暗闇をバックにマンハッタンの夜景が目に入る。澄んで冷え切った大気の中に粛然と立つ高層ビル街は神々しい。
本格的な冬、雪が降る
そして、12月9日、ついにやってきた。この日、朝からブルックリンは雪で、夜までに辺りが一面白の世界に。翌日、溶けはじめるが、コートが濡れている。どこまで寒くなるのか。
やがてだんだん雪が溶けにくくなる。公園作業員がコート一面だけは雪かきしてくれるので、そこでバスケができる。
さすがに-5度まで下がると、耳が痛い。耳当てが必要だ。厚手の手袋の下に毛糸の手袋も必要だな。そこまで下がらなくても、ニューヨークは風が強い。体感温度は10度低い。耳を手袋の手で押さえながら走った。壁打ちテニスの壁なら風がさえぎられるので、そこでバスケのシュート練習も。腕立て伏せと柔軟体操をして、壁の前を行ったり来たり走る。
頭から耳、ほほ、あごまで隠れる毛糸の覆面(目出し帽)を買った。靴下も厚いのを買い、冬用(雪道用?)の暖かい靴を息子からもらってきた。
札幌の方が寒い
ニューヨークとどっちが寒いか、札幌出身の人に聞いた。札幌の冬の方が寒いという。北国出身の人には、これしきの寒さでさわぐなど笑止千万であろう。(ニューヨークの緯度は青森程度。)
ニューヨークはまだよい。この北にはボストンもあるし、さらに北にはカナダのモントリオールやオタワなどもある。よくこんな寒い所に大都市ができたものだ。ニューヨークが-5度の時、モントリオールは-25度だ。
屋内は暖かい
しかし、外がこんなに寒くても、わが低所得者向けアパートは暖かく寒さ知らずなのは、ありがたいし不思議だ。秋からずっと22~23度を保っている。いや、12月末になって23~24度になったぞ。セントラルヒーティングが効いている。夜かすかにお湯の流れる音がパイプ管から聞こえる。厚手の毛布1枚あれば寝られる。
11月の名古屋より暖かいぞ。名古屋あたりでは11月でも暖房はつけない。つけても寝るときは消す。札幌も冬、家の中は暑くてTシャツを着ていると聞いたが、ニューヨークも同じだ。早々と足温器を買って備えていたが、無駄だった。
東南アジアより暖かい
ハノイやラオスの冬よりも暖かい。南ベトナム、カンボジア、タイは冬でも暖かいが、東南アジアの北部は、日本の秋くらいには涼しくなる。もちろん年の半分は酷暑の夏だから、「家の作りは夏をむねとすべし」に変わりはない。徹底的にそうなっている。だから、冬は風通しがよすぎる。暖房も考えていないから家の中は寒い。日本の秋程度でも、室内でがちがち震えていた。
ニューヨークのこの暖かい部屋に1日中居たら、体がなまってしまう。1日2時間程度は寒風の中に出て、鍛えた方がいいのかもしれない。
-7度。お、暖かいな
夜、ジョッギング+バスケに行く前、ウェブで外気温を確かめると-7度。お、きょうは暖かいな。12月下旬から年末年始、そう思えるような厳寒の季節になっていた。しばしば-10度以下になった。
顔覆面と冬靴、手袋2枚で走り出すと、さほど寒くはない。風がなければ体感気温もさして低くならない。
寒さに慣れてくるにつれて気づいたが、あばれていれば人間の胴体と四肢はそんなに冷えない。セーターと薄ジャンパー、トレパン1枚で十分。冷えるのは体の先の部分だ。つまり手先と足先と、そして意外にも首先(顔)。ここを守る。厚い靴下、冬用靴、毛糸手袋と厚手袋の重ね着、そして首から上は毛糸の覆面(目出し帽)で、特に耳、ほお、あごを守る。そうすれば夏と同じ感覚で自由に動き回れる。
バスケコートの一部が雪がなくなっている。そこでシュート練習。厚手袋でコントロールが効きにくいが、いい練習になる。体全体で投げる。膝のクッションを使って投げる。すぐ暑くなってきて、何と薄ジャンパーを脱いだ。シャツとセーターでちょうどよい。
はじめ、サッカーコートに数人のヒスパニック系若者が居たが、夜9時を過ぎると居なくなる。広い公園に私以外まったく人が居ない。サッカー場の照明だけが煌々と照っている。
これだけ人が居ないとかえって安全だ。かのアメリカの、かつニューヨークの、人気ない夜の公園で運動する、できるなどとは思っても居なかった。
川内、-17度のボストンで2時間18分台
公務員ランナーの川内が1月1日のボストン郊外のマラソンで2時間18分台で優勝したそうだ。-17度だったという。まいった。私のNYでの寒さとのたたかいなどお話にならなくなった。
それにしても日本からだれも取材に来てなかったようだ。第一報は、地元メディアとツイッター市民が伝えただけ。私の「岡部の海外情報」ブログで取材してやればよかった。ほんと、根性あるやっちゃ。
屋内コートでバスケ
雪の降りしきる日、ついに公園内リクリエーションセンターの会員になった。サンセット公園にも市のリクリエーションセンターがあり、中にバスケコート、ジム、卓球場などがある。寒いだけなら、がんばって屋外でバスケするが、雪や雨が降ってはどうしようもない。屋内オプションを確保せねば。
リクリエーションセンターの使い方
ニューヨーク市には、近隣公園などに35のリクリエーションセンターがあり、バスケ、バレーボール、卓球、ジム、ダンス、水泳など屋内スポーツができるようになっている。会員になる必要がある。会費は25~61才で年間150ドル、半年75ドル(屋内プールのないセンターの場合は100ドル、50ドル)、62才以上と18~24才は年間25ドル、17才以下は無料。会員になれば市内どこのセンターでも使える。
サンセット公園センターの場合、開館時間は午前6時~午後9時(土曜半日、日曜閉館)。ジムと卓球場はだいたいいつでも使える。卓球場は中国系の人たちでいつも満員だ。バスケコートの一般利用は平日12時~午後2時と月曜午後6時~9時のみ。他の時間帯は、バドミントン、ダンス、青少年の放課後プログラムなどに使われる。夜のバスケもあるが、予約したチームのみの練習だ。月曜夜の一般向けも、来た人たちの間での本格的な試合形式となり入りにくい。実力を試したい人にはいいかも。
ウェブページで、自分の家の郵便番号で最寄りのセンターを探せる。そこに週ごとのプログラム・スケジュールも出ている。必ずしもその通りではないので、スタッフに聞いて実際の予定を確認した方がよい。
バスケコートの床は固いゴムのような合成素材。外履き靴でプレー可。ボール持参。アメリカの草バスケの流儀なのだろうが、外用・内用のボールを区別しない。どちらを使ってもよい。また、練習試合中でも、ボールが片方に行っているすきにもう一方のゴールで取り巻き連がシュート練習、なども普通だ。ジムの近くにロッカーがあり、カギは自分で持ってくるように指示されるが、バスケ若者たちはコート横に荷物・脱いだ上着などを置いているようだ。
私の場合、12~2時のバスケに行くことになる。(卓球は相手を連れていかないとやりにくい。ジムはいつでもやれるが…)。しかし、夜に運動する習慣なので、なかなか昼に行く気になれない。どうしても外でできない場合だけ行くことになった。