ニューヨーク電子図書館の使い方 ―雑誌・新聞記事データベース他

マンハッタン5番街にあるニューヨーク公共図書館。
ニューヨーク公共図書館。米国公共図書館の象徴。マンハッタン5番街にある。
ニューヨーク公共図書館の参考資料室。
ニューヨーク公共図書館の参考資料室。

電子化するアメリカの図書館

ニューヨークに暮らし始めて、まず最初に図書館利用カード(Library Card)を取った。近くの分館(ブルックリン公共図書館サンセットパーク分館)に行き、パスポートと、住所が証明できる自分宛手紙などを見せるとすぐその場で発行してくれた。当たり前だが無料。

アメリカの図書館は「本の置き場」ではなく、子どもたちが気安く図書館になじめるよう様々な工夫をしている。20台程度のパソコン・コーナーが大きく取ってあり、中央広間にはたくさんの椅子が置かれ、各種イベントが行われる。この日はマジシャンが来ていて、大勢の子どもたちの前で快活に手品を演じていた。笑い声が絶えず、机で本を読んでいる人たちは背景に埋もれていた。

ブルックリン公共図書館サンセットパーク分館。
近くのブルックリン公共図書館サンセットパーク分館。ブルックリン区(人口260万人)には58の分館がある。

(下記は、お隣のパークスロープ分館での子ども向けプログラムだが、サンセットパーク分館のプログラムも同じような雰囲気で行われている。館内のつくりも似ている。ユーチューブのAP通信動画。)

地域コンピューター・センターか催し物会場か

ライブラリアンのお姉さんから真新しい図書館カードを受け取ると、本当はすぐ帰らないといけなかったのだが、一応書架を回り本を探すようなふりをした。そんな気づかいしなくていいのに。私は図書館が提供する雑誌記事全文データベースが利用したくて図書館カードを取得したのだ。家に行ってすぐネットでそれにアクセスしたい。特に分館の書籍は少なく、あまり期待していない。しかし、カードをつくってすぐトンボ帰りでは、優しいライブラリアンのお姉さんに失礼ではないか。あなたがたの図書館の本には用がない、と言っているようで。

しかし、実際、あれから10カ月、まだ1冊も本(印刷書籍)を借りていない。分館からも本館からも。その代わりデータベースで膨大な雑誌、新聞の記事を検索して読ませて頂いている。さらには本も電子形態(e-book)でダウンロードして読み、質の高い名画をたくさんネット上のストリーミング映像で見させて頂いた。そう、少なくとも私にとって図書館は本など印刷物を読むところではなくて、電子的情報を入手する場所になってしまった。

アメリカの図書館はその機能の主要部分を次第に電子世界に移行し、物体としての図書館は(特に地域の分館は)、家でインターネットが使えない人のための地域コンピューター・センターか催し物会場のような場所に変わりつつあるのでは、と思うくらいだ。

家から商業デーベースに無料でアクセス

歴史的な経緯から、ニューヨークの公共図書館は、1)ニューヨーク公共図書館(マンハッタン区、ブロンクス区、スタテンアイランド区)、2)ブルックリン公共図書館(ブルックリン区)、3)クィーンズ区公共図書館(クィーンズ区)の3組織に分かれている。しかし、この3図書館はいずれも、ニューヨーク州民全体にサービスを提供することになっているので、ニューヨーク市民はもちろん州民(+州内の学校に通うか州内で働いている)ならだれでもこの3図書館の図書利用カードが取れる。というか、ニューヨーク州内の公共図書館はそのようなポリシーになっているところが多い。データベースを利用するだけならどれか一つに入れば十分だが、私は地元ブルックリン公共図書館と、メジャーなニューヨーク公共図書館のカードも取得した。

図書館カードがあれば、カード番号を入力するだけで、家から、雑誌・新聞記事の商業データベースにアクセスできる。数千の雑誌・新聞の過去数十年もの全文記事が無料で読める。ダウンロードできる。使い放題だ。これだけの雑誌・新聞が読めれば情報に不自由はしない。読み切れない。インターネットで検索していると、料金を払わないと中を見られないという雑誌・新聞のサイトにぶつかるだろう(「ペイウォール=有料の壁」という)。そういうサイトの中身にアクセスできるということだ。

ある意味、信じられない。しかも、後述のように、このような図書館を通じた自由なアクセスがアメリカでは20年ほど前から実現していた。20年前、「私のこれまでの人生、何だったのだ」と思った。20年後の現在でも、日本の状況はあまり変わっておらず、やはりアメリカに来て、「私の人生、何だったのだ」とため息が出る。

ブルックリン公共図書館で173のデータベース

一つずつ説明していこう。まず、ブルックリン公共図書館サイト。ここを通じてアクセスできる雑誌・新聞記事データベースのリストがこれだ。計173もある。ありすぎる。各種の雑誌・新聞記事データベースの他、経済情報データベース、専門分野データベース、子ども向けデータベース、職業教育データベース、百科事典など。こんなに多くてはどれを使っていいかわからない。データベースのデータベースが必要ではないか、と思ってしまう。

ただ、このリストには図書館内に行かないと使えないデータベースや、逆にインターネット上に公開されているデータベース(つまり一般のウェブサイト、例えば政府データベースなど)も含まれている。有料の商業データベースで、家などから図書館カード番号を入力してアクセスできるのは97データベースだけだ。それでも100程度になるわけだが。

(173データベースをいちいち開いてみないと、それが館内利用だけなのか、外からもアクセスできるのか、あるいは一般のウェブページなのかわからなくて調べるのに苦労した。一般のウェブページも44程度リストアップされていた。まあ一般利用者には、それが有料商業データベースなのか一般ウェブページなのかなどはどうでもいいことで、とにかく役立つデータベースにたどり着ければいい。私のような、これについての記事を書こうとしている変わり者にはともかく、一般利用者にはそれでよいのだろう。)

三大雑誌・新聞記事データベース

意図的か偶然か、重要なデータベースがアルファベット順の最初の方に3つ並んでいる(目立たせるためのデータベース会社側の作戦だろう)。他のデータベースでも言えることだが、中に入っている雑誌記事などの情報はかなり重複している。どれを使ってもいい場合が多い。その中でこの3つが主要なものとなる、ということだ。

・ABI Inform Research(正確にはABI/INFORM Global)

ProQuest社の提供する雑誌・新聞記事データベースで、2018年2月21日現在、4531出版物(内、全文記事取得可能3351出版物)が検索・閲覧できる(同データベース内のpublications検索での表示による)。例えば英エコノミスト誌は1992年からの号の全文記事が検索・閲覧でき、概要は1986年からのものが検索・閲覧できる。米ウォールストリート・ジャーナル紙は、全文記事、概要ともに1984年からのものが利用できる。3000誌紙あれば、これまで見たこともなかったような雑誌、新聞に巡り合い、読み切れないほどの記事がヒットする。例えばTPPで検索すれば8213記事がヒットし、内、全文記事が読めるのは7852記事、その内さらに査読付き学術論文は1028記事だった。これを過去2年間の記事に限定すれば、それぞれ552、481、139記事。これだけでもすでに読み切れない。ちなみに、マイナーなキーワードと思われるお年寄りの繁華街「巣鴨」をsugamo、elderlyの2語で検索してみたところ(「巣鴨プリズン」などを外すため)、全14記事(すべて全文記事付き)、査読付き2記事が出てきた。データベースに日本語の記事は含まれないから、英文記事だけである。

Academic OneFile

Gale(Cengage Learning)社の提供する全分野1万6000の一般誌紙、学術誌のデータベース。 Nature、The Economist、The New York Timesなどの有名誌紙を始め多くが全文記事を提供。TPPで検索すると一般誌で2001記事(全文1923記事)、学術誌で6100記事(全文3624記事)、ニュースで2万0463記事(全文2万0319記事)がヒットした。

Academic Search Premier

EBSCO社の提供する全分野3200学術誌(内、査読付き2800誌)の記事データベース。TPPで検索すると6138記事(全文858記事)がヒットした。

どうも、本稿でも最初に出てきたデータベースを細かく紹介しがちだ(だからこそ、データベース会社もアルファベット順の最初の方に載る名称を付ける)。しかし、内容的には3者どれも同レベルで、どれを使っても、膨大な数の記事が出てくる点に変わりはない。まず、読み切れない。

もちろんインターネットでグーグル検索などをしても無数の検索結果が出るが、こちらは有料商業データベースの記事だ。出てくる記事は、いずれも信頼のおける雑誌・新聞の記事であり、多くの場合有料で、ネット上では見られない記事。研究者などはこちらの記事を使わないと信用にかかわる。

その他のデータベース

その他、ブルックリン公共図書館の計173データベースをすべて解説することはできないが、例として次の3つを紹介しておこう。

Encyclopedia Britannica

言わずと知れた権威ある百科事典。Britannicaは2012年から紙媒体での出版を止め、オンライン提供のみとなっている。新興オンライン百科事典ウィキペディアに勝てるか。Britannicaの個人利用には年間74ドル95セントかかるはずだが、図書館を通じてだと無料になってしまう。まあ、かつての百科事典も図書館に行けば無料でいくらでも読めたからそれと同じことだが。ブルックリン公共図書館のデータベースリストには日本語のブリタニカ・オンライン(Britannica Online Japan)も含まれているが、これは提供中止になったようだ。

Flipster

EBSCO社の提供する著名一般雑誌約100誌がスマホで読めるサービス(PCでも可)。Time、Forbs、Popular ScienceからPeople、Sports Illastratedなど有名どころのビジネス誌、科学誌、スポーツ誌、料理雑誌、旅行誌、芸能誌、各種趣味の雑誌などが最新号を含めて閲覧可能。印刷媒体そのままのデザイン、かつスマホで読みやすい形で配布。バックナンバーも数年分そろっている。検索して個別記事にもたどり着けるが、特定雑誌の特定号全体をダウンロードして一定期間借り出しできる方式。その意味ではこれは雑誌記事データベースというよりe-bookの雑誌版といった方がいいのだろう。(e-book貸出については後日解説する。)

 InfoTrac Newsstand

業界紙のようなマイナーなものも含めて全世界3120の新聞の全文記事データベース。新聞データベースの切り札。InfoTracはGale(Cengage Learning)社提供のデータベース・ブランドだが、新聞に関しては上記Academic OneFileよりも豊富が情報源が入っているようだ。ニューヨーク・タイムズは1985年からの全文記事が取れる。日本の英字紙Japan Timesも、2006年からの全文記事が取れ、日本について本格的な調査ができそうだ。Daily YomiuriやKyodo News Internationalの記事も、特定期間のみの対象だが、検索・閲覧できる。日本では残念ながら、国外の新聞はもちろん自国の新聞についても、一般市民が自宅から無料で10年間以上の新聞記事が検索・閲覧できるような環境はない。

州立図書館が提供する商業データベース

ブルックリン公共図書館でもそうだが、多くの公立図書館は、自館が単独でデータベース会社と契約を結ぶだけでなく、州立図書館がまとめて契約した商業データベースを二次的に利用するという形でのデータベース提供も行っている。Gale(Cengage Learning)社やBritannicaのデータベースはこの方式での提供だ。特に地方の小さい図書館では単独で商業データベースを契約する資力がないので、この州立図書館のまとめ買いから提供を受けるのが中心となる。これについては別稿で解説する。

ニューヨーク公共図書館は818データベースを提供

さて、ブルックリン公共図書館のデータベースだけでも使いきれない量だが、さらに巨大なニューヨーク公共図書館(マンハッタン区、ブロンクス区、スタテンアイランド区)はどうか。同館は818のデータベースをリストアップしている。うち、図書館内のみで使えるデータベースが258、自宅などどこからでもネット接続と図書館利用カードさえあればライブラリーカード番号を入力して使えるデータベースが248件だ。残りは一般のウェブページ上にあるデータベースの紹介ということになる。

これだけの数があると、本当にどれを使っていいかわからない。逐一説明されても益々わからなくなるだけだ。そこでニューヨーク公共図書館ではその中から20件の「まず最初に当たったらよいデータベース」を選んでくれている。20件の内、館内のみで利用は5件、一般のウェブサイトは2件。残る13件が自宅などから図書館利用カード番号を入力して使える商業データベースだ。

結局これだよ、この3つから始める

それでも選択肢が多すぎると感じる人のためだろう、さらに絞って次の3つのうちどれかで検索すれば全部が調べられると紹介している。主要なデータベース会社3社の代表的な検索サイトだ。それぞれの会社の提供するデータベース全体が調べられるようになっている。「一突きで最大限のヒットが得られる」としている。

これだよ、これ。なんでこれを最初に言ってくれない。このデータ―スはこういう情報、ああいう情報ならこのデータベースと何十、何百のデータベースを並べられても途方に暮れるだけだ。これを最初に言ってくれれば事足りる。(そういう私も、これを記事の最後の方で紹介しているわけだが)。

今は、グーグルの一突きで、ピンからキリまで、玉石混交の膨大な情報がいっぺんに調べられる時代だ。各種データベースをもったいぶって並べられても困るだけ。できれば一突きで全部調べたい。そうでなければ検索する気にならない。「今のところ、全データベースをいっぺんに調べられる方法はない」と断っているが、この3つはそれに一番近い方法だとしている。

だから、結局私も、雑誌・新聞記事データベースを検索するときはこの3つのどれかを使う。どうしても見つからない場合に、他のニッチなデータベースにも首を突っ込んで探し回る。皆さんも、この3つから始めればあまり混乱なくデータベースを効率よく使うことができるだろう。

「宝の山」は充分使われているか

私にとっては、こうした記事データベースは宝の山だ。こんなデータベースが全市民に無料で開放されていることに大変な驚きを感じる。しかし、一般にはそれほどの興奮は感じられない。これを取り上げる雑誌、新聞記事が多いわけでもなく、取り上げてもさほど興奮していない。20年前から始まっているサービスなので空気のように当たり前で、格別取り上げる真新しさを感じないのかも知れない。一般市民も相変わらずネット上でグーグル検索ばかりやっていて、図書館のこうした記事データベースまで検索する人は多くないだろう。学生も、記事データベースよりグーグルを頻繁に使うようで、大学図書館サイトなどで、ウェブと記事データベースがどう違うか、学術論文を書くためには後者の信頼できる学術雑誌の記事を参照しなければならないなどの注意、アドバイスをよく見る。

全米の16才以上公共図書館利用者を対象にしたピュー研究センターの2016年調査では、過去1年間に地域の公共図書館に行ったことのある人は48%だったのに対し、図書館ウェブサイトにアクセスしたことのある人は27%だった。その27%のうち、図書目録を検索した人は58%、図書借り出し予約をした人が44%などだったのに対し、データベースを検索した人は37%だった(John B. Horrigan, Libraries 2016, Pew Research Center, September 9, 2016)。つまり、住民の1割しか使っていないということになる。

何を隠そう、私自身もこの「宝の山」をそう頻繁に使っている訳ではない。調べ物の9割はグーグル検索だ。何しろ簡単。クリック一発で世界中のサイトから何でも出てくる。そりゃあ、怪しげなサイトもあるが、信用に足る情報とそうでない情報を峻別する能力と責任はユーザー自身がもつ、というのがネット時代の常識だ。商業記事データベースが「信頼できる有名誌紙の記事ですよ」と提供するのをありがたく思う心性の方が今は問題だろう。

グーグル検索で出てくるのは立派な論文もあれば、ささいなノウハウ情報もある。実はそういう単純な情報が必要だったりする場合もあるので重宝する。何かについて基本を押さえたい場合、Wikipediaレベルの記事で十分な場合も多い。いや、Wikipediaも最近は情報が詳細・専門的で、もっと簡単に説明してくれる辞書レベルのサイトに行くこともある。西部開拓時代と同じ荒野のウェブ空間WWW (Wild West Web)にはゴミ情報も多いが、その代わり、いわゆる「ゲートキーパー」に峻別されず自発的に出された情報には飛びぬけて創意的・ユニークなものもある。学術論文に絞りたければGoogle Scholarを使う手もある。グーグル検索では、関連する書籍ページまでも出てくる。また、ウェブ上にオープンアクセスの学術論文もたくさん出るようになった。いわゆる「有名誌紙」の諸記事もある程度まではウェブ上に出る。本来は有料なはずの雑誌の記事も、著者が自分の責任でネット上に出している場合もある。苦労して雑誌記事データベースの中に貴重な記事を見つけた、と思っても、改めてネット検索したら公開情報として出ていたなどという経験も少なくない。ネット検索でヒット件数が多すぎてその記事までたどり着けなかったらしい。

こうして結果的には、グーグル検索だけでかなり間に合わせられるようになった。それだけで信頼できる記事、論文が充分あり、読み切れない。どうしても足りない、あるいは、あの雑誌のあの記事がどうしても読みたいという場合にだけ図書館の雑誌・記事データベースに向かうようになった。

つまり、記事データベースは依然として宝の山だが、一般ネット上の情報、そして「市場の力」という風の吹き回しで無料で出るようになった情報も相当なもの、ということだ。それを検索する市場的勢力の検索サイト(グーグルなど)も強力で使いやすい。確かに図書館は、ユニバーサルアクセスの理念のもと、商業データベースを含め広く情報を無料で提供し役割を果たしているが、「市場勢力」が実現しつつあるユニバーサルアクセスにも侮れぬ力がある。われら貧しき一般庶民に強力で膨大な情報の力を与えてくれている。逆に言うと、そういうご時世に図書館が商業データベースも提供せず、「本の置き場」にとどまるなら、何の用があるか、ということになる。

20年前からの動き

日本から見れば、驚くような情報ツールを図書館が提供し始めている、と映るだろう。「デジタル化の波、ここまで来たか」の最新アメリカ図書館事情、と思うかも知れない。しかし、何度も言うように、これは20年前にはじまり、当時すでに現在とほぼ同レベルになっていた動きだ。現在は、図書館を通じたe-bookや映画などの映像ストリーミングの提供がホットな話題で、雑誌・新聞記事の商業データベース提供は古い話だ。

初出1999年(『現代の図書館』37巻2号、1999年)の「図書館で商業データベース提供」という記事を参照してほしい。サンフランシスコ市立図書館の例を中心に解説しているが、当時すでに自宅などから数千の雑誌の記事が全文記事を含めて検索できるうようになっていた。州図書館がまとめて全州民にデータベースを提供する動きも広がり、1990年代ですでに米国民のほとんどが自宅などからこうしたデーベースにアクセスできる環境が実現していた。