ニューヨーク公共図書館はNPO ―アメリカの図書館史を探る

ニューヨーク市民の誇り、知の象徴

これは図書館か。アメリカの公共図書館を代表するニューヨーク公共図書館に入るとそんな思いにとらえられる。

ニューヨーク公共図書館の前に立つ2頭のライオン像
ニューヨーク公共図書館の前に立つ2頭のライオン像「忍耐と不屈」。Photo by Jeffrey Zeldman (CC BY-NC-ND 2.0)

ニューヨークの目抜き通り5番街に立つ白亜の殿堂。エンパイアステートビルとロックフェラーセンターの間、市民の憩いの場ブライアント・パークを裏庭にしてその大理石の神殿がそびえる(いや、かつてはそびえていたが、摩天楼ばかりのニューヨークでは「底辺」になってしまった)。古代ギリシャ・ローマ様式の影響を受けた建物(仏ボザール様式)で、もちろん国の歴史的建造物(NHL)に指定。2匹のライオン(「忍耐」と「不屈」)に守られた高いコラムの入口を入ると、そこは博物館だ。多くの美術品が展示され、巨大な壁画や天井画が人々を見下ろす。もちろん、勉強しに来る人も居るが、観光客も、メトロポリタン美術館やニューヨーク近代美術館と同じ乗りで見学に来る。3階の参考資料室「ローズ・メイン・リーディングルーム」は特に壮大で、幅24メートル、長さ91メートルの回廊空間に、高い窓と天井。もちろん天井画。シャンデリアの下に大型テーブルが幾重にも並ぶ光景は、図書館の象徴として図書館に関する多くの本の表紙を飾る。その一角にロープが張られ、わざわざ観光客が写真を撮るコーナーが設けられている。確かにそうでもしないと、そこら中で観光客が写真を取り、勉強の邪魔になるだろう。

3階の参考資料室「ローズ・メイン・リーディングルーム」
3階の参考資料室「ローズ・メイン・リーディングルーム」。Photo by DAVID ILIFF. License: CC-BY-SA 3.0

この図書館は、単に本を読むための場所でなく、ニューヨーク市民の誇り、知の象徴の場所になっているのだな、と感じる。前稿の日米主要図書館比較表を下記に再度かかげるが、ニューヨーク公共図書館本館の職員は812人だが、同館ウェブページのファクトシートは、それとともにボランティア数497人を表記している。約10億ドルの年間予算の約4分の1、2億6596万ドルが寄付によって支えられている。

人々の書への記憶が刻まれた図書館

申し訳ないが、私は、図書館は過去の遺物だと思っている。ローマ帝国のように栄光の道を歩み、いまだに人々の間に知の象徴として神々しく観念されているが、王様は裸だ。インターネットとデジタル情報の時代、その寄って立つ基礎は徐々に掘り崩されている。本当に必要か。

などという考えも、この白亜の殿堂に入ると、一時休止だ。これまで何万、何千万という人々が、書を求めてこの図書館を訪れたか。あるいは他の幾千の小さな街の図書館に、数世紀にも渡り、どれだけの市民が、差し込む淡い日の光の下で、時のたつのも忘れ書にふける時間をもったか。それらの歴史、人々の記憶がこの空間の隅々に宿されているのを感じ、ある種の感動がおそう。こんなインスティテューションを簡単につぶしてはいけない。

市民団体、NPOだ

そしてこの「公共図書館」が市の施設でなく民間の非営利組織(NPO)だ。土地は市有地で、資金もかなり市・州から出ているが、組織的には民間で、必ずしも市の行政機構に従うわけではない。職員2536人(分館も含めて)も公務員ではない。「パブリック」が日本語と若干の意味上のズレがあることも関係している。「公共」は日本ではお上のことだが、この国では市民のこと。The Publicと言えば一般公衆、民衆の意味で、「政府情報へのパブリック・アクセス」などという文脈で使われる。(単なる言語的な意味上のズレではなくて、政府のとらえ方、民主主義の考え方の差異とも関係するかもしれない。)

税法上は、一般の市民活動団体、福祉サービス団体などと同じ501(c)(3)区分。寄付した人への所得控除など、手厚い優遇のある典型的なNPO法人だ。同じニューヨーク市の中に、ニューヨーク公共図書館、ブルックリン公共図書館、クィーンズ区図書館と別組織の3公共図書館が存在するのも、歴史的な経緯とともに、これらが民間のNPO法人なので、市が合併したからと言って即統合されることはない、という事情から来ている。

ちなみに、ニューヨーク市内にあるメトロポリタン美術館、ニューヨーク近代美術館、アメリカ自然史博物館、メトロポリタン・オペラハウスなどメジャーな文化施設はことごとくNPOだ。日本なら国立、市立となる施設の相当部分がアメリカではNPOに担われている。

独立した図書館システムへの気概

クィーンズ区図書館のウェブサイトには、トップページの最下段に「クィーンズ図書館は独立した非営利法人であり、他のいかなる図書館システムとも組織的関係がない」というな断り書きがある。誇り高き独立の精神をあらわす一文であると同時に、わざわざこう書いておかねばならないのどのような事情があったのだろう、と考えさせられもする。

ブルックリン区はもともとニューヨーク(マンハッタン)と並ぶ「双子の都市」だったが、反対がある中、1898年に拡大ニューヨーク市として現状に近い市に併合された。独立都市ブルックリンの栄光が失われたとして「1898年の大失敗」が長く語り継がれていた。ブルックリン市長経験者で合併当時から1926年までブルックリン公共図書館長をつとめたデービッド・ブーディは図書館合併に反対。同館理事会の中には「もうこれ以上、マンハッタンを利するだけの合併はたくさんだ」というさらに強硬な意見があったという(Keith Williams, “Different Boroughs, Different Library Systems,” New York Times, December 10, 2017)。

もちろん図書館は、民間非営利法人であっても市から多額の財政援助を受けているので、税金の効率的な使用という観点からも合併すべきだという意見も根強く存在する。しかし、地域に合った図書館サービスを行うには独立した図書館であることが支配的で、合併話は進んでいない。

アメリカの図書館:会員制私設図書館から

図書館は、紀元前300年頃設立のアレクサンドリア図書館(エジプト)以来、あるいは始皇帝が焚書坑儒で書を焼き払う紀元前213年以前から存在していたと考えられるが、近代的な意味の公共図書館は17~18世紀のアメリカから発展してきたと言われる(以降、Stuart A. P. Murray, The Library: an Illustrated History, Skyhorse Publishing, 2012を参照)。

アレクサンドリア図書館(エジプト)
紀元前300年頃設立のアレクサンドリア図書館(エジプト)。パピルスを使った書物を保管した。

新大陸では本が貴重で、特にピューリタンの切り開いたニューイングランドでは、本国から贈られてくる書物を小規模な私設ライブラリーにして大切にするような慣行があった。1653年に、商人ロバート・キーンの残した書籍の寄贈でボストン・タウンホール(町役場)内に「タウン図書館」が設置された。以後、多くの遺贈を受け、有料会員制サブスクリプション方式の図書館に発展した。18世紀にかけ他州でも徐々につくられる私設図書館のほとんどはこの方式だった。後には、株券を会員に発行して書籍、雑誌を買い集める方式の図書館(athenaeum)も設立された。

ボストンの旧マサチューセッツ州議事堂。
ボストンの旧マサチューセッツ州議事堂(1713年築)。現在は博物館。「タウン図書館」のあったタウンホール(町会所)がこの場所に建っていたが、1711年に焼失して再建された。1770年、この小広場で「ボストン虐殺事件」が発生。独立革命の引き金の一つとなった。1776年には2階バルコニーから市民に向け独立宣言が読み上げられた。

ベンジャミン・フランクリンの図書館

このボストンの文化の中で育った者に建国の父の一人ともされるベンジャミン・フランクリン(1705~1790年)が居た。フィラデルフィアに移転した後、1731年に「フィラデルフィア図書館会社」(The Library Company of Philadelphia)を設立している。50人で設立した有料会員制(サブスクリプション方式)の私設図書館だ。1750年代までにこのようなサブスクリプション式図書館がニューヨークを含め東部諸州に10以上あり、1756年に同方式図書館が最初に設立された英国よりも早かったという。

フランクリン図書館
フランクリンが設立したフィラデルフィア図書館会社があった建物。Photographer unknown – Original source: Robert N. Dennis collection of stereoscopic views (Public Domain)

フィラデルフィア図書館会社は1773年に、市中心部のカーペンターズ・ホール2階に図書室を移転するが、翌年にはアメリカの独立革命に向けた第1回大陸会議がその1階で開かれる。代表たちにフランクリンの図書館が開放され、人権思想や民主主義政体の知識を得る手助けとなった。独立後の1791年から1800年までフィラデルフィアが米国首都となり、ここに集まってくる州代表たちのための「議会図書館」の役割を果たした。

アマゾンのキンドル・アンリミテッド

ちなみに、この時期に拡がったサブスクリプション式図書館は、今風に言えばアマゾンのキンドル・アンリミテッドだ。会費を払って加入すれば、そこにある本を無料で無制限に読める。デジタル時代に、サブスクリプション型のビジネスモデルが復活してきているのは面白い。

公共図書館というのは、この「会費」を税金に置き換えたビジネスモデルとも言える。キンドル・アンリミテッドを「会費」でなく税金徴収で運用する。慣れない読書という習慣を広く大衆の中に広めるには有効な方法だった。人々は納税する代わりに、無料で無制限に本を読める図書空間を得た。

ニューヨーク・ソサイアティ図書館

ニューヨークでは、1754年に、裕福な市民たちが中心になり、それまであった私設図書館を基礎に本格的なサブスクリプション式私設図書館「ニューヨーク・ソサイアティ図書館」がつくられた。1783年まで続く独立戦争で被害を受けたが、すぐ再生し、翌1784年には市役所(後にフェデラル・ホールと呼称)に図書室を開く。憲法草案を話し合う大陸会議(連合会議)が1788年までこのフェデラル・ホールで開かれ、同図書館はやはり州代表たちに開放されて議会図書館の機能を果たした。

ニューヨーク・ソサイアティ図書館。
ニューヨーク・ソサイアティ図書館の内部。1894年。By Frank Leslie’s Popular Monthly (Frank Leslie’s Popular Monthly) [Public domain], via Wikimedia Commons
ニューヨーク・ソサイアティ図書館は現在に至るまで、有料会員制の図書館としてマンハッタンの一角にひっそりと存続している。現在の年会費は個人260ドル、世帯335ドルとのことだ

ティルデンの240万ドル遺贈で「ニューヨーク公共図書館」発足

1886年、元ニューヨーク州知事のサミュエル・ティルデン(1814~1886年)により、「ニューヨーク市に無料の図書館と閲覧室を設立、運営するため」240万ドルに及ぶ遺贈が行われた(この項、New York Public Library, “History of the New York Public Library“参照)。当時、ニューヨークには2つの有力な私設図書館があった。裕福なドイツ系移民ジョン・ジェイコブ・アスター(1763~1848年)の遺贈で1849年につくられたアスター図書館と、篤志家ジェームズ・レノックス(1800 ~1880年)が1870年に設立したレノックス図書館だ。両館とも必ずしも充分に一般向けサービスを行える体制でなく、かつ財政難に苦しんでいた。そこでティルデン基金が中心となり、3者統合による本格的な図書館設立の話がまとまった。1895年、「ニューヨーク公共図書館」が設立され、1902年、現在の場所に本館建設がはじまった。現在でもニューヨーク公共図書館の正式名称は、New York Public Library Astor Lenox and Tilden Foundationsである。

ニューヨーク公共図書館。1920年代。
ニューヨーク公共図書館。1920年代の絵葉書。(public domain)

民から公へ、民間の不備を補うため政府が

サブスクリプション式図書館は民間の私設図書館だ。会費を払えば、どの本でも無料で読めるが、会費を払わない人には開放されていない。新設されたニューヨーク公共図書館は会員制でなく、だれでも無料で利用できる。しかし、それでも行政が運営する公立図書館ではない。民間の中から徐々に「公」が形成されてきたアメリカでは、公共の図書館でも様々に民間市民団体の性格を残している。

日本では「公」だけでは不十分なので、それを補佐する民間のNPOセクターが必要になった、という理解がなされるが、アメリカではその逆に、公的サービスは本来、民間NPOセクターが提供するものだが、それでは不十分なため課税権と立法府を有した「公」、つまり政府が必要になってきた、という理論も出ている。アメリカでは、政府よりも先に植民者たちが地域で自治を実践してきた歴史があり、例えば、1800年にワシントンDCに引っ越してきた米国連邦政府職員は137人に過ぎず、国民に連邦所得税が課せるようになったのも1910年代以降だった(それ以前は関税などが中心)。何しろイギリスによる課税に反対して独立革命を起こした国だ。南北戦争時にリンカーンが一時連邦所得税を導入したがすぐ廃止。1913年憲法修正第16条でやっと所得税が「合法化」されている。古代から租庸調の税制が整っていた日本とは異なる。

ニューヨーク州には398のNPO立図書館

アメリカでも、19世紀以降に開拓された西部では、行政設置の公立図書館が主体だ(この場合も、別組織のNPO「図書館友の会」がつくられ、図書館支援の寄付、ボランティア活動などが行われる)。しかし、歴史の長い東部では、伝統を受け継ぎ民間NPO法人の形をとった公共図書館も多い。中でもニューヨーク州がNPO形態の図書館が398と最も多く、公設の図書館(municipal 196, county 5, multi-jurisdictional 6, Native American 2, school district 130, special district 20, school & public 1)より多くなっている。次に多いのはコネチカット州97(参考までにmunicipalは97)、バーモント州93(96)、テキサス州68(269)、ニュージャージー州59(231)、メイン州53(171)、ロードアイランド州29(22)などと続く。テキサス州以外すべて東部の州だ。私が前に住んでいた西部カリフォルニア州はゼロで、すべて公立(municipal 105, county 53, special district 11)だ。しかし完全に東高西低という訳ではなく、東部州でもデラウェア、メリーランド、マサチューセッツ、ペンシルベニア、サウスカロライナはゼロで、すべての図書館が公立だ(以上、National Center for Education Statistics, Public Library Structure and Organization in the United States, March 1996のTable 2参照)。

なお、この資料Public Library Structure and Organization in the United Statesは米国図書館の法人形態を調べるに必読の書。ほとんど無限と言っていいくらいに多様な米国の地域自治制度を州ごとに詳細に調べ上げている。個人の努力では不可能と思える作業。税金で食べているお役人はまさにこういう仕事をしてくれないと、と思わせる労作だ。

また、ニューヨーク州の図書館制度を調べるには、New York State Library, “Library Development: Chartering a Public Library in New York State“のサイトが役立つだろう。この一州の、しかも図書館制度だけを探るのでも米国の地域制度がどれだけ複雑で多様かわかる。法人形態はさほど大きな問題ではなく、比較的自由に設置・改廃できる地域の公共図書館には、公立(郡立、市立、町立、村立)、学校区立、特別区立、組合(association)立、インディアン居留区立などがあり、それがまた集まって合併型(consolidated)、連合型(federated)、共同型(cooperative)などの「図書館システム」を形成する。この中でも特に自由度の高い組合立図書館は州内でも全米的にも非常に多様で、前出 Public Library Structure and Organization in the United Statesも詳細な分析をあきらめている。ニューヨーク市の大規模3図書館は、上記のうち「併合」型の図書館システムに該当する。「併合」型は州内でこの3館のみ。「併合」してもまだニューヨーク市内で一つになっていないということだ

自治体が設立する公立図書館の登場

アメリカでは、1833年にニューハンプシャー州ピーターボローの町が自治体財源での「タウン・ライブラリー」設立を決議したのが、今日見るような公立図書館の走りとなったとされる(以降、再び、前記The Library: an Illustrated History参照)。それ以前からもインディアナ州の農村部などでは郡立図書館の設置が行われていた。1835年にはニューヨーク州で、地域の「学校区」が公共図書館設立のための課税を認められ、学校区型公共図書館モデルが導入された。一時、カナダを含めて他州に広がりを見せたが、やがて学校内のみの図書館に変わっていく。

また、1816年にペンシルバニア州立図書館が設置されたのを皮切りに、ニューヨーク州(1818年)などその他での州立図書館の設置が進んだ。米教育省の1876年調査では、全50州で法律書を中心とした州立図書館の設置が確認された。英国でも1850年に公共図書館法が制定され、自治体設置の公立図書館モデルが基礎づけられた。

ピーターボローで設立された初の公立図書館
1833年にニューハンプシャー州ピーターボローで設立された初の公設図書館ピーターボロー・タウン・ライブラリー。写真は20世紀半ばのもの。(photo: public domain)

鉄鋼王カーネギーの支援で2500図書館

何をもって「公共図書館」というか、当時も今も規定があいまい(州法でも規定がまちまち)だが、1875年までに米国内188の公共図書館が存在した。1886年には600館となるが、この年から鉄鋼王の篤志家、アンドリュー・カーネギー(1835~1919年)の大規模な公共図書館支援がはじまっている。少年の頃、ペンシルベニア州アレゲニーの図書館で、時間のたつのも忘れて書にふけった経験をもつカーネギーは、生涯を通じて(自分は年5万ドルの出費に抑えながら)公共図書館支援に情熱を傾けた。資産の9割に当たる3億3300万ドルを寄付し、うち5620億ドルが全世界計2509図書館の建設に使われた。米国内では、4000万ドルが拠出され、1412地域1670館が建設された。

カーネギー助成は、ニューヨーク市(1898年の合併でほぼ現在の市域にまで拡大)では1901年、分館65館の建設のため520万ドルが寄贈された。他地域での助成同様、市が土地を取得し、図書館運営にも市が責任をもつ(助成額の1割以上を毎年拠出する)という条件付きだった。現代で言う「マッチングギフト」で、地域が何の努力もしないまま恩恵を受けるのでなく、自ら努力する中で援助を受ける。そういう意欲のあるところにだけ助成するというやり方だ。

ニューヨークの図書館も市財源が中心

民間NPOとしてはじまったニューヨーク公共図書館は、図らずもこれで自治体との強い関係を義務付けられる形となった。下表に見る通り、現在に至るまで、同館の運営には、市をはじめとした行政からの多額の資金が出ている。特にカーネギー助成を受けた分館システムの運営は、8割以上が市の財源で成り立っている。市民の誇りである本館の方は、やはり市民からの寄付や財団助成で成り立つ部分が大きい。蓄積した基金を運用しての収入も大きい。

【表:ニューヨーク公共図書館の財源】
2011年(単位:千ドル)

中央4館(research center)の主体は5番街にある本館だが、その他に、科学産業ビジネス図書館、舞台芸術図書館、黒人文化図書館を含む。

資料:The New York Public Library, “General Fact Sheet 2011

連邦政府:図書館建設法から図書館テクノロジー法へ

一般にアメリカの公共図書館の財源は自治体、州政府からが主だ。しかし、連邦政府からの補助も、額は少ないが、時代を先導するような役割を果たしている。

1929年の大恐慌以来、アメリカ図書館協会(ALA)などが、図書館への連邦助成を訴えており、1956年に図書館サービス法が成立した。これが1962年図書館サービス建設法に継承。当時の活発な公民権運動の影響下で、低所得者、マイノリティー地域などで図書館を建設・改修していくことに重点を置いた。これが1996年に「図書館サービス・テクノロジー法」(LSTA)に受け継がれる。「建設」から「テクノロジー」への変化に時代の流れがよく示されているだろう。単に建物をつくるのでなく、コンピュータやネットへのアクセス、デジタル情報の提供といった技術インフラ整備に重点が移った。

ニューヨーク公共図書館本館で。
アメリカの公共図書館は地域パソコンセンターの機能を重視している。ニューヨーク公共図書館本館で。

 

「科学技術産業図書館」内に設置された求職支援コーナー。
ニューヨーク公共図書館中央館の一つ「科学産業ビジネス図書館」内に設置された求職支援コーナーもパソコンセンターの趣き。

現在、同法により年間約2億3000万ドルの予算が組まれ、図書館関連の連邦官庁「博物館・図書館サービス院」(IMLS)を通じて、各州に約1億8000万ドルが提供されている。ニューヨーク州では年間約800万ドルの資金援助を受け、各地のデジタル事業、教育訓練事業に使われている。全州的な電子図書館事業NOVELnyもこの支援で実現されている。

現在、トランプ政権がこの予算をカットしようとしていることで反対運動が起こっている。昨年度の削減案は阻止されたが、2018年2月に提出された2019年度の大統領予算案で、再び同予算削減とIMLS廃止が提案されている(連邦政府の年度は10月~9月)。代わって軍事費増額の他、有名なメキシコ国境の壁建設180億ドルなどが提案されている。