公共図書館でe-book提供 ―全米9割以上の図書館 ―印刷本より多いことも

アメリカの公共図書館の94%がe-bookを提供

アメリカではe-bookを提供する公共図書館が9割を越え、自宅からネットでe-bookが読める態勢ができつつある。ライブラリー・ジャーナル誌が行う全米の公共図書館に対するアンケート調査(表1、最新年の回答数317館)では、e-book提供館の割合は2014年まで順調に伸び、95%になったあたりで高止まりとなった。2015年調査では94%だった。100%近いが、財政事情から提供できない所が一部に残る。e-bookの「蔵書」数も順調に伸び、2015年の1館当り中央値は1万4000冊程度。調査を担当したライブラリー・ジャーナルのリチャード・ロマノは次のように言う。

「2015年調査は、e-bookが公共図書館に確実に根付いたことを示している。利用者が皆使うというほどでもないが、印刷書籍、オーディオブックなど他のコンテンツ形態と同様に好まれてきている。…[同時に]、厳しい財政と低い需要から、今後も導入しない図書館がわずかに残るようにも見受けられる。しかし、それも全体の1~2%だろう。」(ライブラリー・ジャーナル, Survey of Ebook Usage in U.S. Public Libraries, September 2015, p.5)

(表1)米公共図書館のe-book提供状況

資料: ライブラリー・ジャーナル, Survey of Ebook Usage in U.S. Public Libraries, September 2015

蔵書の3割はe-book、計3億2875万冊

一方、図書館関連の連邦政府機関「博物館・図書館サービス院」(IMLS)の調査によると、2015年度段階で全米約9000公共図書館のe-book「蔵書」は表2の通り、計3億2875万冊、人口一人当たり約1冊の割合となった。(e-bookは図書館が所蔵するのでなく、データベースなどと同様、提供元とのライセンス契約でアクセス提供する形が主で、厳密には「所蔵」「蔵書」ではない。契約が終了するとそのe-bookは「消える」、つまり図書館からアクセスできなくなる。)

すでに「印刷資料」(印刷書籍などのprint materials)の半分近くに達しており、「蔵書」全体の3割を占めるに至った。大学図書館など「学術図書館」に関しての発言だが、2012年段階でほぼ同レベルの2億5359万冊に達した全米の学術図書館e-book冊数について、カリフォルニア大学マーセッド校図書館副館長のドナルド・バークレイは次のように言っている。

「これが意味するところは、たった10年の間に、これまで米国の学術図書館がそろえてきた全印刷書籍の約4分の1相当のe-bookを収集したということだ。つまり、ハーバード大学が1638年にこの国初の学術図書館を設立して以来、全米の学術図書館が収集してきた印刷図書、雑誌合本、政府ドキュメント他の印刷資料すべての4分の1、ということだ。」(Donald A. Barclay, “Has the library outlived its usefulness in the age of Internet? You’d be surprised,” The Conversation, April 28, 2016)

(表2)米公共図書館によるe-book提供 州別 2015年度

(州の配列は、人口1人当りe-book冊数が多い順)

資料: Institute of Museum and Library Services, Supplementary Tables,  Public Libraries in the United States Survey Fiscal Year 2015,  September 2017 , Tables 13, 17

地方の方が高いe-book導入率

都市部の図書館だけでなく、意外と地方の図書館の方が導入が進んでいる。簡単な一般化はできないが、州別データを見る限り、人口密度が低い地方の、しかも冬寒くなる地域での導入が活発なようだ。ハワイ州が1人当たり0.03冊と最も少ないのが象徴的だ。シリコンバレーを抱える温暖州カリフォルニアも0.14冊と、底辺に近く、その下にフロリダ、サウスカロライナ、ニューメキシコなども続く。

1人当り14冊とトップに立ったカンザス州の場合は、人口密度が米平均の約4割で過疎、ということもあるが、州立図書館長がe-book導入に積極的で、電子書籍配信事業者オーバードライブとの間に、全米初の州レベルでのライセンス契約を結んだなどの特殊事情があるようだ。その他、ウィスコンシン州、オハイオ州など全般的に寒い地域が上位。過疎で図書館が遠かったり、冬、外出しにくい地域で電子書籍への需要が大きい、という仮説を立ててよいように思われる。

e-book蔵書が印刷本を上回る場合も

e-bookは全米平均で蔵書の3割を超えるが、注目すべきは、上位4州など、e-bookがすでに5割を越えている地域があることだ。つまり、印刷書籍数より多い。e-bookは理屈上は、所蔵スペースがなくてもいくらでも蔵書を増やせる。特に地方の小規模館などでは大きなメリットだろう。やや古い2013年の調査だが、全米6909の小規模図書館(対象住民人口2万5000人以下)の42.5%にあたる2933館が2100万冊のe-bookを提供し、大規模館を含めた全体の提供冊数の60.2%を占めた。かつ、3年間で194.3%の驚異的な増加を示していたDeanne W. Swan, Justin Grimes, and Timothy Owens, The State of Small and Rural Libraries in the United StatesInstitute of Museum and Library Services, September 2013)。

ただ、技術的に無限の所蔵が可能でも、現実のe-book「貸出し」には様々な制限が設けられている。商業的販売に打撃を与えないよう、提供元(電子書籍配信サービス事業者)とのライセンス契約で、図書館ごとに例えば1冊しか所蔵してないかのように扱われる。一人が「借りて」いればそれ以上「借り」られない(中身にアクセスできない)。そもそも図書館向けe-bookは一般消費者向けより高い価格に設定されるし、年数を限るか、あるいは特定回数貸出されたら再購入が必要になるライセンス契約が普通だ。それだけ制限があって、なおe-book提供が拡大しているのは驚異とも言える。

e-book蔵書の数え方: 上記統計を取る上でのe-book冊数は、例えば1度に1人にしか貸出しできなければ1冊、2人に同時貸出しできれば2冊などと数えている。矛盾しているようだが、無制限に何人でも読めるe-bookの場合は1冊と数える。各図書館から州図書館や図書館連合体提供のe-bookにアクセスするような形の場合は、重複が生じないように全体で1冊と数える。ただし、その場合でも各図書館ごとに1冊ずつ借りられるのであればそれぞれを1冊と数える。要するに、大元のファイルは一つでも、図書館ごとに貸出せる冊数を基準にe-book「蔵書」を数えており、この意味では印刷書籍の蔵書数と基本的には同じだ。詳しくは、同調査の方法解説編、State Characteristics Data Element Definitionsを参照。)

e-book購入費は全体の20%程度

上記調査は、蔵書購入費についても調べている。詳細は割愛するが、印刷資料が全体の57.6%、電子資料23.0%、その他19.4%となっている(表2出典資料Table 26を参照)。興味深いことに、図書館向けの高いe-book価格設定が批判される割には、購入費はそれほど大きくなっていない。e-book蔵書の多い州を含め全購入費用の10~20%台が普通。最高でもハワイ州の35.5%、2位ワシントンDC31.9%、3位ワシントン州29.4%などだ。

58公共図書館がe-book年間100万冊以上の貸出し

図書館向けe-book配信事業の最王手オーバードライブ(本社:米クリーブランド、2015年3月に楽天が買収)が毎年、e-book貸出し100万冊以上の公共図書館を発表している。2017年には、400万貸出しを越えたカナダのトロント公共図書館を筆頭に、全世界58の公共図書館が年間100万冊以上のe-book、デジタル・オーディオブックの貸出しを達成した。前年の49館から新たに9館が「100万貸出しクラブ」入りした。

アジアから唯一シンガポール国立図書館が15位に入っているのは立派だ。我らがブルックリン公共図書館(29位)はもちろん、ロサンゼルス郡立図書館(16位)、ボストン公共図書館(22位)よりも上だ。独自モバイル・アプリを開発し、通勤電車から利用できるとのキャンペーンを行い、同時貸出し制限を8人までに増やし、一部は1年間限定で無制限アクセスを認めた。さらに本格的なビジネス関連e-bookをそろえたデジタル・ビジネス図書館も設置した。

米国内で上位に入ったのは、ワシントン州のキング郡図書館(全体2位)、ロサンゼルス(市立)図書館(同3位)、ニューヨーク公共図書館(同4位)、シアトル公共図書館(同5位)、(ミネソタ州の)ヘネピン郡図書館(同6位)、クリーブランド公共図書館(同7位)などだ。

NY州: 98%の公共図書館がe-book提供、予算支出1150万ドル

ニューヨーク州はe-book導入に活発だが、表2の通り1人当たりでは0.84冊と、全米平均以下となる。蔵書中のe-book割合は19.3%で、これも全米平均より低い。2016年5月に行われたニューヨーク州の独自調査によると、州内756公共図書館の98%がe-bookを提供し、そのための予算支出額は1150万ドルだった(New York State Library, Electronic Books and Public Libraries in New York State, May 2016 )。

図書館のe-book貸出しは民業圧迫か

図書館がe-bookをタダで貸出してしまったら出版社は困らないか。官による民業圧迫にならないか。コピーしやすく遠隔アクセス可能な電子書籍の性格から、アメリカでも出版社が長らく図書館へのe-book提供に躊躇していた。提供するようになっても前述の通り、高価格、貸出し制限、期限決めのライセンス(契約終了後は図書館の手元に残らない)など多くの制限を設けている。

しかし、それを言うなら印刷書籍でも同じでしょ、ということになる。出版社が売っている本を図書館がタダで皆に貸していたら商売上がったりだ、という批判があってもいいが、あまり聞かない。印刷書籍については、出版社・書店と図書館の棲み分け、役割分担が長い間の慣行で確立されてきた。参考図書類のような、個人向けではあまり売れないが図書館向けなら売れる分野が確実にある。学問的であまり売れないが図書館にはそろえておきたい硬派の本もある。はやり言葉で言えば、図書館はある種の「ロングテール」をさばける市場だ。もちろん、本をあまり買えない低所得層への機会均等、情報アクセスの権利と民主主義の増進など、経済的基準だけでは測れない価値もある。それらを総合的に考慮して、図書館と出版ビジネスは共存の道を歩んできた。e-bookでも当然そういう協調地点があるだろう。

村上春樹の新刊本を発売直後に大量に貸出ししてはいけない

むろん、村上春樹の新刊本をどこよりも早く何十部も仕入れ、発売と同時に貸出すというようなことを図書館がすれば、明らかに営業妨害、民業圧迫だ。しかし、1部か2部購入し、図書記号貼付けなどで1カ月くらいたってから貸出すということであれば影響は少ないだろう。待ってるくらいなら買うという人が大勢出てくる。しかし、どうしても買えないという人への機会均等は保証できる。その辺の常識的な落としどころだ。一定の良識ラインを踏まえ図書館として多様な本を提供していけば、機会均等を保証し、読書の習慣や本好きの若い人たちを育て、読者に多様な本の存在を知らせ、多くの社会的利益・プラスの外部経済性をつくりだせる。それはまわりまわって出版事業にもプレスになる。e-bookに関してもそのような落としどころがあるはず。

新しいメディアに慣れる

e-bookの場合は、人々がまだそれに慣れていない、という問題もある。言ってみれば、植民地時代の荒くれ男たちが、その武骨な手では本のページさえうまくめくれないという段階で、図書館が本に親しむ機会を与えるようなものだ。人々はまだe-bookをうまく使えない。家から借りてすぐ読めるのは便利だな、とは思っても、ページのめくり方、ページ間移動の方法さえよくわからず、まして検索や辞書機能、傍線引きに相当するハイライト、その他電子書籍特有の便利な機能など使ったこともない人が大部分だ。そういう人たちに図書館ebookを通じて自由に電子本を味わって頂き慣れてもらえれば、産業界にとってもプラスになる。

借りてから買う人

2012年のピュー研究所の調査では、図書館でe-bookを借りた人の41%が新しく出たe-bookを買った。同じく同年のアメリカ図書館協会(ALA)とオーバードライブによる7万5000人対象の調査では、57%が図書館を主な図書発見の場としてとらえ、35%の人が図書館で借りた本・e-bookを実際に買うと答えた。

デジタル音楽の販売に関して、一定の条件下では、違法コピー行為が増えると売り上げも伸びるという研究結果も出ているようだ(2008年の2,109アルバムを対象としたクィーンズ大学研究者の調査)。無料化による広告効果(認知度の広まり)が関係しているという。海賊行為などではなく、図書館を通じた秩序ある無料配布マーケッティング効果の方がはるかに好ましいことは論を待たない。

インディーe-bookを提供する課題

米国で9割を越える公共図書館がe-bookを提供しているが、その多くは大手出版社から発刊されたものだ。インディー著者が自主出版したe-bookは多くない。ライブラリー・ジャーナル誌の前記調査Survey of Ebook Usage in U.S. Public Librariesによると、2015年段階で、インディー出版e-bookを扱っているのは全体の25%のみ。19%は現在は提供していないが今後提供したいとしている。しかし、61%が現在も扱っていないし、今後も扱うつもりはないとしている。

インディー著書は出版社のスクリーニングを通っておらず、書評もまず出ないので、図書館としては評価しにくい。自主出版されたものなど怖くて図書館に置けないという偏見もあろう。しかし、別稿で見た通り、インディー出版はe-book時代の主流になりつつある。大手出版社がこの流れを正確にとらえていないのと同様、多くの図書館もこの流れの外にいる。図書館の書籍購入はISBNベースで管理されているが、インディーe-bookの多くはISBNを使っていないという技術的問題もある。しかし、良書を探し出し市民に提供していくのがライブラリアンの職業的使命であり、図書館が時代の活力を得て存続していく上でも、この成長分野への関わりは重要だ。

図書館のインディー著者支援:SELF-e

そういう観点から、ライブラリー・ジャーナル誌と図書館電子書籍プラットフォームBiblioBoardの共同事業SELF-eは興味深い。地域のインディー著者に自由に自著e-bookを提出してもらう(サイトにアップロードのコーナーあり)。著書は州レベルのコレクションに入り、地域著者のe-bookとしての貸出しが可能となる。さらにライブラリー・ジャーナル誌の審査に通ればSELF-e図書( SELF-e Select)の認定を受け、BiblioBoardを通じて全世界の参加図書館から提供されるようになる。(人数・期間制限のない貸出し)

インディー著者にとっては図書館網を通じて著書の認知度を高められるし、販売上も、「推薦図書」であることを示せるのでメリットがある。図書館にとっては、導入が難しいインディーe-bookを適切な形で蔵書に迎えることができる。

さらにライブラリー・ジャーナル誌では、これらインディー著書の中から年に一度、ジャンル別の「インディーe-book賞」を選出する。アメリカ図書館協会(ALA)黒人部会との共同で黒人自主出版小説賞も選定する。賞金付きだ。同誌で紹介され書評も載る。SELF-e図書になるだけでも意味があるが、賞を取れば、大手出版社からの印刷書籍化の話も舞い込む。

各地のSELF-e参加図書館は、これを通じて地域インディー著者との関係を深め、彼らを支援する諸活動も行う。表紙デザイン、マーケッティング手法その他の支援情報を提供し、専門家による講習会を開く。インディー著者間のネットワークづくりにも協力する。著者サイン会を行ない、一般市民向け「自主出版のし方」講座を開く場合は、講師をお願いする。2016年からは「インディー著者デー」行事を組織し、年に1度の特別日を定めて全米各地の図書館でインディー著者交流活動を行う。2017年10月14日の第2回では、全米200の図書館に約2000人の著者らが集まって各種イベントが行われた

インディーe-book販売大手のSmashwordsも参入

インディーe-book販売サイトの最大手Smashwordsも、図書館との連携に動き出した。2012年8月に図書館向けサービス「ライブラリー・ダイレクト」を開始。2014年5月には図書館向け電子書籍配信事業の最大手オーバードライブと連携して本格的に図書館向けインディーe-book提供を開始した。Smashwordsは2018年4月14日現在、481,705点のインディー出版e-bookをサイト上で販売している。図書館向けには、希望に応じて、例えば上位100、上位500などのベストセラー、あるいは分野別で上位1000ベストセラーなど多様なコレクションを提供する。一旦図書館に販売すればそのファイルは図書館のものになるという図書館側の要望に沿ったライセンス契約を行う。貸出し回数制限もない。同時貸出しは1人。

Smashwordsは、「不正コピー本でない」「違法行為や暴力をそそのかすものではない」など、常識的・最低限の基準を満たす本ならすべて受け入れる。だから何でもありで、こんなものが図書館に入るなどとんでもない、という批判もある。しかし、インディーe-bookの時代には本の評価を定めるのは出版社や有名書評者ではなくて、読者自身だというのがSmashwordsのスタンスだ。オンライン販売では、販売数や読者評価での検索が可能だし、図書館への販売もベストセラーリストを基本にする。ネット時代の「集合知」「みんなの意見は案外正しい」原則で行くわけだ。

上記SELF-e事業では、書籍評価にライブラリー・ジャーナル誌というプロの集団が加わる。図書館としは安心できる。しかし、そこでインディー著者は認知度を高めるだけで、直接の著者収入は発生しないことが批判されたりする。Smashwordsの場合は、図書館に販売する段階で一定の著者収入が発生する。ただし、その後図書館から無限に貸出しが行われていくわけで、そこは著者としても認知度を高める場として割り切らなければならない。

「本のATM」

オンデマンドの書籍印刷・製本機Espresso Book Machine(EBM)が2007年に登場し、書籍販売の世界を大きく変えると期待された。「本のATM」とも言われ、街角のATMで現金が引き出せるように、EBMが置いてある書店でお目当ての本を印刷・製本してもらって買う。本の電子データがそこに送られてくるわけだ。ホチキスで止めたようなものでなく、ある程度本格的な書籍が作成できる。

書店は大量の本をそろえておく必要がなくなる。何百万冊という本のデータから客の求める本をその場で作製して売ればいい。出版社としても本を全国の書店に配送するコスト、労力が不要になる(取次店が不要になる)。インディー著者などは自分の本を必要な時に必要なだけ作製して、友達に見せるなり売るなりできる。

実際はそううまくは行かず、まだ世界に100機に満たない普及度だ。出版社からの協力が得られないことがおおき大きな原因という。売れるような新本を提供してくれない。古い絶版本しかリストに入れてくれない。本の質もA4判だとか、いまいちのことろがあり、それで出版社も躊躇するのかも知れない。2013年段階で1台8万ドルほどしていたので導入には慎重になるだろう。大学町では、教科書や参考図書の印刷などで比較的採算が取りやすいようだ。

そしてこれは、現状では何よりインディーe-book著者にとって使い出があるだろう。彼らは喜んで書店にファイルを提供するだろうし、自分でも印刷して販売するだろう。アメリカでもまだ74%の人は印刷書籍しか読まないのだから。

サクラメント図書館: 本の出版を支援

図書館で、この「本のATM」を実験しているところがある。実は私のところのブルックリン公共図書館も前にやっていたのだが、今はやめてしまった。現在、模範例になっているのはカリフォルニア州サクラメント市の公共図書館だ。図書館がある道路名を取って「Iストリート・プレス」と銘打つ。2011年に20万ドルで導入したが、料金徴収で2015年までに元をとったという。180人の市民が自分の本計1万5000部を「出版」した。出版した本は、図書館に寄贈して住民に貸し出すこともできる。下記にその動画がある。館長は、市民の自主出版活動を支援して「地域を基礎にした出版」の拠点にしたいと語っている。

動画:カリフォルニア州・サクラメント公共図書館で稼働する書籍印刷・製本機。図書館が地域インディー著者の出版拠点になる。

本を読む支援から本を生む支援へ

図書館はこれまで、人々が読む本を提供する場所だった。これからはその本を生む、出版する場所に変わるかも知れない。情報の消費の場から生産の場に。教育の普及と、ウェブとe-book時代の到来で、情報発信と書籍出版が一部知識人の特権ではなくなってきた。嫌がられるほどに万人が本を出す。いいではないか。そのような時代を図書館が支援する。ウェブ上での発信を支援し、印刷・製本を含めた書籍出版を支援し、インディー著者のe-bookを普及させるインフラとしても機能する。

こうした課題は、コミュニティーセンターでもネットカフェでも担える。しかし、図書館はもともと大量の書を収集し、人々に読書の機会を与える場だった。ここが出版支援の拠点になれば、即その配布、マーケッティングの場にもなれる。特にe-bookであれば、地域図書館を越えた広い世界に拡大していける。そんな本の革命の時代の一端をアメリカの公共図書館が担いはじめているのかも知れない。