NY図書館:e-book借り方解説  -日本から使えそうな米図書館も

ニューヨーク市に住む人は、図書館ネットを通じて約30万冊のe-bookが読める。家に居ながら、その場で借りて読める。いや、州内居住者であればニューヨーク市3館の図書館カードをつくれるので、州民だれでも30万冊にアクセス可能。(州外居住者については後述)

普通通り蔵書検索すればいい

どうやってアクセスするか。普通通り蔵書検索するだけだ。例えばニューヨーク公共図書館(NYPL)であれば、そのホームページに行き、SearchでCatalogを検索する。検索結果が出てくると、e-bookならばE-BOOKというマークが付いている。通常の印刷本ならBOOK/TEXTだ。

いや、私はe-bookだけを読みたいのだ、という人は検索結果が出たところで、検索欄右下に「Advanced Search」という小さい文字があるので、これをクリック。Format:という項目でE-BOOKを指定すれば、電子書籍だけの検索結果が出てくる。

お目当てのものが見つかり、しかもそれが他の人(達)に借りられておらず「Available」になっていたらクリック。まだ自分のアカウントにログインしてなかったらここで図書館カード番号とパスワードの入力が促される。次いでAdobe EPUB eBook、Kindle Book、OverDrive Readなどから使っているソフト(プラットフォーム)を選び、さっそく画面上で読むことができる。詳しいやり方はサポート・センターのページ(Windows PCの場合)を参照のこと。またe-book関連の総合窓口E-Book Centralも役立つ。スマホを使っている人は、ニューヨーク公共図書館が開発したSimplyEをインストールすれば、e-book利用が非常に簡単になるだろう。

「貸出し中」の場合は

普通、だれかが借りていればそれ以上借りられないが、人気のある本は、2冊目、3冊目でも借りられようになっている。また、本により1週間、2週間、3週間など貸出し期間が異なっている。期限が来れば、返却手続きをしなくても自動的に自分のアカウントから消える。早く返すこともできる。

読みたい本がなかなかAvailableにならない時は、予約(Place Hold)することになる。他の図書館をあたってもいい。ブルックリンやクィーンズの図書館の方が空いているようだ。複数の図書館に登録していればこういう時に便利だ。

e-book24冊まで借りられる

ニューヨーク公共図書館のサイトには、e-bookを何冊まで借りられるか載ってない。ただ、一般的に図書の貸出しは50冊までになっているので、e-bookもそれだけ借りられるのか、と思って試してみた。クリックしまくり次々に貸出し手続きをする(気分よい)。12冊借りたところで「上限を過ぎました」という表示が出て、それ以上借りられなくなった。つまりe-bookは12冊までらしい。いや、違った。正確に言うと、これは提供元の一つOverdriveだけで12冊ということで、別の提供元Cloud Libraryの方でもまた別に12冊まで借りられる。計24冊だ。通常のCatalog検索では、Cloud Library提供の本はあまり出てこないので、それの専用窓口から探した方がよい(上記E-Book CentralからCloud Libraryを選択)。まだ24冊いっぺんに借りる必要が出たことはないので、これだけあれば十分だろう。

ブルックリン図書館は一般図書99冊、e-book15冊まで

館外貸し出しが一般図書で50冊、e-book24冊というのは、ずいぶん気前のいい話だと思う。日本ならせいぜい5~6冊ではないか。しかしこれは、米国の図書館では普通だ。私の区のブルックリン公共図書館では一般図書が99冊まで、e-bookgが15冊まで借りられる。99冊と言ったら大型トランクにも入らないくらいだ。とにかく多く貸出して(行政財源確保のため)成績を上げようとしているのではないか、とうがった見方もしてしまう。しかし、それはひねくれた考えですね。読書家への愛情あふれる措置として大いに享受させて頂くのが人の道というもの。

ブルックリン公共図書館でも、多くの図書館同様、一般図書貸出しは3週間までだが、延長は、他の人からの請求が出てない限り、事実上無制限(一応、99回までとなっている)。3000冊以上を借りた人は「パワーユーザー」の称号が与えられる制度があり、いろいろ特典がある。また、教職にある人は、貸出冊数が一般の2倍になるなど優遇措置があるのが普通。ブルックリン公共図書館の場合は100冊まででこの点では大差ないが、貸出し期限が最初から90日になるなどの特典がある(Teacher Library Card)。

「e-book」枠外にもe-book

50冊、99冊は論外だが、e-book24冊、15冊もすでに充分。なのに、各図書館には、この枠外にあるe-bookも多いようで、24冊以上読める。例えば主要雑誌100誌以上の電子版が読めるFlipsterは、e-bookというより、データベースの扱いのようで、e-book貸出しが上限に達していても自由に読める。そもそも「借りる(check outする)」という手続きを経ず、即読める。日本のdマガジンに相当するオンライン雑誌閲覧サービスだろう。

参考図書を集めたGale Virtual Reference Library (GVRL)もデータベース扱いのようで、e-book貸出し制限に関係なく読める。手続きなく即読み放題で、同時アクセス制限もなさそうだ。中身は記事データベースというより明らかに書籍、しかも参考図書なので中身が濃い。分野別に1万2000冊のe-book参考図書が含まれている。24冊の枠外で自由に読める。Catalogの検索ではWeb Resourceという形で出てくる。

以上は図書館データベースではいわば定番で、ニューヨークだけでなく、米国内どこの図書館にもあると思われる。下記はやや専門的・学術的になるが、その分読み応えがあり、本格的調査に使えるe-bookが多い。

Project MUSEは、基本的に学術雑誌データベースだが、相当数のe-bookも含む。各章ごとにダウンロードする方式で、4月17日現在、人文・社会系を中心に計1,189,021章が読めると示されているUniversity Press Scholarship Online (UPSO)には、多分野にわたる資料的e-bookが約7000点含まれている。Sage Knowledgeは、社会科学系のe-bookサイトで、約5100タイトルがある。百科事典などを含め参考図書的性格が強いが、ビデオなども含まれる。

(これらも、上記GVRL同様、Catalog検索ではWeb Resourceという形で出てくる。逆に言うと、Formatを「E-BOOK」で検索すると出てこない。しかし、内容は実質的にe-bookだ。「本物の」e-bookで所蔵されている上にWeb Resourceでも所蔵されている場合もある。この場合は、e-bookが貸出し上限に達していてもWeb Resourceの方で読める。Web Resouceと言ってもグーグル検索で出てくる普通のウェブ上資料ではなくて、あくまでも図書館カードがないと入れないデータベース内部にあるウェブ資料だ。)

国外からアメリカの図書館経由でe-bookが読めるか

さて、このように素晴らしいアメリカの図書館のデータベースとe-bookだが、これを日本から使えるだろうか。日本ではあまりこうしたサービスは普及していない。ならばアメリカの図書館を使うか。

「非居住者」にも図書館カードを発行

多くの図書館が、「非居住者」(non-resident)にも図書館利用カードを発行している。その土地に訪問しただけでも一時的なカードは発行される。例えばニューヨーク公共図書館の場合、ニューヨーク州内居住者はすべて「居住者」扱いで(州内に学校、職場がある場合も同じ)、オンラインで申請するとEメールや郵送で図書館カードが送られてくる。州外居住者は「訪問者」(visitor)で、3カ月のカードが現地手渡しで発行される。国外からの訪問者もこれと同じで、International Visitorとして現地手渡しのカードが発行される。以上、すべて無料だ。

米国の他の多くの図書館で、料金を取って1年など長期のカードを発行している。モバイル版Wikipediaの「EBook Lending Library」の項にはそうした非居住者カードを発行する図書館の長いリストが載っている。米国都市を訪れる機会があったら、手続きしてみるとよいだろう。

現地に行かずに手続きできる図書館

さらに、そうした図書館の中で、現地に行かなくても、オンラインまたは郵送で非居住者図書館カードが取れるところもある。支払いはクレジットカードを使えるところも。上記Wikipediaには次の7館がリストアップされている

【非居住者にオンラインか郵送で図書館カードを発行する米国図書館】

USA Libraries that offer cards online or by mail, to non-residents(MobileRead Wiki – EBook Lending Librariesより)

Brooklyn Public Library, NY 1年$50(料金)
Charlotte-Mecklenburg County, NC 1年$45
Enoch Pratt Free Library, MD 1年$50
Fairfax County, VA 1年$27
The Free Library of Philadelphia, PA 1年$50
Houston Public Library, TX 1年$40
New Orleans Public Library, LA 1年$50
Orange County Library System, FL 3カ月$75, 6カ月$100, 1年$125

図書館向け電子書籍配布事業大手オーバードライブも似たリスト(若干違う)をウェブ上に掲示し案内しているので、電子書籍提供側でもこうした地域外からのアクセスを容認(推奨?)しているということか。また、このブログも、なかなか詳しく調べてくれているようだ

国外から非居住者図書館カードが取れるところも

上記のリストに我がブルックリン公共図書館も入っているのだが、ウェブページを見ると、「現時点では国外居住者からの申請は受け付けていない」とあるので日本からは手続きできない。他の図書館についても、実際には現地での受け取りやID提示が求められたり、オンライン申請で外国住所が記入できないなどで実質的に国外からはだめな場合が多いようだ。

しかし、フィラデルフィア自由図書館とオレンジ郡図書館(フロリダ州)の2館は、これらをクリアし、国外居住者でも受け付けていた。後者は申請ページの住所欄にきちんと「米国外」という選択肢がある。ちょっと途中まで試してみたが、料金支払いもクレジットカードでできるようだ(必要ないので申請はしなかった)。

前者のフィラデルフィア自由図書館については、何とすでに2011年に実際に使えるかどう試した日本の人が居た(「Fionの与太話:日本にいながらアメリカの図書館で電子書籍を借りる」2011年09月26日)。非常に尊敬する。結論は使えるというものだった。現在でも同館の方針は変わっていないようなので、大丈夫だろう。詳細はFion氏のブログを。

米国の図書館は、自分の管轄地域外を差別的に扱うと、図書館の理念に反するということで図書館団体などから仲間外れにされるようだ。カリフォルニア州サンタモニカ市の図書館は2013年に域外居住者の図書館カード取得に25ドルの料金を課すようになったが、広域図書館連合体から資格停止にされ、州からの補助も減らされ、結局2016年に課金を廃止した。上記リスト中のシャーロット・メクレンバーグ図書館は、郡外居住者のカード取得に45ドルを課金することについて「郡民が図書館支援のため払う不動産税にほぼ等しい額だ」と言い訳をしている。

財政難の地域の図書館は域外居住者に課金して収入を得ようとするだろう。より高額の国外居住者料金も大いに取りたいところかも知れない。しかしそれでアクセスが増えすぎ、e-book貸出しが満杯になったり、機器増設が必要になったりすると元も子もない。利用状況を見て遠方からの利用は停止するだろう。

アメリカの図書館に日本語のe-bookも

多民族国家・米国の図書館は多言語に対応していて、どの図書館でも地域に多い民族集団の言語の本を一定程度用意している。私のアパート近くのサンセットパーク分館にはスペイン語と中国語の本が多い。隣のボローパーク分館にはロシア語の本が多い。e-bookも多言語化していて、ニューヨークの場合はやはりスペイン語と中国語が多い。だが、日本語のe-bookもある。

ニューヨーク公共図書館では、上記Advanced Searchで言語(Language)も選べるようになっていて、Japaneseとし、検索キーワードを(漢字で)「東京」と入力すると1625件ヒットする。明らかに日本語の本だ。ローマ字で「Tokyo」と入力すると3264件出てくるのは、キーワードなどがローマ字(英語)で入っていてより多くヒットするからか。さらにこれのFormatをE-BOOKにして検索すると4件出てきた。1冊は日本語会話の本だが、残り3つは、DOS/Vパワーレポート編集部『秋葉原周遊ガイド :パワレポ推奨!秋葉原の步き方』、西村京太郎『パリ・東京殺人ルート』、同『熱海・湯河原殺人事件』だった。さっそく借りて読んでみることにしよう。

米国図書館で本格的な中国語e-book

日本人移民・居住者がもっと多くなれば日本語の本、e-bookも充実してくるだろう。しかし、スペイン語、中国語などは、すでに現段階で、アメリカの図書館経由で相当の情報が得られる段階に来ている。例えば、ニューヨーク公共図書館とブルックリン図書館は「ドラゴンソース龍源期刊」(Chinese E-Journal Collection (Qikan))を導入している。中国版のdマガジン、Flipsterといったところだ。日本でもジェトロ図書館が導入したらしく、「中国で発刊される月
刊・週刊の約 2/3 にあたる 2000 タイトル以上、500万記事を収録」と解説している。

ニューヨーク市の中でも最近はフラッシングなどクィーンズ区での中国系人口が急増しており、そのためクィーンズ区図書館には台湾系のe-book、e-magazineのデータベースHyReadが導入されている。フラッシングはもともと台湾系のチャイナタウンだったため、台湾系のシステムになったと思われる。e-bookにして1,121冊、e-magazineで13,045冊の貸出しが可能になっているようだ。部分的な試し読みなら図書館カードがなくてもできる。

アマゾンとの競合、国境を越えた競合

まだ窓口は限られているが、国外から料金を払って米国図書館ネットにアクセスできる機会が拡がれば、その際、まずはアマゾンのKindle Unlimitedなど商業ベース「有料会員制図書館」と競合するだろう。Kindle Unlimitedは月9.99ドル、同時貸出し10冊までなので、現在のところは、米国図書館非居住者カードの方が条件は良い。コンテンツも、少なくとも英語情報に限れば、データベースを含め図書館ネットの方が充実しているだろう。

ネット時代の電子図書館は、国境の壁を越える。一か所で電子的環境の整備が遅れていれば、進んでいるところからいくらでも情報を得られる時代だ。日本語情報の多くがアメリカを通じて提供されるような事態にだけはなってほしくない。