「世界中の人が一度は訪れたいと思う景勝地」
同じニューヨーク市内に住む息子夫婦に誘われてナイアガラの滝に行った。同市西へ500キロ、カナダとの国境地帯にある「世界三大瀑布」の一つ。幅1.2キロ、落差51メートルは南米のイグアス滝(南米、2.7キロ、82メートル)、ビクトリア滝(アフリカ、1.7キロ、108メートル)にかなわないが、年間平均水量2,407トン/秒は世界最大だ。(落差では三大瀑布に入ってないベネズエラのエンジェルフォールの978メートルが世界一。何につけ「三大…」はもともと日本独特の表現で世界的には言われていない。)
『地球の歩き方』を見ると、「世界一有名な滝」「世界中の人が一度は訪れたいと思う…景勝地」などとある。近くに1年半も住んでいたのに、なぜこれまで自分からは積極的には行かなかったのか、不思議になった。自然よりも社会・歴史に興味があるから? いや自然にも大いに興味がある。ただ、街の緑や近くの公園、青空や星空、など身近な自然に興味が向く。
晩秋の10月半ば、ニューヨークから夜行バスで行って夜行バスで帰ってくる「日帰り」旅行。ナイアガラ近接のバッファローまで片道10時間ほどで、夜行にはちょうどよい。現地でも有り余るほど時間があり日程的に余裕。ただし若者にはちょっときついだろうから、日帰りなら飛行機にした方がいい。グレイハウンド・バスで往復130ドル。ボストンまで往復23ドルなど格安の「チャイナタウン・バス」もバッファロー行きはグレハンとあまり変わらなかった。
往復夜行で途中の景色が見られないのが気がかりだったが、行きにバッファロー手前で明るくなり景色を見て納得。高速道路のまわりに森と草原がずっと見えているだけ。そう言えば、前にボストンに行ったときも同様だった。
小雨混じりの曇りの日。滝のしぶきか雨か区別しにくい天気だったが、ダイナミックな滝は十分満喫できた。ヒネた観察者の私がこのナイアガラをどう見たか、下記に報告。
大河の底が抜ける
もっとも度肝を抜かれたのは、滝自体よりも、そこに至る川の広さだ。ナイアガラの滝は、五大湖の一つエリー湖とオンタリオ湖を結ぶナイアガラ川の途中の崖線にできた。そのナイアガラ川が、揚子江やメコン川にも似て、対岸がはるかかなたの大河なのだ。流量は利根川河口の8倍。もうすぐ行くと、この広大な水面の底が抜けて水全部が落下する、と思うと、滝を見る前から衝撃を受けた。
都市の中にある滝
ナイアガラの滝に行って意外なのは、この滝が都市部にあることだ。滝の周囲、アメリカ側にもカナダ側にもその名も滝名と同じ「ナイアガラフォールズ市」がある。両方の市で人口計13万。それなりの中規模都市で、ホテルなど高層ビルも多い。観光客は皆、滝の方にカメラを向ける。だから大自然の中の巨大な瀑布のイメージが広がる。しかし、実際は都市の中。特にカナダ側の都市化が進み、歓楽街化している。
滝はなぜ国境にあるのか
滝はなぜ国境にあるのか、と息子に聞かれた。彼らが行ってきた南米イグアスの滝もアルゼンチンとブラジルの国境にあったという。なるほど、三大瀑布のもう一つ、ビクトリア滝もジンバブエとザンビアの国境にある。ベトナムで最も有名なバンゾック滝(落差30メートル、幅200メートル)も北部の中国国境にあった。対岸に中国人観光客がたくさん来ていた。かの地では徳天瀑布と呼ばれるという。
滝は大地の断崖。人の交通を遮断するために、国境にもなりやすいのであろう。
人生の境目
水が真っ逆さまに落ちるまさにその境界面(下記写真)をずっと見ていた。気づかずに次の瞬間に奈落の底。人生にもこういう境目の瞬間があるのかも知れない。しかし、不思議だ。もし人間がこんなところに落ちたら最後、数秒後には即死だ。しかし、水はこの断末魔に平然と身を投げ、滝つぼではまた平静に返りゆっくりと流れていく。死んだり外傷を負ったりしない。人知を超える世界を生き続ける水たちよ。