名峰ディアブロ山に登る

サンフランシスコ都市圏(ベイエリア)の名峰ディアブロ山(Mt. Diablo, 1173メートル)。コンコードの平原の南にそびえる。BARTのウォールナット・クリーク駅ホームから東方に望む。(ベイエリア9郡の最高峰はリック天文台のあるハミルトン山<1327メートル、南部サンノゼの東>だが目立つ存在ではなく、これを含めた湾岸東部山地はディアブロ山脈Diablo Rangeと呼ばれている。)

サンフランシスコ上空から撮ったディアブロ山。ベイブリッジの先にオークランド、イーストベイ山地があり、その先にディアブロ山。プロが撮ると、このような素晴らしい写真になる。Photo: Jitze Couperus, 2010 (Flickr, CC BY 2.0)

サンフランシスコに来ても、ベイエリア(サンフランシスコ都市圏)のシンボル的存在ディアブロ山に登らないなら来たとは言えない。頂上まで車で登れるが、もちろんそれはだめ。歩いて登る。若いもんには無理だろうが、年寄りにはできるぞ。

そう勇んで8月31日、家の南の山を目指した。(実は、慣れないテニスの特訓をやって肩を亜脱臼した。上体を使うスポーツができないので、山登りをしよう、と思い立った。)

計画性がない

家を出たのが午後2時。いやしくも1000メートルを越える登山をするのに午後2時出発は遅い。計画性がない。おまけに、年金生活に入り曜日の感覚もなくなったくらいだから、時間も平気で1時間は勘違いする。山麓の町(クレイトン)まで行く週末2時間に1本のバスに遅れ、途中までしか行かないバスに。大したことはない、歩こう。というか、午後2時の出発では、山から下りるのが夜9時過ぎになり、帰りのバスはなかった。家まで1時間半を歩いた。

普通、登山はしない

いつも通り、前置きが長くなるが、私は海外放浪の旅はしても、普通、登山はしないことにしている。私の放浪の旅は朝から晩まで徹底して歩き、登山と同じようなものなのだが。

行き当たりばったりで、出たとこ勝負。しかも一旦出ればどんどん無理してとんでもないところに行ってしまう。それでも、放浪の旅ならせいぜい路頭に迷うだけだが、これが山登りだと遭難になり、命も危うくなる。だから私は登山はしない。放浪の旅だけにしている。今回珍しく山登りすることになったが、何やら最初から、危うい気配だ。

山麓の町クレイトンから南方向に見たディアブロ山(中央奥、標高1173メートル)。ディアブロ山州立公園入口に至るミッチェル渓谷道路から。ディアブロ山は都市圏に近く、周囲に高い山がないため、頂上からの眺めがいい。西は金門橋やサンフランシスコの高層ビル、東はカリフォルニア中央平原や300キロ離れたシエラネバダ山脈の4000メートル諸峰まで視界に入る。関東平野で言えば筑波山(877メートル)、名古屋圏なら猿投山(629メートル)、ハノイ都市圏ならタンダオ山(1592メートル)といったところか。(例の出し方が偏っているな…) 当地の先住民族ミウォックやオローンの人々もこの山に特別の思いを込め、世界はこの山から生まれたとの神話をはぐくんだ
ディアブロ山州立公園のミッチェル渓谷登山口。舗装されたミッチェル渓谷道路がそのまま砂利道の登山道に移行する。

州立公園に入ってからもミッチェル渓谷路はかなり広く、四輪駆動車なら通れそうだ。「消火道」の位置づけ。山火事の際はブルドーザーなども登るようだ。カリフォルニアは山火事が多く、消火活動のためこうした道が結構奥まで入っている。この7月にもディアブロ山頂付近で1.6ヘクタールを焼く山火事があった。1977年の大火事の際は山の南面1260ヘクタールが焼きつくされた。その時の写真を見ると山全体が燃え上がっているかのよう

この消火道は、ミッチェル渓谷沿いを通る道なのだが、川は干上がっている。カリフォルニアは夏季、ほとんど雨が降らない。
次第に高度が上がり、地上が見渡せるようになってきた。北方のノースベイ方面。
ディア・フラット(鹿の平地)と呼ばれる地点に着いた。ハイカーたちの休憩地。昔はここに鹿が群れていたか。ここから道は、メリディアン尾根路とディア・フラット路に別れる。右手のディア・フラット路に進む。
次第に地上の眺めが雄大になってきた。緑の平野はコンコードの街。傾斜も急に。日差しが強く、暑い。2本持って来たスポーツドリンクがそろそろ切れる。土曜日なのにほとんどハイカーに会わない。ここまでで、下りの3組だけ。この辺で4組目に会った。「頂上までどれくらいか」「あと3マイル(5キロ)だ。」
尾根線に出た。山の向こう側(南西側)が見えた。写真中央にかすかにサンフランシスコの高層ビルが確認できる。もう3マイルは登って来た。頂上は近いだろう。直後に5組目の下山組に会って聞く。「頂上はあとどれくらいか」「3マイルだ」。変わりなしか。人の感覚はあまり頼りにしない方がいい。
頂上に着いた。駐車場やビジターセンター(左)がある。飲料用の水道もあったのには助かる。ディアブロ山には南の方から舗装道路が通り、車でも簡単に上がってくることができる。階段の上に展望台。
展望台から西方向を見る。イーストベイの山並みの向こうに、かすかに半ば霧に隠れたサンフランシスコの街。霧がなければ金門橋も見えるはず。ディアブロ山からは、サンフランシスコ湾にかかる8つの橋が視認圏に入るという。
シリコンバレーのあるサウスベイの方向。
北東方向には、間近に友峰のイーグル・ピーク(722メートル)がある。その先にサクラメントなどのあるカリフォルニア中央平原(サクラメント平原とサンワキン平原)。関東平野が5、6個入る大平原だ。その向こうにシエラネバダの4000メートル峰が見えるはずだが、霞んで見えない。空気は澄み、雲もまったく出てないのだが。 このイーグル・ピークの向こう側を登ってきた。下山の際はこの手前側を下りることにする。
中央平原側から見たディアブロ山を描いた19世紀の絵画。ちょうど、上記写真の平原からこちらを見た構図になる。John Ross Key, “Mt. Diablo, San Joaquin Valley,” 1872, (Flickr, CC BY 2.0)

 

日が陰ってきた。時計を見るともう午後7時だ。いくら下りだと言っても、山を出るまでに暗くなってしまう。険しい山道のノースピーク路を下りていく。
プロスペクターズ・ギャップ路からメリディアン尾根路に入るあたり。夕暮れになってきた。道の分岐点で間違うと大変なことになる。標識と地図を入念に確認しながら進む。サンフランシスコ湾の北部、スイサン湾方面が見える。
まだ、下山半ば。ほぼ暗くなってきた。もう写真は無理。

星明かりで山歩き

「星明りで歩く」と言うが、不思議なもので、実際、星しか出ていないのに、白い登山道がぼんやりと浮き立つ。極細の新月はすぐ沈んでしまった。尾根線では街の灯がわずかに届くかも知れないが、谷側の道だとそれもなく、雲のない乾いた空から照り返しが来るとも思われない。しかし、かすかに道が見えるのだ。急斜面の道では足元がおぼつかなく、乾いた土や砂利が滑る。しかし、それさえ注意していればなんとか歩ける。夜空に展開する北斗七星と北極星で方向も正確にわかる。

マウンテン・ライオンを怖がる

暗くなると、怖いのはマウンテン・ライオン(ピューマ、コヨーテ)だ。ディアブロ山系でも出没すると聞いた。まだ明るいうちに鹿が目の前の登山道を横切るのを見た。鹿が居るならその捕食者マウンテン・ライオンも居るだろう。谷に近い藪側だと急襲されて藪に連れ込まれると思い、崖壁側を歩く。

標識のところで、スマホを点けて順路を見ようとしたとき、近くの藪でガサガサと大きな音がして動物らしきものが動いた。半ばパニックになって「わおわお」と大声を出し、スマホの明かりをかざして振り回した。

何ごとも起こらなかった。鹿だったかも知れないし、ウサギやタヌキのような動物だったかも知れない。リスのような小動物の音ではなかった。怖くなって以後はできるだけスマホの明かりを点けて進んだ。

中古のスマホを捨てないで予備に持ってきていた。これは正解で、予備バッテリーなどを持ってくるよりよほど使い勝手がよい。通信機能のある新調スマホはできるだけ使わず電池をもたせる。中古スマホで写真を撮り、時間を調べ、こうして夜道の明かりにもする。2個で何とか下山するまで文明機能を維持させた。

夜の街でもほっとする

ディアブロ山州立公園を出たのは午後9時半。すでに帰りのバスはないので、そこからさらに1時間半歩いて家に帰った。山頂から家まで直接歩いてきたことになる。往き(登り)5時間半、帰り(下り)3時間半、計9時間歩いた。

家に向かうクレイトン通りは車交通が多い。野蛮な機械が疾走するこんな環境でも、マウンテン・ライオンを恐れて歩くよりはまし、と思えた。夜の山の不気味さから、犯罪もある人間の夜の街にたどり着いてほっとする私が少し悲しい。


実際の行き方

上述の通り、ディアブロ山には南からのアクセス道路を通じて山頂まで車で登れる。しかし、自分の足で登りたいという人は、紹介した通り、ミッチェル渓谷登山口(Mitchell Canyon Staging Area)から登り始めればよい。そこに行くにはコンコードの中心部からClayton Roadを約10キロ南東に行きMitchell Canyon Roadを右に折れて約2キロ進む。駐車場もある。

が、もちろん、ここは公共交通機関で行く方法を伝授しておく場だろう。その場合は、私が帰路通ったルートをとる方がバス停に近く、全体として登山行程も短くなる。Donner Creek Fire Road > Meridian Ridge Road > Prospector’s Gap Road > North Peak Trail > Summit Roadと進む。

ビジターセンターもある主要口のMitchell Canyon Staging Areaでなく、マイナーな登山口Regenccy Gate Trailheadから入ることになる。

コンコードまでBART、クレイトンまで郡バス

サンフランシスコなどから行くには、湾岸高速鉄道(BART)でConcordまで行く(Wallnut Creekなどから行く方法もあるが、行程が長くなるので省略)。コンコード駅前から10番の郡バスに乗る。同じ10番でもディアブロ山に近いClayton市内まで行くバス(Clayton Library行き)と途中までしか行かないバス(Washington Boulevard行き)がある。バスが通っていく道もClayton Roadなのでいろいろ混乱しやすい。週日の場合、Clayton Library行きはほぼ1時間に1本(10番の時刻表、ルート図参照)。週末はバス番号が310に変わり、ほぼ2時間に1本になる(310番の時刻表、ルート図参照)。バスが実際にあと何分で来るかなどは、郡バス・サイトのBusTrackerで細かく調べられる

El Molino Parkバス停から登山道

バスはMitchell Canyon Roadとの交差点でも停まるので、主要登山口Mitchell Canyon Staging Areaに行くには、そこから車道を約2キロ歩いていく。しかし、バスはさらに山に近いところまで行ってくれる。Clayton市内に入ると、ぐるりと街を一回りしてClayton Libraryが終点。そこで4~5分時間調整して、今度は街を回らず直接コンコードBART駅の方に帰る(つまり一方通行で市内一周するのみ)。登山するには終点まで行かず、市内のMarsh Creek Roadに入ってから3つ目のEl Molino Parkのバス停で降りる。そこから実質的に登山道と言える「散歩道」を約1キロ歩いて行けば州立公園入口(Regency Gate Trailhead)に着く。

このバス停(El Molino Park)で降りる。バスがクレイトン・ロードからMarsh Creek Roadに入って3つ目の停留所。このすぐ手前右手に、登山口に至るアクセス路がある。
バス停(左端、ベンチがあるあたり)を対岸から見た所。この右手み見える散歩道を入って行く。バス停の50メートルほど先に、別の散歩道(もしかしたらもっと気分よさそうに見える)があるが、それと間違わないように。
散歩道は最初、El Molino Driveに沿って通っているが、やがてそこから離れていく。
前方にディアブロ山が見えてきた。まだ州立公園に入っていないが、すでに登山道のおもむき。この辺になると「散歩道」はDonner Creek Fire Roadと呼ばれ、州立公園に入ってからも同名登山路としてずっと続いている。
州立公園の入り口(Regency Gate Trailhead)。マイナーな入口らしく、事務所も駐車場もない。(私が登山したときには、下山時ここから出てきたことになる。) 谷沿いの道があるだけで、両側高台からの道路は切れており、車では来れない。これ以降の登山ルートは、掲示板に掲げられた地図、各種ガイドブック、ウェブ上の情報(例えば、このハイキング地図など)を参照してほしい。