人類の少子化:究極の原因

現代社会で出生率が減る原因は実に簡単なことだ。避妊具とピルが普及したからだ。こんな簡単なことをそのまま言うとあまりにも単純すぎて笑われるのでだれも言わない。しかし、真実はそれだ。

かつて、ヒトを含む生物(有性生殖動物)は、性欲に駆られて動き、結果としていつの間にか子どもを得ていた。別に子どもが欲しいと思ったわけではないし、子づくりしようと行動したわけでもない。生物をほったらかしにしていたら決して子づくりなどという面倒なことをしない。だから神は、「性欲」という実に不思議な欲望を生物に与え、いつの間にか子孫繁栄させる仕組みをつくった。いや、進化論的に正しく言うと、性欲という形質を得た生物がより多数の子孫を残して存続し、そういう形質を持たない生物は子孫をあまりつくれず滅亡した。

現在、人は子どもの出生をコントロールできる。子どもをつくりたい、という欲求をもつ人ももちろん居る。しかし、多くない。だから少子化になる。何か強い経済的インセンティブでも与えない限り、人はそうは自主的に子どもをつくるようにはならない。

しかり。子どもは可愛い、いとおしい。大切に育てたい。それも本能だ。そういう育成本能も生物は獲得した。それがない生物はやはり滅んでしまったろう。しかし、それは、子どもが目の前に現れて初めて強く表れる感情ではないか。何もないところで子どもを得たい、特に、一般的な「子ども」でなく「自分の子ども」をつくりたいという欲望をヒト、生物はどれくらい強く持つだろうか。

「利己的遺伝子」に駆られるという論に沿っていえば、生物は性欲に駆られていつの間にか子どもをつくってしまい、利己的遺伝子の世代を超えた存続に奉仕してしまっている、ということだ。かの利己的遺伝子が、個々の生物体に「子どもが欲しい」「子孫を残したい」という目的意識を明示的に与えるわけではない。

生物にとって、子どもは自分の食いぶちを減らす存在だ。足手まといになって捕食者から狙われるリスクも高める。歴史の長い時代において、出産は時に妊婦の生命も脅かす危険な行為でもあった。そういう不利に抗して、なおかつ自分の子どもを得たいという「本能」が生物にはどれだけあるか。あまりない。だから性欲が導入された。性欲をばかにしてはいけない。これぞ自然界の究極のマジック。

現代人だって、子どもはかわいいとは一般的には思うだろうが、「経済的に言って育てられるか」で、子づくりを躊躇する。現代社会の中で自分以外に人が何人か増えて基本的文化生活を確保できる自信がない。だから子どもをつくれない。「自分の食いぶちが減ってしまう」ことと原理的には同じだ。だから、子どもの出生をコントロールできなるなら、子どもをつくらない。性欲は性欲として別に確保する。

性欲と子孫づくりを区別できるようになった生物は人間だけだ。子どもの出生をコントロールできるようになったのは人間だけだ。性欲という神の与えた子孫繁栄のマジックを台無しにし、性欲をそれだけのものとして享受することを覚えたのは人間だけだ。だから、人間は当然絶滅に向かう。だれも子どもをつくらない。いやつくりたい人も確かに居るが、総体として、統計的に言って、十分に多くはない。子孫存続させるだけの数を性欲マジックほどには確保できない。子孫は徐々に減少し、やがて絶滅する。よいことだ。こうして地球環境を荒らしまわった人間は、地上から消え去る。


と言いながら、上記で解決策もほのめかしてはいる。性欲マジックを失った人類は新しい子孫繁栄の仕組みをつくらなければならない。つまり、子をつくることの経済的インセンティブを社会として設けなければならない。単刀直入に言えば、子どもをつくったらカネが入る、損しない、もうかるという仕組み。これをつくれば存続できる。

そう言ってしまっては身も蓋もないか。より上品に言えば、子どもが育てられる経済的基盤を確保する、ということだ。子どもはすばらしい。それを育てることは、生きる喜びの頂点の一つとも言える。その喜びを余計な心配事なく、自然に実現できるような仕組みを「社会的に」作り出していく必要がある、ということだ。それなしには人類は絶滅する。それでもいいが、できれば存続してほしい。

性欲マジックに匹敵するような強力な子孫繁栄の仕組みを獲得するのは相当困難な課題だ。あなたもその点だけは十分に理解するだろう。人類社会、がんばってくれ。

(補足)
*実際には、絶滅が近づくころには、避妊手段を確保できる文化・産業レベルを失うことが予想されるので、再び性欲マジックが機能し個体数は回復する可能性がある。
*少子化には、例えば東アジアで最も急速に進む、など文化・社会的条件が大きく作用する。しかし、それは本質的過程のスピード増減に関与するだけで、普遍的な流れは人類共通。全人類が同じ原理の下に消滅に向かっている。
*その他、スピード増減に関与する要因として、都市化(文化的享楽的水準の高い地域ほど、食いぶちの減り方が大きく少子化になる)、社会の近代化・産業化(同様の理由 +避妊手段の広範な普及・利用も可能にする)、若者の非正規雇用の増加その他の社会的経済的要因、などがある。あくまでもスピード増減に関与するだけで、基本的流れは変わらない。
*ヒトは、性欲マジックだけでなく、結婚・家制度・倫理などで一定程度、子づくりコントロールを行ってきた。しかしたとえそれが完全に機能したとしても、十分な避妊手段がない限り、性欲マジックが機能してきた。(つまり家族内多産が確保されていた。)
*前近代社会にも、多くの危険を伴いながらの避妊、堕胎の技術はあったし、間引き(子殺し)などの風習さえあった。しかし、それは「出生コントロール」として不完全・かつ例外的(逸脱的)なものにとどまった。