宝島(Treasure Island)探検 ベイブリッジ・サイクリング

トレジャーアイランド(宝島)から見たサンフランシスコの高層ビル街。ツインピークスと並び、同市中心街の眺めが最もよい場所だ。トレジャーアイランドは、サンフランシスコとオークランドを結ぶベイブリッジの中間にある島。ここまで橋の東半分には自転車道があり、サイクリングで来れる。
自然島ヤルバブエナ島(中央)と人口埋め立て島トレジャーアイランド(右)の航空写真。東から西を見ている。後方に霧のかかりはじめたサンフランシスコの街並みが見える。その手前に湾があり、ベイブリッジが東のオークランド方面に向かっている。厳密に言うと、橋はヤルバブエナ島で中継され、トレジャーアイランドはそこからの細い陸橋でつながっている。2003年の写真なので、まだ橋東半分は旧橋のまま。サンフランシスコの高層ビルもまだ多くない。写真:Jitze Couperus, Flickr, (CC BY 2.0)

橋の半分まででも行こう!

毎度、土曜テニス会後のサイクリング。6月12日は、宝島探検に出かけることにした。サインフランシスコとオークランドをつなぐベイブリッジ(全長7.18 km、1936年開通)の真ん中に宝島があるのだ。橋はヤルバブエナ島という自然島で中継されているが、それに接続して人工の埋め立て島トレジャーアイランド(宝島)が、1939年ゴールデンゲイト国際博覧会のためにつくられた。

いや、さほど面白い島というわけではない。博覧会後、海軍基地などに使われた後、現在では廃墟のような建物が並び、約1800人の一般住民が古い借家に暮らす何だか寂しい島だ。ただ、この島までのベイブリッジ東半分に自転車道があり、ここまでなら自転車で行ける。東半分は1989年のロマプリエタ地震で橋げた陥落などの被害があり、2013年までに全面的に建て替えられた。その際に歩道・自転車(Bay Bridge Trail)も設置された。

西半分は壊れなかったので自転車道のない旧橋のまま。したがって、ここを伝ってサンフランシスコまで自転車で行くことはできない(残念!)。しかし、まあ半分まででも行けるならば、行かないわけには行かないだろう。コンコードの自宅からテニス会場エリセリートを経てトレジャーアイルランドまで自転車、最後のベイブリッジ西半分は自転車ごとバスに乗ってサンフランシスコへ。不完全ながら、コンコードからサンフランシスコまで約70キロ自転車ルートを体験する試みとなった。

地図:OpenStreetMap, (CC BY-SA 2.0)
湾東のエリセリートからバークレー付近まではBART高架線下を走る良質の散歩・自転車道(Ohlone Greenway)がある。写真のバークレー市内Gilman Streetで右折し(写真左へ)、海辺(湾岸)の自転車道に向かう。
途中、スポーツ用品のノースフェイス・アウトレット店があった。個人的な思い入れで申し訳ないが、20代の頃、留学を終えて世界一周の貧乏旅行に出かけるとき、ここで寝袋を買った。今でも覚えているが、当時で200ドルして、とても高かった。くやしいー!と思ったのだが、さすが品質折り紙付きのノースフェイスだ。以後の荒旅行、家や出先での貧乏暮らしに立派に耐え、40年後の現在でも現役で活躍してくれている。私の人生とともに歩んできた寝袋で、これは私の来世への旅にもぜひ持参したい。
海(サンフランシスコ湾)に出た。写真ではわからないが、強い風が吹き、寒かった。この日、コンコードは30度を超えたが、この辺は10度以上低かった。金門橋のあるゴールデンゲート海峡(写真左方向)の割れ目から北太平洋の冷たい霧がバークレー近辺にぶち当たる。それがなければ猛烈に熱くなるベイエリアも、おかげで適正気温に調節されている。しかし、この辺はその空調吹き出し口で、震えあがるほどの寒さだ。
その海岸にそって良質の自転車道が走っている。左側には側道をはさんで州際高速580号線。この高速を渋滞に悩まされながら車を走らせている諸君も多いだろう。そのすぐ隣にはこうした快適なサイクリング道があるんだぜ。
海岸部は自然植生が保護され、渡り鳥なども羽を休めている。はるかかなたにこれから行くサンフランシスコの高層ビル街が見える。
エメリービルまで来た。オークランドに隣接した小さな町(人口1万2000人)だが、ベイブリッジの入口にあたり、Amtrack鉄道の主要駅もあり、都市圏交通の要衝となっている。企業事務所、ショッピングモールなどの立地が進む。
一連のショッピングモールが並ぶ中、ひときわ大きいイケア店舗が目印になる(スウェーデン系家具チェーン)。
イケアの道路対岸にベイブリッジ自転車道の入り口がある(写真)。この辺はルートが複雑で迷うと思うが、イケアの前で自転車道に入ると覚えておけばよい。頭上には「メイズ」(迷路)と呼ばれる大規模な高速道路インターチェンジが張り巡らされている。何しろベイブリッジの入り口だから高速道路も一般道路も自転車道も複雑になる。
ベイブリッジへのアクセス自転車路に沿ってイーストベイ都市上下水道地区(EBMUD)の下水処理施設がある。湾東都市部人口74万人からの下水をここで処理し湾に流す。
ベイブリッジに至る高速道路のアクセス路。東方向を見ている。毎日ここを通り見慣れた風景になっている人も多いだろう。その南側に良質の散歩・自転車道が通っていることをご存じか。
いよいよここから自転車道の橋梁部分がはじまる。トイレ(右)もある。
自転車道の地図もあった。
これまで見た中で最高の自転車道だ。湾にかかる他の橋(金門橋、サンラファエル・リッチモンド橋、ダンバートン橋)、あるいはシリコンバレーやニューヨークの自転車道などでもこんな立派な自転車道は経験がない。真新しく、平らで広く、快適。振り返るとイーストベイの山並み、その麓のオークランドの街並み、オークランド港の港湾施設などが見える。
おお、哀れ、車ドライバーたちよ。こんな素晴らしい自転車ルートを走れず、ガソリンのお世話になっているのか。ベイブリッジを通るのは州際高速80号線。片側5車線。通常の(つまりコロナ禍でないときの)交通量は1日約26万台。
ベイブリッジの西半分(サンフランシスコ側)は主塔3カ所の吊り橋だが、2013年に新しく完成した東半分主要部(写真)は、単塔の自定式吊り橋(self-anchored suspension bridge 、ケーブルを桁に定着)。金門橋などと形が違い、美しくないと言われるが、強度は抜群で、M8レベルの地震に耐えられるという。
中間の島、ヤルバブエナ島に着いた。トレイルの最終地点から振り返って見る。
すぐ近くに「ビスタ・ポイント」(展望台)があったが、特に見晴らしがいいわけではない。旧橋のときには、ここがいい眺めだったのだろう。
トレジャーアイランドの方に降りていく。写真はその全景。埋め立てでつくられた人工島なので、平らな低地だ。温暖化の海面上昇で真っ先に水没する危険があるという。トレジャーアイランドという名称はRobert Louis Stevensonの小説Treasure Island(宝島)からとられた。作者Stevensonはスコットランド出身の英国人だが、1879年から1880年にサンフランシスコに住んでいたという。
トレジャーアイランドに降りてきたところ。この北側の海岸部(クリッパー入江)からサンフランシスコがよく見える。夜景もすばらしく、普通ならツアーバスがたくさん来ている。
上記地点付近からみるサンフランシスコの高層ビル街。左に、ヤルバブエナ島からかかるベイブリッジの西半分。この日は、太平洋側からの霧がさほどは張り出しておらず、景色がよく見えた。
ゴールデンゲート橋(金門橋)の方向。右手前に湾内に浮かぶかつての刑務所の島、アルカトラズ島。
トレジャーアイランドの入口付近にある管理棟ビル。かつて計画のあった飛行場のターミナル用につくられたが、海軍基地化により海軍本部に(Building 1)。1976年から1997年までは博物館。現在、市の開発局、開発業者、住宅管理会社、NPOその他の事務所が入る。再開発で再び博物館にする計画がある。2008年に国家歴史登録財に指定されている。
昔の兵士住居と思われるような住宅やアパートに一般人が入居している。約1800人が住むがすべて借家人で持ち家の制度はないという。環境は寂しげだが、サンフランシスコ都心まで車で10分というのは抜群の住環境かも知れない。
トレジャーアイランドの外周に散歩・自転車道が通っている。かなり先まで行ったところからのサンフランシスコの眺め。
イーストベイ(湾東)側の眺め。バークレー付近。中央にマッチ棒のような塔が見える周辺がカリフォルニア大学バークレー校。
島内をまわっていると、人が少なく、年代物の建物が寂寞と立ち、SFで数世紀前の空間に迷い込んだような感じ。
同上。
ベイブリッジの東半分がよく見えるこの場所でお弁当。
トレジャーアイランドは行政域としてはサンフランシスコ市内に入る。同市の市バスMuniも来ている。ベイブリッジ西半分は自転車道がないので、市バス25番に乗る。アメリカの市バスは、自転車乗りでも、自転車をフロント部分に取り付け通常料金で乗れる。写真は市バスで橋を渡っているところだが、フロントの先に取り付けた自転車のハンドルが見えるだろう。
サンフランシスコ市内が近づいてきた。
バスはトランスベイ交通センター(Transbay Transit Center)に着く。2017年に完成したサンフランシスコの新しい交通拠点で、多くのバス路線の発着点となり、将来的にはカルトレイン鉄道や計画途上のロサンゼルス・サンフランシスコ高速鉄道(新幹線)の発着駅ともなる予定。ターミナルを出ると、いきなり写真のような高層ビル街に出る。
サンフランシスコ側からトレジャーアイランドに行くには、この交通センターから25番の市バスに乗ればよい。