サンタクララ市周辺、インテルなど サイクリング

ようやく膝裏のケガ(故障)が直った。土曜日のテニス会に復帰した(6月5日)。コロナ禍で中止されていたテニス会も2週間前から再開していた。例のごとく、湾東エリセリートまで3時間半かけて自転車をこぎ、3時間テニス。そして、また同じ道を3時間半かけて帰ってくる、、、のはちょっと芸がない。

特にこのかん「走れないが自転車こげる」状態で、あちこちサイクリングして味をしめた。テニス後はどっか他にサイクリングに行ってみよう。

ということでまたシリコンバレーに行った。BART北エリセリート駅からはオレンジ線1本でサンノゼ方面に行ける。そこからシリコンバレー主要部へは平坦で、快適サイクリングコースだ。

BARTが北サンノゼ(ベリエッサ)駅まで伸びて、湾東からのシリコンバレー行きは簡単になった。しかし、サンタクララ、サニーベイル、マウンテンビュー、パロアルトなどシリコンバレー主要部に行くには、一つ前のミルピータス駅で降りた方が近い。いや、サンノゼ中心部まで行くのにも、VTA路面電車(ライトレール)との接続があるので、ここで降りた方がいい(終点の北サンノゼ駅は接続しない)。BARTがサンノゼ中心部まで伸びるまで、しばらくはミルピータス駅が交通要所になるのではないか。

地図:OpenStreetMap, (CC BY-SA 2.0)

新装オープンしたBARTミルピータス駅

それまでウォームスプリング(南フリーモント)駅までだったBARTオレンジ線が2020年6月、北サンノゼ駅まで延長された。同時に、その一つ前のこのミルピータス駅も新装オープンした。シリコンバレーの東側は、このミルピータスやフリーモント周辺まで広がっていると言っていい。
プラットフォームは地下。
改札口を出たところ。だれだ、こんな自転車にテニスラケットぶら下げて乗ってくるやつは? テニス会の帰りだと、どうしてもこうならざるを得ない。暇な老人が、コロナへの注意がまだ必要な高速地下鉄にラケット下げて乗ってくる姿などあまり見せたくないのだが、幸いほとんど人が居ない。コロナの上にきょうは土曜日だ。大手を振って乗せてもらった。
駅前には自転車用の駐輪施設が整備されている。また渡り廊下の向こうには、サンノゼを中心にした路面電車(ライトレール)の高架駅があり、接続が便利だ。
BARTミルピータス駅の近くに「グレート・モール」がある。安価品を販売するアウトレット中心のモールで、北カリフォルニア最大規模。屋内型なので外から見るだけでは何だかよくわからない。写真はモールの端にある映画館。駐車場も広大で、このモール域に入り込んだため、方向感覚がおかしくなった。西に行くべきところ、北に進んでしまった。
道を間違えたので見られたミルピータスの古い街並み(南メイン通り)。ミルピータスは、拡大するサンノゼ市の吸収合併の動きから独立を守るため、1954年に自治体を結成。当時は人口800人程度だったが、都市化が進み、現在は8万人を越す。人口の6割以上が中国系、インド系などのアジア系。クパチーノも同じくアジア系が半数を超え、シリコンバレーはアジア系が多いのだ。
自転車は道を間違えると恐ろしく時間がかかる(間違わなければ意外と速い)。どこに居るかわからなくなり、地図を見たり、道路標識や主要建物を調べたり、、、などしているうちにどんどん時間がたつ(スマホ地図を見ろ、と言うなかれ。通信サービスに入ってない)。すでにかなり運動して疲れ、注意力が散漫になっていた。きょうはパロアルトまで行くのは無理だな、と観念。何やら、鉄条網に囲まれた刑務所まであった(写真=サンタクララ郡立エルムウッド刑務所)。こんなのには入りたくないぜ、とうめきながらグレートモール付近まで戻る。
真ん中に路面電車の走る大きな通りを西進(背後方向)していけばいいのだ。連続した道路だが、東キャピトル通り、グレートモール・パークウェイ、東タスマン・ドライブとどんどん名称が変わっていく。中央分離帯のVTA路面電車(ライトレール)はまったく走ってなかった。コロナのせいでなく、10日前(5月26日)、このVTA(サンタクララ郡の公共交通システム)のライトレール車両基地で銃撃事件があり、犯人1人を含めて10名が死亡した。その影響で運行停止しているのだ。まったく物騒なことで困る。サンフランシスコ圏(ベイエリア)では史上最悪の銃撃事件となった。
州際高速880号線(ニミッツ高速道)を越える。シリコンバレーにはこうした高速道路が縦横に走る。平地に広々とした住宅街が続き、このサンノゼ周辺に来るといつもロサンゼルスに来た気分になる。まあ、これがアメリカの典型的な都市なのだが。こじんまりと建て込んだサンフランシスコは例外的だ。

シスコ(Cisco)本社域

州際高速880号線を越え、さらにコヨーテ・クリークを過ぎると、サンノゼ市域に入る。同市中心部はずっと南だが、過去の活発な合併併合活動の名残でこの辺で北方に張り出し、海の方まで市域が続いている。

同市域内に入ると同時に、シスコ(Cisco)システムズ本社領域がはじまる。タスマン通り周辺に約20の中規模ビルが林立する。1984年にスタンフォード大学の技術者たちによって設立されたネットワーク機器企業で、LANを開発し、ネットワーク技術に強みを発揮する。下記表でわかるように、シリコンバレーでは、アップル、グーグル、フェイスブック、インテルに次いで5位の規模をもつIT企業だ。

シスコ本社ビル。
至る所にシスコのビルがある。
「シスコ・ウェイ」という道路もあれば、路面電車シスコ・ウェイ駅もある。

アメリカのIT企業ランク、2021年

順位 企業名 SV 創業 売上 市場価値
(単位:10億ドル)
1 アップル 1976 294 2,300
2 アルファベット 1998 182 1,500
3 マイクロソフト 1975 153 2,000
4 フェイスブック 2004 86 871
5 インテル 1968 78 264
6 IBM 1911 74 119
7 オラクル 1977 40 228
8 シスコ 1984 48 223
9 デル 1984 94 77
10 ブロードコム 1961 25 196
11 セイルスフォース 1999 21 214
12 クアルコム 1985 27 157
13 マイクロン 1978 24 102
出典:”The World’s Largest Technology Companies In 2021,Forbs, May 13, 2021.
世界20位までのIT企業ランキングのうち、米国企業13社のみを表記。◎印はシリコンバレー/ベイエリアに本社のある企業。企業順位は、売上、利益、資産、市場価値の4側面からForbs社が算定したもの。創業年はIBM以外すべて戦後で、しかも1970年代以降がほとんどだ。日本の大手IT・家電企業のほとんどが戦前からの大御所であるのと対照的。

サムスン電子米国本社

次いで見えてきたのが、サムスンの特徴ある10階建て建物。2015年に完成した同社DS(部品)部門のアメリカ本社ビルだ。韓国のサムスン電子(1969年創業)は、上記の米国IT企業のリストからは外したが、世界ランキングで見るとアップルに次ぐ2位の地位を占める。つまり、グーグルやマイクロソフトを上回り外国勢ではトップのIT企業ということだ。シリコンバレーでも存在感を示し、研究・開発機能を中心に事務所を拡大している。同社にはデバイス・ソリューション(DS)、モバイル通信(IM)、生活家電(CE)の3部門があり、DS部門は半導体、ディスプレイなどを対象とする。
サムスンDSアメリカ本社ビルは、他の多くのシリコンバレー企業と同様、オープンなつくりになっている。1階部分が広い屋外空間になり、だれでも入ってこられる。土曜日で会社は閉まっているが一般市民がベンチに座ったりしていた。
ナイトスコープ社製の警備ロボット(K5)が1階屋外空間を巡回していた。各種センサーを取り付け、犯罪を未然に防ぐ効果があるとされる。

インテル、サンタクララ市域に入ってる

そして今回のハイライト、インテル社の本部にやってくる。サンノゼ市域を出てサンタクララ市に入っている。シリコンバレーはサンタクララ郡域を中心にするが、そのサンタクララ郡内に同名のサンタクララ市もある、という構図。そしてこのサンタクララ市周辺には、インテルやAMD、ブロードコムなど半導体企業が集中している。サンノゼ市域のサムスンDSアメリカ本社もその一部と言えるだろう。
写真は、インテル本社ビル群のうちインテル博物館などが入る「ロバート・ノイス」ビル。この建物に見覚えがあり、1990年代に何かの取材で来たのだが、よく思い出せない。確か近くの市民団体を取材した際にこれを見て、「インテル本社がすぐ近いじゃないか」と思ったと記憶している。
インテル本社は、米西海岸の幹線路、国道101号線に隣接している。製品出荷のための必須なのだろう。
インテル本社ビル群をまわると、こんな工場のような建物もあった。インテルが半導体・集積回路をつくるハードウエア会社であることを思い知らされる。グーグル、フェイスブックなど他のシリコンバレー企業ではこうした「工場施設」はまず見ない。
同上。シリコンバレーのIT産業は、パソコン革命、インターネット革命を経て、すっかり「クリーン」なイメージに変わってしまったが、もともとはシリコンの「半導体」を製造する工場が集まる公害の街であったことを思い起こす(下記に詳述)。
もはや半導体製造の街ではないのだから、「シリコンバレー」も過去の言葉になったと言える。
面白いことに、インテルのすぐそばに、その商売がたきAMDの本社もある(左側のビル)。日立アメリカ本社ビルがそのすぐ隣(右)にあるのも面白い。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)本社。AMDは、もともとインテルのプロセッサを同仕様で提供するセカンドソースメーカーだったが、独自開発でインテルに匹敵するCPUを製造しはじめ、強力な競争相手になった。(かつてはやや離れたサニーベイル市内に、1 AMD Placeという社名をつけた住所に本社をかまえていたが、現在はインテル近くのこのサンタクララ市内住所に移転。旧本社建物も解体されている。)

シリコンバレーは汚染のバレーだった

1982年1月、フェアチャイルド半導体工場(南サンノゼ)からのトリクロロエタンなど有害物質漏れで付近の飲料水井戸が汚染されていることが発覚した。周辺で流産、未熟出産、先天性異常の多発なども報告された。シリコンバレー全体での地下水汚染が問題になり、住民運動が高まるとともに、連邦・州政府の規制が強まった。

1992年までの連邦・州の調査によると、少なくとも民間57、公共47の飲料水井戸がハイテク有害物質で汚染され、66カ所の土壌は歩行するのも危険なくらいに汚染されていることが明らかになった。調査された79ハイテク企業のうち65社で、工場敷地内の土壌汚染が確認された。(Jason A. Heppler, “Green Dreams, Toxic Legacies: Toward a Digital Political Ecology of Silicon Valley,” p.81)

米国には、深刻な土壌汚染地域を指定して(「スーパーファンド」地区)、汚染にかかわったすべての企業の責任と資金供出により、汚染除去を行う制度がある(1980年包括的環境対策・補償・責任法(CERCLA)と1986年スーパーファンド修正および再授権法(SARA))。全米にそうしたサイトが約1200カ所あるが、サンタクララ郡にはこれが現在23カ所あり、全米最多だ。現在、清楚な環境の中に立つグーグル・クアッド・キャンパス(本社の南東約5キロ)も実は、このスーパーファンド地区の上にあり、2012年末から2013年にかけて、有害気体が建物の中に漏れる事故が起こっている。

私も以前、こうしたシリコンバレーの汚染問題を告発する市民運動を取材したことがある。シリコンバレー有害物質連合(SVTC)が有名で、シリコンバレーの市民団体らしく、コンピュータを使った汚染地図作成・公開などに力を入れていた。

こうした汚染の過去を持つシリコンバレーについて、上記記事著者Jason Hepplerは次のように言う。

「グーグルやアップルはグリーンなIT拠点を謳歌し、太陽光パネルにおおわれたキャンパスを誇り、毎年、自社が行う環境保護諸施策のレポートを発行する。無論それらはは持続的環境と企業責任に対する誠意ある対応とも言える。しかし、1990年代初めに、シリコンバレーのIT企業はその製造活動を、環境規制が弱く労働力の安い地域に移した。彼らは、その産業の汚染問題を認識するかわりに、ハイテク産業の神話を再構築して環境持続性を前面に出し、ITは優れた人材とアイデアを求めるクリーンな産業であり、「グリーン」な資本主義の未来を国に示してきた、と論じている。」(上記資料、p.83)

インテルはグレートアメリカに近い

サイクリングでシリコンバレーを見て回ると、新しい発見がある。例えばインテルは、グレートアメリカのすぐそばにあるのがわかって面白かった。グレートアメリカは北カリフォルニア最大の遊園地。年間1800万人が入場するディズニーランド(ロサンゼルス近郊)にはかなわないが、サンフランシスコ都市圏では人気の行楽地だ。(入場者数は公開されていないようだが、最も人気あるアトラクションGold Strikerの2018年の利用が65万回人だったとの報告がある。)

インテルとグレートアメリカ、どういう関係があるのか。共に、余った土地があるところに立地したということでもあろう。グレートアメリカの面積は40ヘクタールでディズニーランドと同規模という。

外から、ジェットコースターなどが見える。
正面入口。5月22日に再オープンしたが、午後7時まで。出て来る人ばかりで入口はすでに閉まっていた。
グレートアメリカの近くにはリーバイス・スタジアムがある。アメフトのサンフランシスコ・フォーティナイナーズが2014年から本拠地としている。収容人数68,500人。
このスタジアムは2月9日から新型コロナ・ワクチンの大規模接種会場になっている。5月4日までに2回接種完了68,500人に達し、スタジアムの収容人数を超えたとの報告があった(接種回数でいうと25万回)。この日はすでに接種は終了して、会場にだれもいなかった。カリフォルニアではワクチン接種が進み、大規模会場より、身近なクリニックなどでの接種が中心になってきている。
そして、もちろん、スタジアムや遊園地には自転車道が伸びている(サントマス・アキノ・トレイル)。帰りは交通量の多いモンタギュー・エクスプレスウェイを通ってミルピータス駅に戻り、BARTでコンコードに帰った。