67光年先のアルデバラン

今アジアに居る。毎朝、家族が、居間のテレビをつけ朝ドラを見る音で目覚める。この間から「カムカムエヴリバディ」が始まった。音楽は森山直太朗作詞・作曲の「アルデバラン」だ。(つまりアジアの日本に居るということだ。)

これはやはり、直太朗さん自身の超名曲「桜」にはかなわない。しかし、「アルデバラン」という曲名には感動した。アルデバランは冬の夜空を飾るおうし座の一等星だ。今でも夜8時くらいになれば南東の空に出てくる。なぜこの曲名にしたのか知らない。だが、この朝ドラが続く冬の間、アルデバランはずっと夜空に輝いているだろう。この際、ぜひ星空を仰がないわけにはいかない。

アルデバランはオリオン座のすぐ斜め上、すばる(プレアデス星団)にも近い。太陽系から67光年先で直径が太陽の44倍。星空を見るのが好きな人はこの「アルデバラン」という言葉の響きに、遠い宇宙のロマンを感じる。きっと直太朗さんも星空を見るのが好きなんだと思う。

アルデバランは、アラビア語でアッ・ダバラーン(後に続くもの)の意未。美しいすばるの後から出てくるから、ということで名づけられた。英語のAldebaranも「アル・デーバラン」的に発音するのだが、日本語のように、「アルデバラン」と平坦に言った方が、ロマンがあると思うのだがいかがだろう。

1972年に打ち上げられた米国の惑星探査機パイオニア10号は、翌年に木星に接近して、その後も飛行し、現在は太陽系を抜け、このアルデバランの方向に向かっているという。2017年に太陽系を猛烈なスピードで通過した小天体「オウムアムア」は、実は他の恒星系から知的生命が派遣した宇宙船だったのではないか、という憶測がある。パイオニア10号も、アルデバラン恒星系を通過するとき、同じような憶測を同地の知的生命たちに抱かせるかもしれない。だが、それは約200万年先のことだ

アルデバランの探し方

まずは、オリオン座を探す。星空の中で最も目立ち、見つけやすい星座だと思う。あまり夜空に詳しくない人は、ここから始めるといい。特徴的な台形状の4つ星があり、その真ん中に3つ星が連なっている。今なら、ある程度上り切ってくる11時頃に南東の空を見るのがいいだろう。そこを起点にいろいろな有名どころの星が見られる。(今の時期だと、宵の口、南天に非常に明るい星が見える。木星だ。そのすぐそばに土星もある。オリオン座はそのずっと左で、少し遅くなってから上ってくる。)

冬の南天の夜空。オリオン座の右上にアルデバランが見える。下図:Elop using Stellarium (CC BY-SA 3.0), Wikimedia Commons

オリオン座の右上の方に明るい星が見えるだろう。それがアルデバランだ。そこから同じくらいの間隔で直線上右上に、薄ぼんやりとした星雲状の斑点が見える。それが「すばる」だ。日本でも、かの清少納言さんが枕草子で「星はすばる…」と書くなどと全天で最も美しい星(実際は星団)と見られてきた。夜の11時にはほぼ中空まで上がっている。都会では特に空気が澄んだ夜でないと見えないかも知れない。

「オリオン座」も「おうし座」も、なぜこれが「オリオン」(ギリシャ神話の美男子の巨人狩人)で、「おうし」に見えるのか分からない。星座というのは古代人の想像力で付けた名称だから、必ずしもそのものずばりの形をしている訳ではないのであしからず。

オリオン座の4つの星はどれも明るく、特に左上のベテルギウスは、もうじき超新星爆発を起こす可能性がある赤色超巨星なので有名だ。550光年先で直径は太陽の約1000倍。「もうじき」とは、つまり天文学的時間であと10万年のうちには、ということなのだが。

このオリオン座の下に、やけに明るい星が見えるだろう。全天で(太陽を除いて)最も明るい恒星、シリウスだ(8.6光年先、直径は太陽の1.76倍倍)。青白く光るのは表面温度が高い印だという(約1万度。太陽は6000度)。

このシリウスと、オリオン座のベテルギウス、そしてこいぬ座のプロキオンという別の明るい星で、見事な正三角形を形づくっている。「冬の大三角形」という。

星空初心者は、以上あたりを確認すればまあ最初のとっかかりとしてはいいのではないか。

子どもの頃からオリオン座を見てきたが…

星は(ほとんどは)恒星で、惑星と違って動かない。ずっとそこにあり星座の形も変わらない。

でも実は恒星も銀河系の中心を軸にまわっている。太陽系も毎秒210~217キロメートルで移動し、はくちょう座の方向に向かっている(銀河太陽向点。ヘラクレス座にある太陽向点とは別)。アルデバランその他の恒星も動いているし、遠い星と近い星では見かけ上の位置もずれてくるので、長い間には星座の形も変わってしまう。アルデバランは過去2000年間に、天球角度にして約7分(1度の60分の7。満月の4分の1に相当)移動したという。

子どもの頃からオリオン座を見続けていた。70代になっても夜ジョッギングをしながらオリオン座を見ている。こっちの人生がそろそろ終わりに近づいているというのに、オリオン座はまったく形を変えていない(ように見える)。ベテルギウスの超新星爆発さえ起こっていない。人の人生とはそんなにも短いものか、と無念の感に打たれる。

クイズ:

日本では冬の星座としてオリオン座などが有名だが、この時期、サンフランシスコではどのような星座が見えるか。(日本と米国太平洋時間との時差は17時間、同じく北半球でほぼ同じ緯度。)