宿キャンセル ウクライナ避難民の影響?

宿がない

「ごめん、君の泊まる部屋はなくなった。子ども連れのウクライナ女性が、飛行機の都合でまた延泊しなければならなくなったんだ。」

Booking.comで予約していた安宿のマネジャーが私に言う。何年も使っているネット予約サイトだが、これまで泊まれなくなったというのは初めてだ。

「いやあ、ウクライナの人たちの状況を考えると私も(延泊)だめとは言えなくてね。理解してくれ。」

確かにその通りだ。十分すぎるくらい理解する。ルーマニアはウクライナの隣国。避難民として来ている人も多い。こんな気楽な旅行者が彼らの泊まるところを奪うようなことがあってはならない。そういう信念を保持しながらここを旅している。だからすぐ宿キャンセルを納得して、別の宿を探し、少し高いところに入ることになった。

オーバーブッキングの可能性も

しかし、後で考えてどうも解せないところがある。この安宿は恒常的にオーバーブッキングをしている形跡があるのだ。チェックイン時間を午後2時から午後6時までという信じられない時間に設定している。普通、チェックイン時間が短いところでも午後6時から9時は受け入れ黄金タイムだ。6時過ぎには受け入れないというのはまずない。実際Booking.comのコメント欄を見ていると到着が午後7時になると前もって連絡しておいたのに、その時間に行くと、遅い、もう空いてないと宿泊を断られた、などという苦情が載っている。

しかも、私の場合、前段のあれこれのやり取りがあった。ブカレストへの私のバスは午前7時頃着いたので、少し早いと思ったが9時頃宿に出向いた。玄関はWhatsApの電話連絡でしか開かないようになっていて、ベルを押してもだれも出ない。しばらく待つと、たまたま中からオーナーだというインド系の男が出てきた。出勤するところらしい。インド系が経営して現場の管理をルーマニア人を雇ってやらせているようだ。中に入れてもらい、その雇われマネジャーの部屋をノックした。これもなかなか出なかったのだが、最後に出てきて、「こんな早く来る奴があるか。午後1時に来い!」と追い返されてしまった。

まあ、こっちにも非があるので、北駅ホームで時間をつぶし、午後1時ちょっと前に宿に行った。また、玄関は開かない。少し待つと、何とあの雇われマネジャーが出てきた。勤務時間が終わって家に帰るところだった。そして、例の言葉出たのだ。「実は子連れのウクライナ人女性が…」。

私はそこで納得したのだが、後で考えるとどうも話が出来過ぎている。オーバーブッキングを常習にしているらしいこともあるし、彼が仕事を終える午後1時にまた来いと言ったのもおかしい。面倒なことは俺が居なくなってから、というこうことか。しかも朝のあのふてぶてしい態度とは打って変わって今度は物腰がいやに柔らかい。

「そうか、君は日本から来たのか。私は日本食が大好きだ。スシ、サシミ…」

ルーマニアの観光状況

ウクライナの人々は同じスラブ系だからなのだろう、ポーランドに140万人以上が避難している。ルーマニアには8万人程度だ(UNHCR集計)。現在これらの人々がホテルに泊まっているとは思われない。宿の予約状況を見ても、ルーマニアのホテルには結構な空きがある。逆にコロナ禍が下火になるにつれ(ヨーロッパでは街でも屋内でもだれもマスクを付けていない)、ルーマニアの観光についてアドバイスするRomania Tourismサイトは「ルーマニアは安全だ」「ウクライナ戦争の影響はない」と呼び込みに必死だ。「自治体も宿泊飲食産業も、コロナ規制の緩和に伴い2022年に力強い観光復活があることを心から期待している」とする。なお、日本の外務省の危険情報を見ても、他のほとんど西欧諸国同様、特段の勧告は出てない(レベル2「不要不急の渡航は止めてください」はもちろん、レベル1「十分注意してください」にもなっていない、ということ)。

状況を慎重に調べながら、冷静に判断してブカレストまで入って来たつもりだ。少しでもウクライナ避難民の迷惑になるというのなら控える。しかし、このオーバーブッキング常習宿は、そうしたウクライナ人の困難をうまく利用して、悪習を続けているのではないか。だとしたらとんでもないことだ。

いや、そう思うのは、心の曲がった私の邪推だろう。多少値段は上がっても他のホテルが空いているならそちらに泊まります。

(なお、こういう問題に対してBooking.com側の対応はしっかりしていたことを付け加えなければならない。記録上、泊まっていないというデータがBooking.com側に入ってくるので、なぜ泊まらなかったのかの問い合わせがメールで来る。不届きな無断キャンセル者も居るのであろう。私はありのままを説明したら、丁寧なわび状があり、別の高い宿に泊まらざるを得なかったらその差額をお支払いします、と言ってきた。立派だ。……ただ、返金には宿の領収書が必要。私の場合は、突然入り込んだ新宿泊者だったため、別宿オーナーは領収書他何の書類もつくらず現金での清算になった。オーナーにとっても私はうまみのある客だったかも知れない。)