宿アクセス: 車と犬の凶暴性

ルーマニア最安のホテル(…失礼、ホテルのマネジャー、スタッフたちにはそんな認識はないらしく、ごく普通に通常のホテルを運営しているようなのだが…)Hotel Westは、中は清潔で申し分ないのだが、やはりいろいろ欠点はあった。

一つはWifiが安定しないこと。これはドアや壁がしっかりしている上質のホテルでしばしばある。最初ルーターに近い部屋に変えてもらおうとしたが、うまくいかず、まあ、携帯ネットを活用して何とかやりくりすることにした。(そのうち強い電波の5Gが使えるようになり、問題は解消した。ルーターの調子がおかしかったらしい。…と思ったらまた5Gが消えて元のもくあみに。)

街へのアクセスが産業道路

もう一つ、もっと大きな問題は、ここが工場地帯であること。すぐ隣にサイロをかかえたような巨大な農産物加工工場がある。ホテルの前を走っているのは産業道路で、大型トラックやトレーラーが頻繁かつスピードを出して走る。舗道も狭く、お店に行こうと歩くと危険を感じる。スチャバの街まで約2キロあるが、そこに行くまでも危険だ。これじゃ歩けない、と思うと意外と現地の老人などが散歩していてびっくりする。(まあ、私も歩いている老人なのだが)

ホテルの前は産業道路だ。

危険な道路を意外と地元高齢者が歩いていたりする。

ルーマニアでは放し飼い大型犬に注意

大通りを外れて側道や農道を歩こうとすると今度は犬が危険だ。ルーマニアは大型犬が放し飼いされていて危険だという話がガイドブックに出ている。都市部ではそういうことは少なくなったが、田舎に来るとその脅威は厳然と存在する。ベトナムなど東南アジアの国と同じだ。いろんなところをふらふら歩き回る放浪旅行者と棲息空間を共有し、重大な競合者、脅威になる。しかも、こちらのヨーロッパ人は体も大きいからだろう、犬もある程度大きくないと番犬としての威力を発揮できないらしく、東南アジアの犬よりも大きい。

「番犬」は動物虐待の一形態

番犬文化への批判はこれまでもたくさん書いてきたが、いいかい、番犬は動物虐待の一形態だ。犬が悪いのではない。そのような見知らぬ者への警戒と攻撃性をもつよう犬を番犬化してきた人間が悪いのだ。人間は、そうした悪の素性を自分ではうまく隠しながら番犬という家畜、ペットにすべて肩代わりさせ、安全保障に使っている。異邦人に吠えかかる犬をよく見よ。その目は獰猛な攻撃性に駆り立てられていると同時に、反撃するかも知れない敵への恐怖心にも打ち震えている。動物にこのような役目を負わせるのは残酷だ。「番犬」は動物虐待以外の何物でもない。それは、人間が依然として手放せない見知らぬ者への猜疑と防備を犬という動物を通して具現化したものである。野蛮を克服してない人間社会の業を示すものである。

バスがなかなか来ない

やはりこれは近くのバス停からバスに乗り、スチャバの市街に出てから歩き回る方法をとる他ない、と判断。宿から右(西)に一番近いバス停は、行く途上に番犬危険地帯なので、左(東)に歩いてやや遠いバス停まで行く。

ところが何と、このバスがなかなか来ないのだ。滞在2日目にバス停で1時間以上待つ経験をして、バス時刻表を見ると、私の安宿方面に向かうバス(3番、21番)は朝と夕方にそれぞれ1時間おきにあるだけ。午前8時台のバスが行ってしまうと次は午後2時台だ。夕方は午後6時40分頃に3番バスは終わってしまい。その後4時間おいて午後10時40分に21番の終バスがあるだけ。

スチャバにはグリーンの色をした電気バスが走っている。

路線ごとに次のバスがあと何分で来るか表示される。ただし、時にこれに表示されないバスが突然現れることもあるので注意が必要、3番と21番のバスはなかなか来ない。

比較的安全な歩きルートを探す

万事休すか。しかしとにかく適応する以外ない。1泊2700円(後に2250円に値下げ)のメリットにまさるものはない。市街地まで最短、かつ比較的安全に行けるルートを探す方針をとる。産業道路が二手に分かれるところで大型トラックの多くが左に曲がるので(どうやらウクライナ国境に向かうようだ。支援物資運びか)右に行く道路で、かつ辛うじて舗道のある右端を歩く。街の街路が始まるまで約1キロで最短距離にもなる(そこにちょうど安めのスーパーLidlがあるので買い出しにいい)。車は怖いが犬はもっと怖いので側道には行かない。皮肉なことに、我々人間(歩行者)にとっては、獰猛な自動車という存在が犬への抑止力として働いてくれる。悪によって悪を制するということだろう。

スチャバの街路が切れるちょうど端に小型スーパーLidlがある(写真左)。ここできょうの買い出しをしてこの(危ない)道路を約1キロ下に歩いて行けばホテルに着く。

放し飼い犬対策・ノウハウ

放し飼いの獰猛番犬が居る可能性が最も高いのは、人けない工場の入口などだ。警備員の代わりに犬で守らせているつもりなのだろう。工場の前庭などは、舗道なしの道路では歩くに絶好なのだが、この意味で番犬の餌食になりやすい。住宅街にはあまり居ない。吠えられても塀の内側からのことが多い(しかし、きゃつらは連携していて1カ所が吠え始めると、歩く先次々に犬の不協和音合唱が続く)。完全な自然の中に入ると犬にも会わない。自然公園(要塞跡下のParc Şipoteしか見当たらない)の中をゆっくり散歩できたときには本当に和んだ。やはり番犬は人間文化とともにある存在なのだ。(いやいや、ほぼ原野に近い郊外で悠然と構える放し飼い大型犬に出くわすこともある。大草原でコヨーテに会ったと思え。万事休す。)

放し飼い番犬と出会ってしまったら歩く速度を落とすこと。速く歩いていると犬にとって要注意マークが点灯されるようだ。そしてできるだけ目を合わせず、何食わぬ顔で通り過ぎる。一旦吠えられはじめたら後ろ向きにはならず、目を見続けながら後ろ向きにゆっくり退散する。無言でいるよりも、穏やかな声で「おいおい吠えるなよなあ」などと言った方がよいようだ。正体不明の怪物ではなく、いつも相手している人間と同様の生物らしい、と思ってくれる。地元民を見てると犬に向かって拍手するよう手をたたいて「退散しなさい」の合図を送っているようだが、効果あるかどうかは不明。「原野で遭遇の放し飼い犬」の場合は、目立たぬよう退散する以外ないが、意外とかかって来ない。守るべき飼い主領地域がないからだろう。番犬の凶暴性はあくまで人間の文化内でつくられる。

犬害も共産主義独裁の置き土産

ルーマニアで犬害が多いのは、チャウシェスク独裁政権下で、人々が家から追い出され団地アパートに強制移住させられたからだという。その際、飼い犬を捨てる他なかった。それでルーマニアでは野良犬が増え、人間に危害を加えるようになった。2006年1月には、ブカレスト市市内(勝利広場)で日本人男性が野犬に噛まれ、出血多量の結果、亡くなる事件も発生している。2012年8月にブカレストに着いたばかりの日本人女子大生が人間に殺害される事件も起こているが、犬も危ないということだ。

そして野犬、野良犬がブカレストを始めルーマニアでの大きな問題になっている。しかし、問題は野犬だけなのか。番犬として飼われている犬も相当問題だと思う。飼い犬でも放し飼いにしている事例が多いのではないか。やはり犬との付き合い方に大きな問題があるように思う。

スチャバ要塞の跡。スチャバは中世末期のモルダビア公国の首都で、このスチャバ川に張り出した崖の上の要塞が守りを固めていた。この要塞の谷にある州立公園Parc Şipoteがほぼ唯一の落ち着いた公園だ。つまり犬の恐怖を感じず散歩できる場所。ルーマニアの地方都市はどこも同じと思われるが、都市部の街路は交通が激しく、しかし放し飼い犬に遭遇しない郊外への散策道はまず存在せず、閉じ込められた気分になる。

ようやく近くに散歩にいい道を見つけた。Suceava Westの鉄道駅(写真)がホテルから近い。列車がほとんど通らず、すでに廃駅の気配がある。グーグルマップを含めて地図上に表示されているが、バスターミナルに居た案内役の若い係員によると「そんな駅はない」。この駅舎の後側にあたる住宅街の道から入っていくと写真のような場所に出られて散歩に絶好だ。ただし、正面のガソリンスタンドがあるあたりのアクセス路から入ると、入り口付近に工場や洗車場があり、番犬が徘徊しているので危険だ。ここから「出る」ような順路をとると比較的安全。犬も、出ていく者より入ってくるヤツを威嚇しようとする。

このように、街に行く比較的安全な道を探し、近くに散歩道でも見つければ、この低料金Hotel Westはかなりお薦め物件と言える。角度を変えて写真(上記)をとれば、ほれ、なかなかよさげなホテルに見えるであろう。