ブラショフからティミショアラへ

カルパチア・アルプス越え

11月18日、列車でブラショフを発ち、ブカレスト経由で「革命の聖地」ティミショアラに向かう。まずはブカレスト行き急行に乗る。所要2時間半、166キロ、32.55レウ(約1000円)。

おお、何だあれは。1時間もしないうち、車窓にものすごい山が見えてきた。いったいここはどこなんだ。予想していなかったので次に止まる駅を注視していたらシナイア(Snia)だった。なるほど、これがかのシナイアか。18世紀から王侯貴族たちの別荘地として発展した街。この雄大な山岳光景が魅力の一つだったのだろう。

ということはあれはカルパチア・アルプスだ。ルーマニア中央を逆L字型(あるいは「つ」の字型)に走る山脈の南部分。2000メートル級だが、急峻な岩山でかなりの高山に見える。

ブラショフからブカレスト経由でティミショアラへ ルート図

 

カルパチア・アルプスと言われる部分は、カルパチア山脈でも、南側のシナイア付近から西部のシビウ付近まで。急峻な岩山が続く。
シナイア付近。鉄路はプラホバ川に沿って走る。
シナイア付近。街の中心はもっと高台の上の方にある。
シナイアを過ぎると、列車は徐々に平原地帯に入る。ドナウ川がつくった広大な平原地帯だ。そこにブカレストの街もある。…しかし何だこれは、列車のドアが開きっぱなしだ。いい写真が撮れるのはいいが。

夜行の寝台列車

ブカレストからは夜行列車に乗る。2等寝台で、ティミショアラまで10時間、166レウ(約5,000円)。日本では寝台列車がなくなっていくが、ルーマニア(ヨーロッパ?)ではまだ健在のようだ。それほど高くはなく、1泊分浮くのはありがたい。
翌日の朝が開けた。外はやはり一面の平原だった。夜行列車でちょうどよかったと思う。これでは景色を楽しもうにも、1時間もすれば飽きていただろう。

ティミショアラ手前50キロのルゴジで寝台急行を降り、ローカル鉄道に乗り換えた。これは私の勘違いで、ティミショアラ北駅までそのまま寝台急行で行けたのだが、東駅で降りなければならないものと思い、そこまでの切符を券売機で買ってしまった。東駅はローカル駅で、急行だと一つ前の停車駅で鈍行に乗り換えなければならなかった。やむをえず1時間半の乗り換え時間にルゴジの街を見物。再び列車に乗って、11月19日午前9時半頃にティミショアラ東駅に着いた。

今回の旅で最も豪華な一人部屋

何だこの「安宿」は! ティミショアラの宿代は高いのに驚愕して、もちろん最安(1泊4000円程度)の宿をとったのだが、何と広さは3LDKの日本の我がマンションくらいある。大きなリビングと寝室があり、その他にやや大きめのキッチンとバスルーム。キッチンは本格的でガスで料理ができ、冷蔵庫と電子レンジ、食器一そろい、塩、胡椒のたぐいも付いている。

ここで一人か。貧乏旅行者にはまったくもったいない。王様になった気分だ。少なくともカップルで泊まるところだろう。もっと粗末な部屋でいいから安いのが何でなかったのだ。ディミショアラは宿がそういう水準に固定されている街なのか。

豪華な寝室の*他に*こんな広いリビングとキッチン、シャワー・トイレがある。Mosaico Alfetta Hostelだ。私にはもったいなすぎるが、こういう所が趣味の方には、比較的低料金(約4000円)だし、いいのではないか。住宅街の邸宅で、本宅がドーミトリー方式の安宿でになっており、その裏にこの個別棟がある。
ルーマニアは1980年代末の一連の東欧民主化革命の中で唯一尊い血が流された国。その発端となったのが1989年12月16日のティミショアラでの蜂起だった。治安部隊の発砲で多くの命が奪われた。その舞台となったのが、街の中心にあるビクトリー広場など(写真)。遠くに街の大聖堂が見える。(別途詳しく書く予定)

旅行者のニーズを心得ているオーナー

朝10時半に宿に着いてしまったが、電話をかけるとオーナーがすぐやってきてチェックインできた。すぐ近くに住んでいるようだ。そして旅行者に必要な情報を次々に連発。市内地図のコピーをくれ、そこに、近くのコンビニ、スーパー、そして勝利広場、自由広場、統一広場、革命博物館、共産主義消費者博物館、バナト博物館など主要観光スポットをすべて印を付け、説明してくれた。

ティミショアラの観光案内所は平日9時―5時の営業時間で、土日は閉まる。私のティミショアラ滞在はちょうど土日にかかっていた。だから宿のオーナーからの情報が実に貴重なものとなった。ほとんど彼からの情報に依拠して街を見て歩いたようなものだ。その上、隣国セルビアのベルグラードに抜けるバス便の重要情報ももらった。

ルーマニアとセルビアは別に仲が悪いわけではないのに、通常のバス定期便は運行されていない。旅行会社が運行する乗り合いタクシー的なバスだけがある。これも50ユーロ程度のものもある中で、彼は25ユーロの会社を教えてくれた。行く2日前に予約しなければならないとも。即電話をかけてくれる様子だったが、まずは自分で調べてから、ということにした。調べて、確かに彼の言う通りであることがわかって、彼の紹介した会社にメールと電話で連絡して、予約をとった。