今年8月に亡くなったミハイル・ゴルバチョフ元ソ連共産党書記長について、日本のマルクス主義研究者が、「ソ連邦を破局に追いやった書記長」、いろいろ評価はあろうが「鉄壁を誇ったソ連・東欧体制を破壊した人物という評価は永久に残るであろう」と書いているのを見た。現ロシア内の人だけでなく、ロシア外のマルクス主義者でもこう考える方が居られるのか、と思った。
私はまるで逆に考えていた。あのような鉄壁の「ソ連・東欧体制」を、最小限の流血で体制移行させた人として、ゴルバチョフは高く評価される、と。強固に管理されたあの独裁体制が1990年前後に崩れるとはまったく思っていなかったし、それは世界中の左派も右派も同じだったと思う。そして、あのような体制が崩壊するなら、それは物凄い世界的動乱と人的犠牲が伴うとも思ったが、それも外れた。
ゴルバチョフの「上からの改革」が決定的だった。変革はもちろん「下からの革命」が美しく、最も徹底したものにもなるが、犠牲が大きい。「上からの改革」は若干怪しくもあるが、それで全体が動くとき、犠牲が最小に抑えられる美点がある。それに絶大な貢献をしたのがゴルバチョフだった。彼が何万人、何百万人の命を救ったかわからない。歴史に「もし」はないが、あの上からの改革がなかったら、世界史は地獄を見たはずだ。
ソ連ばかりでなく、それに呼応して東欧でも一定の上からの改革が起こり、ほとんど流血のない東欧革命が進んだ。しかし、それがなく最後まで強力な独裁体制を堅持したルーマニア・チャウシェスク政権下で、むごたらしい多くの弾圧と、尊い血の流れる革命が進行してしまった(1000人以上が死亡しチャウシェスク自身も処刑)。ゴルバチョフの改革がなかったら、の歴史の「もし」を、小規模・限定的に垣間見せてくれたのが、ルーマニア革命だったと思う。