外国人受け入れ国としてのトルコ
トルコはこれまでヨーロッパなどへの移民(外国人労働者)送り出し国とのみ見られてきたが、同国の一定の経済成長を踏まえ、外国人受け入れ国としての姿も見せ始めている。すでに2014年6月の米移民政策研究所(MRI)の特集記事が「トルコは、出移民と短期労働者送り出しを主体にした国から、入移民と難民受け入れの国になりつつある」と喝破している。
トルコ人労働者受け入れ先ドイツの統計を見ると、2006年から、トルコからの入移民より出移民(永住のための帰国)の方が多くなった。 2014年の場合、22,058人がドイツ入りし、25,520人がトルコに帰国している。
トルコの出入国統計でも2009年あたりから出移民より入移民の数が超過するようになった。最近再び出移民が増えているが、これはトルコ人の出移民が増えたというより、難民その他で入ってきた外国人がヨーロッパを目指して出ていくケースが増えたということらしい。トルコはヨーロッパを目指す移民・難民が最初に足場をおく国でもある。2019年のトルコからの出移民330,289人のうち、トルコ市民は84,863人(26.7%)のみで、外国人が245,426人(73.3%)だった。
純流入の増加によりトルコの外国生まれ人口は、2000年の128万人(総人口の2.03%)から2015年の296万人(同3.77%)に増加した。
外国人居住許可数が激増
また、ビザ期間を超えて滞在する外国人に発給される居住許可数を見ると、2000年代に20万人前後で推移していたのが、2012年に30万人、2019年に100万人を超えた。その後一時コロナの影響で減るものの、2021年以降130万人台で推移している。最新の2023年3月16日現在は、1,339,738人だ。
こうした人々の多くは大都市に居住し、その中でも特にイスタンブールには半数の695,281人(51.9%)が住む。2位はアンタルヤ150,843人(11.3%)、3位アンカラ86,579人(6.5%)だ。
テュルク系諸国からの流入
2023年3月16日現在の外国人居住許可数を国籍別で見ると、次の通り。
- ロシア 158,117
- イラク 123,891
- トルクメニスタン 113,776
- シリア 96,646
- イラン 93,079
- アゼルバイジャン 70,179
- ウズベキスタン 58,520
- アフガニスタン 51,433
- ウクライナ 47,616
- カザフスタン 46,251
ロシア、イラク、イラン、ウクライナなど、現在の国際情勢を反映した避難民的入国者が上位を占めている。しかし、トルクメニスタン、アゼルバイジャン、ウズベキスタン、カザフスタンなどテュルク系の国からの入国者も多い。
少し前の2012年の数字を示した内務省外国人国境亡命局のデータなどによるOECD向けの報告書を見ると、上位からジョージア(17,078人)、ロシア(16,045人)、アゼルバイジャン(14,943人)、ドイツ(14,555人)の順になっている。そしてそこに次のような説明がある。
「かなりの居住許可がエスニックなトルコ系外国人に発給されている。その多くは、トルコに住む親戚、友人に会うため、あるいは一定期間の留学、就労のためトルコに来ている。内務省外国人国境亡命局の統計によると、こうしたエスニック・トルコ人には、ブルガリア系トルコ人、アゼルバイジャンやカザフスタンからのメスへティア・トルコ人(トルコ・ジョージア国境周辺を祖地とするトルコ人)などが含まれる。」
マイノリティ(少数民族)
トルコの文化的多様性を見るため、以上では定住外国人の流入に焦点を当てた。しかし、トルコにはトルコ国民として存在するマイノリティ(少数民族)も居れば、世界最多と言われる400万人以上の難民も存在する。こちらも見ておこう。
トルコは国民のエスニシティに関する統計をとっていない。したがってマイノリティの人口はいずれも推定になる。マイノリティ支援の国際連携団体Minority Rights Group International (MRG)の推計によると、トルコ最大のマイノリティ、クルド人は人口の15〜20%に上る(1500万人前後ということになる)。チェルケス人などコーカサス系が300万人、黒海沿岸に住むラズ人75万〜150万、ロマ(ジプシー)200万人、その他アラブ人、ブルガリア人、ポマック人(イスラム教のブルガリア人)、ボスニア人、アルバニア人などがおり、宗教的マイノリティとしてアルメニア人6万人、ユダヤ人2万5000人他を数えている。
こうしたマイノリティの多くもイスタンブールに居住し、例えばクルド人の同市内人口は200万〜400万人に上ると推計されている。
難民受け入れ、世界最多
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、トルコは世界最大の難民受け入れ国で、2021年に3,685,839人のシリア難民を中心に計370万人の難民を受け入れ、イラクから162,760人、アフガニスタンから125,104人など計32万人の亡命者を受け入れている。
こうした巨大な難民流入の中では、テュルク系諸国からの流入など霞んでしまい、統計にも劇的には現れてこない。しかし、一定の流れとして存在することは確認できる。
テュルク諸国機構
トルコは、コーカサス、中央アジアのテュルク系諸国とともにテュルク語系国家協力評議会(CCTSS、本部イスタンブール)を2009年に発足させた。2021年の第8回首脳会議でそれを「テュルク諸国機構」(Organization of Turkic States, OTS)に格上げした。テュルク系諸国の連携を蜜にすることを目的に、トルコ、アゼルバイジャン、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスの5カ国で構成する。ハンガリー、トルクメニスタン、北キプロスがオブザーバー参加している。
これとは別に、トルコは黒海地域の協力枠組みも主導。2012年に、沿岸諸国を中心に11カ国で黒海経済協力機構(Organization of the Black Sea Economic Cooperation 、BSEC)を発足させた。
西からのシルクロード提案
こうした経済協力を進める上で核となるのが、同じくトルコ提案の中央アジアへの鉄道事業「ミドル回廊」だ。既存ルートを活かしながら、コーカサスー>カスピ海(鉄道連絡船)ー>カザフスタンやウズベキスタンー>中国に向かう。2017年にコーカサス横断の鉄道(BTK鉄道)が完成、2020年にトルコから初の貨物が中国に到達した。ロシアのウクライナ侵攻でシベリア鉄道を避けてこちらを利用する動きが強まり、カザフスタン内で集計された2022年のミドル回廊貨物輸送量は前年比2.5倍の150万トン、輸出量では同6.5倍の89万トンに達した。
インド洋回りのヨーロッパ行き船便が30日前後、シベリア鉄道回りが19日かかるのに対してミドル回廊は12日で中国・欧州間を結ぶという。陸に閉ざされたコーカサス・中央アジアはこれまでロシアに頼る以外活路はなかったが、トルコ方面を通じてグローバル市場に繋がれる可能性が出てきた。
