北アナトリア山脈を越えエルズルムまで

エルズルムへの道には北アナトリア山脈(ポントス山脈)がはだかり、岩盤が激しくのたうちまわるような地形が続く。
同上。
パランドケン山(3,271メートル)の麓に広がるエルズルムの街。

エルズルムまでのルートに何も期待していなかった。イスタンブールまで同じルートで帰るのは能がないのでエルズルム回りで行ってみようか、と思っただけ。粛々と通過していくだけと思っていた。しかし、ホパからの山岳景観はすさまじく、衝撃を受けるほどだった。これはぜひとも書かねばならない、と時間が限られた中でこれを書きはじめた。

バトゥミからホパへ

ジョージアの黒海沿岸都市バトゥミからイスタンブールに帰る。まずは、ミニバスでトルコ領のホパまで。そこから内陸都市エルズルムまではある程度頻繁に大型バスが出ており(午後でもあるだろう)、エルズルムからは(カルスから来ている)寝台列車に乗ってアンカラまで行ける。その先は来るとき乗った高速鉄道でイスタンブールにすぐ行ける。

一度来たところを通るのは気楽だ。トルコ国境はジョージアからの買い出し客で混乱していると聞いたが、「勝手知ったる…」で余裕。宿の近くから出るミニバスでサルピの国境検問まで行く。2ラリ(100円)だ。車の検問ゲートがたくさんあるが、歩行者は右端の建物に入って出国検査、ずーと歩いてトルコの入国検査、税関検査とくぐってトルコ側に出る。来た時と同じことを繰り返し、比較的スムーズだった。

ジョージア・トルコ国境の自動車検問。歩行者はこの右の方の入り口から建物に入る。
出国・入国・税関検査を通ってトルコ側に出るとまずモスクが目に入る。確かに意図的な配置のように見える。ホパ行きのミニバスは、ちょっと先の屋根のあるあたり(写真参照)から出る。出口付近でうろうろすると客引きにひっかかるので注意。
ホパ方面行きのミニバス。すでに人が多く乗りすぐ出発しそうなバスを選ぶのが正解。いくらだったか忘れたが何十円というレベルだった。トルコリラはバトゥミの両替所で残りのジョージア・ラリを替えてきた。当座の出費には十分。
すぐホパの街のバスターミナルに着く。ここからエルズルム行きのバスがあるかどうか。午後2時のバスがあった。少し時間があるので、お金をATMから引き出し、SIMカードを入手しよう。どこでも新しい国に入ったらまずやることだ。バスターミナルにはATMもSIMカード屋さんもなかったので街の方に戻ってみる。
15分ほど歩くとこの辺に出る。ATMもTurkcellのお店もあった。
エルズルム行きのバスは真新しいメルセデス・ベンツの大型車だった。後で気づくが、中古車では、あの急峻な山道を走るとエンコしたりすだろう。新車を投入しておくのが無難だったのか。午後2時にホパを出てエルズルムに午後7時頃着く旅程。料金220リラ(1500円)。とりあえずは、順調に初日にエルズルムまで進めることになったのを喜ぶ。
右手に湖が見え始める。このルートには多数のダムがほぼ連続的につくられているのに気付く。トルコのチョルフ川開発計画では、同水系に計27のダム建設計画がある
アルトヴィンのバスターミナルで小休憩。ここに至るまでには周りの景観はすさまじいものになっていた。まさに大地がのたうち回る。いや大地というより岩盤か鉱物だ。そんな固いものなのに激しくのたうち回ってできた景観、という感じだ。実際、地震の多発地帯でもある。黒海側にそそり立つポントス山脈の後ろ側を流れる大河川のチョルフ川。アルトヴィン付近でそこにメレヘヴィ川が合流する。いずれも深い谷をつくり、鉱物の塊のような山を削り込んでいる。
のたうちまわる岩盤。
つくられるダム。
デリネル・ダムが見えてきた。下まで見えなかったが、高さ249メートルでトルコ2番目に高いダムだ。2012年完成。住民移転、生態系の変化、地震での安全性などが問題にされることもある。(後付けで勉強して得た知識です)
デリネル・ダムにつくられた人造湖。
何だこののたうちまわる岩盤は。
高度が上がるにつれ、森林は少なくなる。ダム工事などで削られた斜面が至る所でがけ崩れを起こしているようだ。
トンネルも頻繁にある。平らな河床が湖底に沈んでは、迫った山に穴をあけながら道路をつくっていく他あるまい。左右に頻繁に曲がる道路をバスは結構なスピードで進んでいく。乗りもの酔いはしないたちだが、ちょっと不安になるくらいだ。
湖は美しいのは美しいのだが…。多くの村が、人々の暮らしが水底に沈んだのではないか。あるいはこんな激しい地形の土地にはだれも住んでいなかったのか。 
いやいや、確かに人は住んでいた。高いところの集落は残っている。それとも、移転させらた人たちの集落か。
遠方にはときどき雪山も望める。この上流域には、さらに高いヤスフェリ・ダム275メートルでトルコ1,世界でも5番目)があるはずだが、道路からは見えないか、寝ていたかで確認できなかった。昨年末から貯水を開始しているはず。
それにしても何て地形だ。これほど迫力ある景観は、世界のどこにもなかったぞ。とまで思いながら、しかし考えてみると、北米(グランドキャニオンやヨセミテ)、南米アンデス山脈、ネパール、中国雲南省の奥地などなどでこれくらいの地形は見てきたな、とも。
予期していなかったので不意をくらったのだ。より西側のアンカラからサムスンの黒海沿岸に出るときはこれほどではなかった。基本、高原地帯が続いていた。それと同じようなものを想定していたのだろう。しかし、あの茶色(山岳地帯)に染まったトルコの地図を思い出す必要がある。特に東部で一段と濃くなるあの地形図から、これくらいのことは予想できなければ。
まいった、降参だ。
チョルフ川からその支流Oltu川、Tortum川と遡上しているはずだ。ほとんど人造湖ばかりになっている。しかし、わずかに河床部分が残されているところもあって、そういうところに人々の集落が確認できた。確かに人が住んでいたところだ。それをこのような大規模なダム湖の連続にしていいものか。
同上。バスは分水嶺を越え徐々に下っているようだ。
それでも鉱物のような岩山は続く。
同上。
同上。
そして、ついに高原地帯に。
高原の中の一軒家。モンゴルの草原を思い出した。何をしている人なのか。やはり遊牧か。
トルコは、海岸地帯に沿って急峻な山脈が走り、内陸になだらかに起伏する高原地帯がある、という土地構造のようだ。
徐々にエルズルムが近づいてくる。右手遠方に街らしきものが見えてきた。エルズルムの標高は2000メートル近い。
エルズルムの街。パランドケン山(3,271メートル)の山脈に抱かれるようにしてつくられた町。広大な高原にたたずむ街。わかる。山を越えてここにやってきたとき、ああ、こんなところに街をつくりたい、と思ったその気持ち。
きょうはすべてが順調だった。国境通過も順調だったし、SIMカードも買えた、1日でエルズルムまで来られた、途中素晴らしい山脈が見られた、エルズルムの清浄な街も見られた、すべてが完璧だった。と思ったが、最後のバスターミナルが最悪だった。
この広大な高原のど真ん中にバスターミナルがあって、そこで客が降ろされるのだ(写真はバスターミナルから見たエルズルムの街)。あそこまでどうやって行けというのか。途上国にはこういうバスターミナルが多いものだが、客のことをまるで考えていない。バスの車体にとってはこういう広々としたところで休ませるのがいいが。普通、バスターミナルなら市中心部まで行くミニバスが呼び込み合戦をしているものだが、ここには一台も居ない。市バスもいない(間をおいて来ることが後でわかった)。タクシーだけは居る。一択だ。
くそー、これはタクシー会社の陰謀だ、よし歩いてやるぞ、こういうときのために体を鍛えてきたのではないか、7キロ先か、大したことない、重い荷物を背負っていい筋トレになる、道に迷う心配なし、美しい山麓の街を見てまっすぐ進めばいい。とセミ高速道路を一人歩き始める。確かに景色はよく気持ちがよい。幸い歩道もあった。

途中で車に拾われる

しかし、7キロだ。やがて荷物が肩に食い込み、あたりも次第に暗くなる。と、その時だ。1台の車が前に止まった。「乗せてやる」方式の追いはぎか。そうではない。年寄りが道端を歩いているのを見るに見かねて乗せてくれようとする60代夫婦だった。夫婦なら安心だ。おじさんは少し英語が話せた。田舎の家庭菜園で作業してきた帰りだという。デスクワークの公務員だと言った。おお、ジャパンか、なごや? 知らねえなあ、え、人口200万? エルズルムは都市圏人口80万だよ、などなど話をして、駅近くまで乗せてもらった。非常に助かった。やはりきょうは最後まで完璧だった。(しかし、何だね、『タイム』誌の2023年版「世界の最も素晴らしい場所」50選に、日本では京都とともに名古屋が選ばれているという衝撃の事実は伝わってないようだ。)

850円の宿

いや、まだ続く。宿はどこにするか。何とこの街では駅の周りに宿がまったくない。現地予約サイトの中で最安だったホテルまで行き、その隣のさらに安そうな(ネット掲載なしの)宿の戸を叩いた。125リラ(850円)だという。喜んで入った。シャワートイレ共用だが、部屋のすぐ隣にあり専用に近い。シーツは洗って…、うーむ微妙だがまあ洗ったと信じよう。シャワーも24時間ちゃんとお湯が出る。Wi-Fiも順調。OKだ。850円は今回の旅の最低記録になるだろう。

宿の料金表。地方都市の安宿の相場がこれでわかる。トルコではBooking.comが使えないので、直接宿を回って決めるのも一つの手だ。かえって安いようだ。上記、横線の上Banyoluがシャワートイレ付き、線の下Banyosuzがシャワー・トイレ共用。Tek Yatakuはシングルルーム。私が入ったのはシャワー・トイレ共用のツインルームだった。