アフリカに来て声が大きくなったように思う。
最初はおどおどして、声もあまり出さなかった。それが2カ月以上居るうち、だんだん慣れてきて、大きな声を出すようになった。
「ハロー」と声をかけられたら、その2倍くらいの声で「ハッロー!」と返す。「How are you?」と来れば、「Oh good!」とやはり2倍声で返し、さらに「How about YOU?」と突っ込む。
アフリカ人はどこの国でも、人に声をかける熱意が強い。黙って知らんぷりで通り過ぎるクールさより、熱く切り込む情熱を美徳とする。だからこっちもにこやかに大きな声であいさつする。中には不審そうにこっちを見つめる者も居なくはないが、そういう時でも、「ハーイ」と大声をかける。はにかんで笑顔になってくれる。
特に子どもは面白半分に「ハロー」とか「How are you?」とか声をかけてくる。丁寧に返事して、異文化交流の刺激を与えてあげよう。見たこともない人種に驚いて口をぱっくり開けたままの子もいるが、そういう時こそ、とりわけにこやかに優しく「ハロー、ハウワーユー」とやって、同じ隣人だということを実感させてあげる。
人をバカにするような声掛けをしてくる輩も居る。何かを売りつけるための声掛けも多い。残念ながらアジア系へのからかいを感じることもある。「ヘイ、チャイナ」「チーナ」「チャイニーズ!」などと言ってくる。日本人だと思われることはまずない。それだけ中国人がたくさん進出してきているということだろう。そして英語があまり得意でない彼らは、声を掛けられると目線をそらし、そそくさと避けてしまうのかも知れない。
避けてはだめだ。逃げてはだめ。逆に攻勢に出る。2倍の声で「ハッロー」と返し、「ハロー、チャイナ」と言われたら「ハロー、タンザニアン(ザンビアンetc.)」と返す。民族名で声を掛けるのはちょっと無礼だろ、とわかって頂く。相手の態度を微妙に察知して声、イントネーションを変える。「How are you?」 に大声で「GOOD!」、「How about YOU?」と切り返し、相手が思わぬ攻勢にまごついていたらさらに「How ARE YOU?」と切り込む。たちの悪そうな輩には、こいつはちょっと危ない人かもと思われるくらいの大声になってよい。機先をそがれて冷やかしも止めるし、押し売りも、こりゃだめだな、と比較的早くあきらめて下さる。
オートバイタクシーの誘いには、これまた大声で「エクササーイズ!」(運動だ!)と答えるのが簡単でいい。街を歩きまわるのが趣味の私は、途中、タクシー、オートバイタクシーから無数の声を掛けを受ける。いちいち丁寧に対応するのは大変なので、エクサーイズ!の一撃が手っ取り早い。彼らもすぐあきらめる。ぶらぶらしてるだけだよ、などという返答には彼らは納得しないし、どこそことどこそこを回って云々、など説明していたらきりない。
声掛けが美徳でも、女性はあまり声を掛けてこないようだ。やはり異性間には別の礼節があるのだろう。こちらもあまり積極的には挨拶しない。しかし、もちろん、むこうが挨拶してくれば礼儀正しく返す。
対抗的やり取りを続けていると、基本を忘れる危険もある。これはあくまで交流なのだ。人を見て、その態度を読み、相手の感情を汲み取りながら、適切な対応をすることが大切だ。真摯に挨拶してくる人には、こちらも丁重な返答を返して国際親善の実を挙げる。これは知らんぷりして通り過ぎる方が無難だな、と思う場合ももちろんある。あくまで臨機応変、相手を見ながらの「交流」だ。
インド洋岸、ダルエスサラームやモンバサは、イスラム教徒、中東、インドからの人々も多く、異なる文化、民族に比較的慣れているとは感じる。しかし、街を歩けばこんな「交流合戦」が始まるのはどこでも同じ。どこでもとにかく2倍の声で、を基本にする。この「2倍返し作戦」こそ、アフリカの旅を楽しく成功させる秘策、秘術なのだ。
これを続けると、気分にも変化が出てくる。自信が出てくる。みんなと対等に渡り合える気持ちになる。街を歩くのが楽しくなる。そしてそのうち地声にも張りが出てきて、自分でも「声が大きくなったな」と感じるようになる。