あなたは暗号KVP/1M/Hの意味がわかるか。
ヒント:ケニアの入国スタンプの横に添えられている手書き文字列。
最初から種明かしをすると「Kenya Visitor’s Pass/1 month/Holiday」の略だという。これがわからないと大変なことになる、というのが今回のお話。そう、再びケニアのビザ事情の報告だ。
ビザより厳しいケニアの電子渡航認証(eTA)に関する苦労、100ドル取られかねないタンザニア観光ビザへの対処、いずれも何とか乗り切って、タンザニア入国、ケニア入国を果たし、ホッとしていた。すべての難関を切り抜けた、と。が、終わってなかったのだ。
「3カ月滞在許可」は自動ではない
虫の知らせか、何だか胸騒ぎがした。ケニア滞在、本当に3カ月大丈夫なのだろうな。ケニアに入ってちょうど1ヶ月がたつ頃に、その胸騒ぎが起こった。どなたの思し召しか、誠に幸運な虫の知らせという他ない。それでじたばた確認して、1ヶ月しか滞在許可が下りていないことに何とか気付いた。
世界をまわっている方はおなじみと思うが、「3カ月滞在可」はよく出てくる期間限定ワード。ビザなし滞在ができる場合でも、観光ビザを取得した際も3カ月まで滞在できるというのが一般的だ。ケニアのeTAでも、「eTAは発行から90日有効で、この期間内に旅行しなければならない」(Your eTA is valid for 90 days from the date of issuance and you must travel during this period.)と公式サイトに書いてある。これは入国する上で90日間有効ということで、実際に滞在できる期間のことでないことはじっくり読めばわかる。しかし、申請が通るかどうかで頭が一杯のときにはそのことにあまり注意が向かなかった。
また第三者による説明では次のようにもある。「2024年1月1日より、国籍にかかわらず、外国人は観光、ビジネスのため90日までの滞在につきビザなしで入国できる。ただし、新しく導入されたeTAを取得しなければならない。」(アフリカ開発銀行サイト)
去年までのケニアEビザの場合でも滞在期限は90日間だった。eTA下でも延長申請すれば90日間のビザなし滞在が可能となっている。「90日間」(3カ月)はやはり定番の期間になっているのだが、早とちりしてはいけない。当初から90日間の滞在許可が与えられるかは別問題で、その点について私が注意散漫になっていたことは認めなければならない。
駐独ケニア大使館サイトに暗号解読法
幸いにも心配になってきて確認することになったが、パスポートに押された入国スタンプを見ても、滞在期間はよくわからなかった。スタンプに「KVP/1M/H」と書き添えられている。乱雑な手書きなので「KVPT1M1H」のようにも見える。何のことか、ケニアのeTA公式サイトにもその説明はない。ウェブをグーグル検索してようやく駐独ケニア大使館サイトに次のような説明があるのを見つけた。
「[入国審査官が]あなたのパスポートにこのケニア訪問者パス(KVP)を手書きで、例えばKVP/1m/H (ケニア訪問者パス/1ヶ月/観光)のように記入するでしょう。」(will enter this Kenya Visitor’s Pass (KVP) manually in your passport, e.g. KVP/1m/H (Kenya Visitor’s Pass/1 month/Holiday). )
ウェブ広しと言ってもこの暗号の説明をしているのは、この駐独ケニア大使館サイトだけだった。同サイトは、オンラインで滞在期間延長も申請できるとしてそのURLも示してくれている。ありがたいことだ。
どうやらケニアには、ビザやeTA以外に実際の滞在許可を指定するVisitor’s Passという制度があって、入国スタンプの横に書き添えられた暗号はそのビジターズ・パス(KVP)だったようだ。何日までとか何日間とか書かれるのならわかるが、こんな部内コードのようなものが書かれても旅行者は理解できない。
ナイロビの出入国管理事務所に確認に行った
なぜ1ヶ月に限定されたのか。これはeTA導入前の古い慣行なのではないか。入国審査官が間違って書いたのではないか。間違いでも、出国の際に「オーバーステイだ」と判断されて罰金を取られたらたまらないぞ。いろいろ考えて、確認のためナイロビの出入国管理事務所までわざわざ確認に行った(Nyayo Houseビルの17階、Keneyatta Avenue & Nairobi Expressway)。そしたらやはり、これは1ヶ月滞在許可という意味だから、滞在延長手続きをしなければならない、という。
滞在延長の手続き
滞在延長の申請のためには、まずオンラインサイトForeign Nationals Services Portalでアカウントを作成し、そこで前にeTA申請したと同じくらいの量の情報、書類をアップロードし、「訪問者パスの延長(Extension of a Visitor’s Pass)」という手続きをしなければならない。そしてそのオンライン申請完了後に得られる正式申請書をプリントアウトし、それに署名し、入国管理事務所に出頭して提出しなければならない。
大変なことになってしまった、と後悔した。滞在が1ヶ月だけと知っていたら、その期限内に出国していた。しかしすでに、期限から10日後の8月21日に出国する航空券を買ってしまっている。変更がきかない。
オーバーステイの可能性
しかも、1ヶ月の滞在期限がぎりぎりになっている。入国日7月13日を1日目とする数え方だと、8月11日が30日目だ。オンライン申請書類をアップしたのが12日、出入国管理事務所に出頭して正式申請するのが13日だ。「1ヶ月」というのは30日のことか31日のことか。ことによるとすでにオーバーステイで、罰金を取られる可能性もある。
オーバーステイの罰金額については、はっきりしない部分もあるが、専門の法律事務所の解説では、2023年11月7日の移民省特別公告で50ドルと規定され、ただしこれが違法滞在1日当たりの罰金か総体としての罰金かは明確ではない、とのことだ。またこの額が100ドルになっているとの情報もある。
油断していた、とつくづく後悔。43年前のナイロビ滞在では、詐欺的強盗と空き巣被害の2件の犯罪にあった。今回はそうした「民間の」不規則行動の被害にはあわなかったが(少なくとも現在までは)、ビザ代その他の国家機関からのぼったくり被害にあっている感じがある。オーバーステイ罰金の最少で100ドルを取られると、被害額も43年前と近似してくる(通貨価値の違いはある)、などと情けないことを考え始めた。
再び出入国管理事務所に出頭して延長申請
8月13日、ナイロビの出入国管理事務所に出頭して、滞在期間延長の手続きをした。出入国管理事務所は、日本やアメリカのそれと同じで、多くの人でごった返している。アフリカ系(黒人)ばかりでなく、白人、中東系、東アジア系などの顔ぶれも見られる。
罰金を取ると言われたら、「KVP/1M/H」のような部内コードでは、一般人が滞在期限をわかるはずがない、と抗弁するつもりでいた。受付で書類を渡し、どきどきしながら待ったが、何のことはない、30分もしないうちに、その受付から呼ばれて延長許可を記入したパスポートが返却された。
肩透かしを食らった。申請窓口にさえ行かなかった。受付の人がパスポートなど申請書類を受け取ってそれを中に渡しているらしい。中で、すぐに延長された日付(私の場合、入国から3カ月後の日付)の入った新しい「Visitor’s Pass」スタンプが押され、それが再び受付にまわされ、名前を呼ばれて本人のもとに届く。
eTA申請のときも、申請には多大な苦労をさせられたが、書類不備があると思われるのに、1日で簡単に許可が下りた。今回も同じだ。ケニアは前もっていろいろ苦労はさせられるが、結果は意外と簡単に出されるのか。なるほど座って待つ人はたくさんいるいが、窓口に並んでいる人は一人も居ない。すべて受付の対応で事が処理されるのは、実に効率的だ。
オーバーステイは問題にならなかったのか。どういう日にち計算をしたのか。(滞在すればそれだけ金を落としてくれる)先進国から旅行者だから優遇されたか。90日以内ならいつ延長申請しても認めてしまえということか。出国まで知らんぷりしているならともかく、途中で気付いて滞在延長申請してくる者なら大目に、ということか。わからない。わからないけど、延長できたならそれでよい。以上、終わり。
(結果オーライだったが、出入国管理手続きについては、やはり油断せず、慎重に規則を遵守する姿勢を維持するべきだ。わずかな逸脱で、怪しげな金銭支払いを強要されるような危険を回避できる。)