カミさんが日本に帰り、いよいよ安宿を根城に草バスケ交流をする韓国滞在第二幕がはじまった。まず、「持続可能な」生活ができる安宿を探さなければならない。ネット検索と現地調査で、次を選んだ。
最安宿、多冠ステイ(Dakwan Stay)
12, Manyang-ro 14ba-gil, Dongjak-gu, , 銅雀区(トンジャクグ), 06914 ソウル
この宿は、booking.comで、ソウルの「個室」で最も安かった所。料金は曜日によっても違うようだが、1泊2800円程度。シャワー・トイレが共同なのはつらいが、宿代(物価)が高いソウルではそんなことは言っていられない。狭い、窓から外が見えないなど難点もあるが、一応清潔で、他の安宿より高い評価を得ている。評価書き込み欄を見ると、品質にうるさい日本人もある程度泊っているようなので、お勧めできるだろう。
何より私にとっての魅力は、漢江に近かったことだ。ソウル南西の漢江南岸、観光客に人気がある鷺梁津水産市場の近くにある。地下鉄駅では、9号線の鷺梁津(ノリャンジン)駅が近い。漢江の河岸にバスケコートが多いので、周辺を歩けば近くにコートが見つかると思った。残念ながら近くの河岸にコートはなかったが、別稿の通り丘の上の方に登ったら立派なバスケコートがあった。
日本のネットカフェに相当
そしてこのDakwan Stayという安宿が実に面白い。日本のネットカフェを立派にしたような宿で、きちんとした机、イス、ベッドがある。勉強するには最適だ。考試院(コシウォン、gosiwon、고시원)またはコシテル(gositel、考試+ホテルの合成語)と呼ばれ、韓国独特の簡易宿泊施設らしい。Wikipedia日本語版は次のように説明している。
「元々は、朝鮮半島の大学入試や公務員試験の受験者が、いわゆる缶詰になって試験勉強をする小部屋、安価な宿泊施設であった。21世紀の現代においては、アパートの高い賃料を払えない大学生や地方出身者、日雇い労働者が生活の拠点を構える簡易宿所となっており、時には貧困や格差社会の象徴として報道される。部屋の大きさは2畳程度で窓がなく、台所やトイレ、浴室が共同といった劣悪な環境の施設が多かったが、ソウルなど大都市圏の住宅難を背景に施設が増加する中で、快適性に配慮した施設も現れている。」
私の入った上記宿もどちらかと言えば「劣悪な」方に属するのだろう。しかし、3階の窓のある小部屋と2階の窓のない(廊下向きの小窓)の大部屋のどちらにするか聞かれ、(窓のある部屋も壁脇の通路が見えるだけなので)2階大部屋にした。1日中暗いが、部屋二つ分で6畳程度の広さがある。
ハングルは読めないが、この宿の表玄関には英語で「Study Cafe」と書いてある。まわりには同じようなコンセプトの宿が軒を連ね、Study Room、Space何とか、何とかStudy、「Study・Work・Rest」などそれっぽい表示が各種見られる。この宿のある鷺梁津(ノリャンジン)駅の周辺にはこうした考試院や公務員試験予備校等が集まり、予備校街を形成しているという。また、近くには韓国の有力私学「中央大学校」もあり、学生街の一部という環境でもある。
個人書斎、スタートアップ拠点、いろいろ可能性
私は、こういう「スタディ拠点」、好きだな。勉強しに茶店なんかに行く人も多いだろう。それよりこういう寝泊りできる拠点があれば、さらに心強い。資料も置いて置けるし、疲れたら寝転がれる。徹夜もできる。8階の共同キチンで自炊もできるし、ご飯は常に電気釜に炊かれていて自由に食える。キムチでも買ってくれば安い食事ができるだろう。
個人でIT関係スタートアップを始める場合もこういうところを拠点にできるのではないか。もしかして韓国アントレ経済活力の秘密?
しかし一方で、日本で貧困者がネットカフェ住まいを余儀なくされているように、韓国の貧困者がこうしたところに住むことが社会問題にもなっているようだ。
「考試」は「試験」のこと
考試院の「考試」は試験のことだ。同じ漢字文化圏でも、使う言葉に若干の変異があるらしい。中国語や韓国語では試験のことを主に考試と言ってきた。日本語でも昔は考試を使っていたかも知れないが、今はほとんど使わないだろう。試験のことをかしこまって言う場合も考査などと言う。定期考査、期末考査など。同じく背景に漢字文化があっても、韓国は漢字を使わずハングルだけで表すようになった。試験を고시(gosi、コシ)といい、若い人はそれが「考試」のことだとはわからなくなっているのではないか。一方の日本は漢字は使うが考試とは言わず、代わりに英語起源の「テスト」を頻繁に使うようになった。お国事情が違って面白い。しかし、表記は違っても、科挙以来の試験が特別な意味をもつ東アジア文化圏の様相は共通して残している点は面白い。
日本にも完全個室型のネットカフェ
日本のネットカフェは、韓国の考試院に比べるとずっと簡素で一時的なものだが、宿泊施設としての社会的な位置は似ている。特に最近、ネットカフェでも「完全個室型」のものが出てきて、ますます考試院的だ。
宿近くに安いカラオケ店もあった
おまけ情報だが、上記安宿の近くに安いカラオケ店があったので紹介しておく。世の中にはバスケをしないと生きていられないという人も居るが、カラオケなしでは生きられないという人も居るだろう。そういう人にとってここはありがたい場所だ。
韓国のカラオケは普通、部屋ごとの料金で、多人数で入る場合はいいが、一人で入るとかなり割高だ。しかし、最近「コインカラオケ」というのが普及し始め、小さい部屋で1曲250~500ウォン(28~55円)などで歌えるようになったという。
カラオケは韓国語で노래방(ノレバン)。ハングルを書き留めた紙切れを握りしめ、「レノバン」を探して宿付近を徘徊した。ハングルは読めないが、最初の文字「노」を「レ」と発音するらしいのはわかりやすい。カタカナで「レエ」と読めないこともない。とりあえずこの文字のある看板を探した。あちこちの看板をジーと見上げていると、何か珍しいものがあるのかと行き過ぎる人が同じ方向を見る(何もないですよ)。
大通り近く(ノリャンジン路とマニャン路の交差点近く)の下記コイン・カラオケがお薦め。2024年時点でのソウルのコイン・カラオケ料金相場は1曲500ウォン(55円)程度らしいが、ここは最低で2曲500ウォンの部屋があった。