カンナビス誘発の一時的精神障害
まず、これは学術誌ではないが、Psychology Today誌が8月16日付けで「カンナビスは精神症を起こせるのか」という記事を出している。カンナビス(Cannabis)はマリファナのことで、本記事でも以後はこれを使う。また、Psychosisは精神病とも訳せるが、本記事では精神症とする。Psychotic Disorderは精神障害のままだ。
カンナビスは、それを吸う人を酔わせる(ハイにする)だけでなく、パラノイヤや幻覚症状など問題行動を起こさせることもある、という注意喚起の記事だ。それを医学用語でカンナビス誘発精神障害(Cannabis-Induced Psychotic Disorder)と言っている(ただし、この記事を始め多くの学術論文で精神症(psychosis)の語が使われている)。例で示した方が早いというのだろう、カリフォルニア州の若い女性が、水パイプ2服のカンナビスを吸った後でおかしくなり、それを吸わせた恋人を殺してしまったという事例を出している。
2018年、ロサンゼルス郊外カマリロ、当時27歳のブリン・スピエチャーさんは、ボーフレンド(恋人)のチャッド・オミリアさんのアパートで、慣れないカンナビスを吸引させられ、1服目は何ともなかったが、2服目におかしくなり、突然キッチンに行ってナイフを取り、オミリアさんに襲い掛かった。後の証言によると、彼女は幻覚、幻聴に襲われ、自身の死体が見えて、「生き返るために闘わなければならない」という声を聴いたという。彼女の恋人への刺し傷は108カ所もあり、2カ所は心臓を切り裂いていた。恋人が息絶えた後、彼女は自身を刺し始め、その傷も43カ所に及んだ。急行したベンチュラ郡警察がテーザー銃で電気ショックを与えるが収まらず、結局警棒で手を骨折させるほと打って制止させた。
彼女は過失致死で起訴されたが、裁判で「法的には意識がなかった」との主張が受け入れられ禁錮刑は免れた。3年間の保護観察と罰金、100時間のコミュニティ・サービス(人々にマリファナの危険性を伝える活動など)に服した。2027年1月に保護観察期間は終わるが、昨年、有罪自体の取り消しを求め再審請求した。、今年6月19日、州上訴裁判所は訴えを2対1で棄却。彼女は、州最高裁に訴える予定という。
記事は最後に次のように言い、カンナビス使用に注意を呼び掛けている。
「カンナビスが精神症の直接の原因であるかは完全には証明されていない。単に相関しているだけで原因ではないかも知れない。しかし、少なくともいくつかのケースではカンナビスが原因となっていることが強く推定される証拠がある。いずれであれ、カンナビス利用と精神症の相関は、カンナビス利用者すべてがそのあり得る副作用について知っていなければならない理由となる。個人的または家族的に精神症、特に統合失調症の既往症がある人は強く注意を払う必要がある。」
闇が深い米国の薬物事情
ここで紹介されたのは極端な事例だ。カンナビス中毒によって殺人に至る事例はめったになく、そもそも統計も取られていない。研究者が、全米の報道などからカンナビスが関係していると思われる殺人事例を収集し分析している。それによると、2018年5件、2019年4件、2020年4件、2021年10件だ。いや、多いだろう、と思うかも知れないが、アメリカでは、年間約7000人がアルコールに関連して殺されている。より凶悪な各種薬物に関連した殺人推計はないが、そもそもそられらのオーバードースで使用者自身が万単位で死亡している。最新2019年1月までのオーバードース年間死推計は、フェンタニル30,362人、コカイン15,613人、ヘロイン15,475人、メタンフェタミン12,059人などとなっており、総計は83,864人で、これは全米の年間殺人被害者数の5倍に相当する。この統計にはないが、アルコールのオーバードース死(急性中毒死)も、年間1万5000人と推定されている。それに対してカンナビスでのオーバードース死は記録されていない。おそらくこれは致死量が低いことが関係していると思われ、各物質の半数致死量(体重1キロ当たりの摂取mg)は、フェンタニル0.3mg、ニコチン0.8mg、ヘロイン21.8mg、コカイン96mg、カフェイン192mgなどに対して、カンナビスの主要成分THCは1,270mgだ。塩の3000mgに近く、これの致死量摂取は難しいのではないか。
むろん、ここでは薬物中毒による事故死などは考慮外においている。それを入れると各薬物とも相当の数になるはず。カンナビスについては、2014年から2020年のフロリダ州警察(法律執行省)のデータを分析した研究があり、この7年間にカンナビノイドが原因で死亡した人は128人、合成カンナビノイドでの死亡者は258人、計386人という数字を出している。うち98.7%が交通事故によるもので、その中で12.57%が心臓血管関連疾患が関係していた。
しかし、死ななければいい、という問題ではない。マリファナの危険は人の精神的健康にリスクがあることだと思われる。例えば日本で飲酒の悪影響を考えると、駅のホームで吐いたり、二日酔いで頭を抱えて寝込むことだが(日本では最近、急性アルコール中毒で死亡する人はゼロになってきた)、米国での私の見聞を思い返しても、まれであるにせよ、マリファナは、パラノイアや幻覚を伴う中毒症状を何日にもわたって(数日から数週間)継続させる事例があった。米国のソーシャル・サービス団体でボランティアしていたこともあるが、身近な友人でもそのような症状に陥ったのを経験し、恐ろしく思った。
現在カンナビスは、アルコール、カフェイン、ニコチンに次いで世界で最も利用される薬物だ。国レベルの嗜好用を含めた合法化がウルグアイ(2013年)、カナダ(2018年)、マルタ(2021年)、ルクセンブルク(2023年)、ドイツ(2024年)、チェコ(2026年)で行われた。最大の消費国、米国でも、24州が嗜好用を含めたカンナビス合法化を行なっている。そうした趨勢にあるからこそ、その精神作用について科学的研究が重要だし、ずっと注視していかねばならないと思っている。
“ハイ”(急性症状)から物質障害(カンナビス誘発精神障害)へ
さて、以降の諸論文を理解するためにも、この数日~数週間続く中毒症状は、普通に「酔う」(ハイになる)状態とは別だということを確認しておく必要がある。そして皆がハイから中毒症状に移行するのでないことも確認しておく。
精神障害の診断ガイドラインとして広く使われているアメリカ精神医学会(APA)の「精神疾患診断・統計マニュアル」(DSM)の最新版DSM-5-TRは、カンナビス関連障害を、急性障害(主に継続24時間以内)と物質障害(24時間以上継続)に分けている。急性障害がカンナビス酔い(Cannabis Intoxication)で、これは通常の「ハイ」の状態を指すと考えていいだろう。主にカンナビス内物質THCにより、多幸感、リラックス感、鎮静、食欲増、記憶や意識集中の減退などが出てくる。THC濃度の高いカンナビスでは、幻覚、妄想なども出ることもあるが、全体的には一晩で(24時間以内に)回復する。(以上、例えば、Hardin, 2023参照)
しかし、この症状が翌日も収まらず、数日から、長い場合で数週間続くようになると、より重篤な「物質障害」(Substance disorder)の段階に移行する。DSM-5-TRでは、これにも4分類あり、一般的には「カンナビス誘発精神障害」(Cannabis-induced psychotic disorder)だが、他に同誘発不安障害、同誘発睡眠障害、同誘発妄想などの分類も立てている。別枠で禁断症状のカンナビス離脱症(Cannabis withdrawal)、依存症化しているカンナビス使用障害(Cannabis use disorder)もある。
数日以上続くカンナビス誘発精神障害になったら医者に行く(運ばれる)ことになるだろう。言動がおかしくなり救急病院に緊急搬送されることも多い。統合失調症や双極症の症状に似ており、これをそちらの分類に移すべきだと主張する研究者も居る(後述)。しかし、この急性症状は長くて数週間で収まり、退院して通常生活に戻ることが多い。
一時的精神障害への移行は0.47%か、20%前後か
カンナビス使用者のうちどれくらいの人が、重篤な同誘発精神障害に移行するのか。Schoeler, 2022が明らかにした「カンナビス利用者のうちの0.47%」という数字が広く流布している。これは国連薬物犯罪事務所(UNODC)が毎年行っている匿名のオンライン薬物使用調査(GDS、2014~2019年)の結果を分析したもので(対象となるカンナビスの使用者約23万人)、これまで一度でも「カンナビス関連精神的症状」(Cannabis-associated psychotic symptom, CAPS)で救急医療対象になった人の割合は0.47%とした。つまり200人中約1人となる。
しかし、他にも多様な数字があり、この論文の主要著者Tabea Schoeler自身も、162研究(対象210,283人)を総合した2年後のメタ解析論文で、「観察的研究」で19%、「実験的研究」で21%、「医療カンナビス研究」で2%が急性CAPSを発症するという数字を出している。観察的研究は嗜好的使用でのカンナビス酔い(intoxication)の主観的な評価観察、実験的研究は健康なボランティアにTHCを服用させてのチャレンジ的研究、医療カンナビス研究は各種既往症への対応としての医療カンナビス製品投与の副作用調査からのデータだ。先行研究でもCAPSの出現率は1%以下から70%まで大きな幅があるとし(p.866)、本論文の結果でも研究デザインの違いで大きな差が出ることが示された。彼女たちの前掲論文についても、「深刻なCAPS(フル精神的症状)はカンナビス使用者の200人に1人(0.5%)で出現するという我々のメタ解析結果」はそうした文脈の中でとらえられると書いている(p.869)。
しかし、最も控えめなこの0.47%という数字を採るにしても、現在、カンナビス使用者は急速に増大している。米国の2026年調査でも、2025年に前年比 21.2%増の6,160万人となった。その0.47%は29万人。大変な数が救急病院に押し寄せないか。
Google Scholar検索の上位記事:一時的障害から20%が後に統合失調症スペクトラム(SDD)へ
Javed, Mohammad Saad, et al. “Prevalence of schizophrenia spectrum and bipolar disorder among patients with cannabis induced psychosis: a systematic review and meta-analysis.” BMC psychiatry 26.1 (2026): 186.
Google Scholarでカンナビスと精神障害に関する2026年の記事を検索すると、この記事がトップに出てくる。使ったキーワードは「cannabis “psychotic disorder” meta-analysis」。psychotic disorderは精神障害。psychosis(精神病、精神症)の語を使う論文も多いのだが、DSM-5ではカンナビスによる一時的な(といっても数日~数週間を想定)精神障害をCannabis-induced psychotic disorderと規定しているので妥当なキーワードだろう。これだけでは症例報告を含めあらゆる研究が出てきてしまうので、多くの研究を縦断的に総合して結論を出す「メタアナリシス」を行なった論文に焦点を当てる。単独の研究調査だと、母数が少なかったり、偏っていたり、分析方法が特異であったりいろいろ問題があるが、それらを数多く収集し、一連の確定した統計学手法で総合し、より全体的真実に近い結果を導き出す手法をメタ解析、あるいは定性的分析を含めてsystematic reviewなどという。信頼性の高い研究手法として、最近頻繁に行われている。
Google Scholarはグーグルの検索でも学術論文に焦点を絞った検索エンジンで、他の検索エンジン同様、これで上位に出てくる検索結果が、アルゴリズム的により信頼性のある、注目されている論文であると考えられるだろう。むろん、最終的には人間が評価する必要もあるが、とりあえず膨大な論文の中から選び出すには便利だ。
この検索を行ってそのトップに出たのが上記論文で、2026年2月にBMC Psychiatry雑誌に発表された、米コーネル大学カタール校の研究者らによる「カンナビス誘発精神症患者における統合失調症スペクトラムと双極症障害の有病率:システマティック・レビューおよびメタ解析」だ。前述紹介した(数日~数週間の)一時的なカンナビス誘発精神障害の後、さらに本格的な精神障害に至る人がどれくらい居るかを分析した研究だ。
結論を先に言うと、条件を満たした世界中の13調査(患者対象7515人)で、一時的なカンナビス誘発精神症(CIP)を起こしたことのある人の20%が後に統合失調症(旧称:精神分裂症)スペクトラム(SSD)の診断を受け、5%が双極症(旧称:躁うつ病)の診断を受けている、という結果が出た。
(本論文で言う「CIP」は前述DSM-5-TRの「カンナビス誘発精神障害」(CIPD)に相当するとみてよいだろう。カンナビス酔い(24時間以内のintoxication)からまれに発生する数日~数週間にわたる中毒症状のことだ。それを患った人の20%が、その後、本格的な統合失調症になるという結果を導き出した研究ということだ。)
中身を検討すると、まず、作法通り先行研究の紹介から始めている。これは、門外漢にとって問題の焦点を理解するのにも有用な情報が含まれている。これまでの研究では、一時的に出現する物質誘発精神症(SIP。CIPを含む)を、統合失調症スペクトラム障害(SSD)など一般的な精神症と区別するのは難しく、SIPという一時的疾病分類を設けること自体の妥当性を疑問視する議論もあると指摘する(例えばJørgen G. Bramness et al, 2024)。SIPをSSDの初期症状ととらえてしまえば、カンナビスによる一時的な精神障害疾患に一般的な統合失調症の治療も導入でき、臨床上も大きな違いがもたらされる。
デンマーク、一時的精神障害の後、44.5%がSSD発症
一時的なカンナビス障害と恒常的な精神障害との関連を最初に指摘したのはArendt et al, 2005だった。これは、1994年から1999年のデンマーク精神科レジスター(全国民の精神科受診記録を蓄積したデータセット)からCIP受診者を抽出し、そこから精神障害の既往症のあった者を除外した535人についてその後を調査したもの。その中の238人(44.5%)がその後、統合失調症スペクトラム障害(SSD)の診断を受けていた(うち47.1%が1年以上たってから、17.2%が3年以内たってから)。その他の精神障害の診断を含めると77.2%に上った。カンナビス関連のCIPを経ずにSSDを発症した人についても調査したが、その発症年齢は、CIPを経た人より6年程度遅かった(男性で24.6歳vs30.7歳、女性で28.9歳vs33.1歳)。
フィンランド46%、スウェーデン9.9%など多様
その後も同種調査がいくつか行われたが結果はまちまちだった。1987年~2003年のフィンランドの同様の精神科退院時レジスターで調べたところ、SIPで入院した18,478人のうち、125人(0.7%)のみがカンナビス誘発精神症(CIP)だったが(他は、アンフェタミン誘発825人、アルコール誘発15,787人)、この内、46%が8年以内に統合失調症スペクトラム障害(SSD)と診断された(Jussi A. Niemi-Pynttäri, et al, 2013)。スウェーデンでの同様の調査では、CIP1000人のうち、後に9.9%がSSDと診断された(Kenneth S. Kendler, 2019)。英北西部のNHS管理下メンタルヘルス・トラスト事業での調査では、CIP患者23人の小規模調査であったが、78%がその後SSDと診断されていた(Komuravelli et al, 2011)。
先行のメタ解析研究(2020年):後に34%がSSD発症
本研究以前に一つだけ「CIPその後」のメタ解析研究が行われている。オーストラリアの病院、大学、研究所などの研究者による2020年発表の論文(Murrie et al, 2020)で、カンナビス誘発精神症(CIP)の後で34%が統合失調症の診断を受けたとの結論を出した。詳しく見てみると、まずMEDLINE、PsychINFO、Embaseのデータベースから50論文(対象:計40,783人)を抽出している。内、物質別の検討を加えているのは25論文、対象34,244人だった。フォローアップ期間は平均4年、対象の平均年齢28歳、男女比61:39、調査対象国は全25カ国で、英国5研究、デンマーク4、米国4、アイルランド3、スウェーデン3、ドイツ3、インド3だった。
カンナビス誘発精神症は、物質誘発精神症の中でも最も高率で統合失調症発症に移行する
なお、この調査ではカンナビスだけでなく、計6種の物質+物質複合についての誘発精神症を比較していることも注目される。全体として25%が後に統合失調症を発症していたが、カンナビス誘発精神症の場合が以後の統合失調症発症率が最も高く、上記の通り34%に達した。次いで幻覚剤26%、物質複合22%、アンフェタミン22%、オピオイド12%、鎮静剤10%、アルコール9%だった(p.511のTable 2も参照)。これについて同論文(Murrie et al, 2020)は次のように述べている。
「統合失調症への移行率は、アンフェタミンや幻覚剤を含む他の物質誘発精神症よりも、カンナビス誘発精神症の後でより高くなっている(34%)。3研究がカンナビスと他の物質について個別の推計を出している。その一つは興奮剤との差は大きくないとしているものの、それらすべてでカンナビス誘発精神症が最も高い統合失調症への移行率を確認している。これら個別研究内での一貫した知見は、カンナビス誘発精神症の高移行率が研究間の単なる方法的違いを反映したものではないことを示唆している。」(p.513)」
また、結論部分でも次のように強調している。
「物質誘発精神症はありふれた深刻な疾患だ。それらは統合失調症に移行する重大なリスクをかかえている。その統合失調症移行リスクは、カンナビス誘発精神症の後で特に増大する。それに対し健康管理、評価、治療において積極的な対応が求められる。」(p.513)
20%が統合失調スペクトラム障害へ、5%が双極症へ
いろんな先行研究を説明してしまったが、対象となる2026年発表メタ解析論文に戻る(Javed, 2026)。本研究では、Medline、 Embase、Web of Science、Google Scholar、PsychInfoの5データベースを対象に、2025年1月1日までの論文について検索をかけた。重複を除外した2412論文が選ばれ、2人の研究者がそれぞれ独立してタイトルや概要を精査し、最終的に条件を満たした13論文(対象:計7,515人)を選び出した。後の統合失調症スペクトラム診断を検証しているのが10論文(7,326人対象)、双極症診断を検証しているのが3論文(2,089人対象)だった。ヨーロッパの研究が62%、アジアの研究が31%、北米の研究が1つ。年齢が確認できるもので平均25.4歳、男女比82.3対17.7だった。
結果は、後に統合失調症スペクトラム障害(SSD)を発症したCIP患者が20%という数字が出た。先行メタ解析研究の34%より低くなった。母集団の71.8%が先行研究後に出た研究の対象者であること、先行研究は、同じデンマーク医療レジスターを使った3論文を含めたことでゆがみが出たと思われることなどを理由にあげている。
この研究は以後に双極症を発症したかどうかも調べた最初のメタ解析でもある。CIP患者の以後の双極症発症のデータがある3論文を総合しており、CIP患者の5%が後に双極症を発症したとの結論を得た。統合失調症スペクトラムの1/4の低い値だった。
結論部分で、この論文の研究者らは、再びSIP、CIPなどの診断分類を設定することに疑問を呈し、一時的に現れるカンナビス誘発精神障害(CIP)が、統合失調症に似ている面があるのだから、後者の中に前者を含めるような分類もありえるとし、CIPに新しい治療を導入する方向を提示している。そして、次のように延べる。
「カンナビスの販売、保有への法的制限が緩和され、濃度の高い製品が開発される中、CIP疾患も増えると思われる。したがって、CIPに対し包括的かつ科学的根拠に基づいた治療指針を開発することが極めて重要になっている。Starzer et al, 2018 らは以前、CIPと診断された患者は最低2年はモニターする必要があると勧告している。Shah et al, 2017は、以後カンナビスを断ったすべてのCIP患者が統合失調症を発症せずに済んだことを発見している。いくつかの研究は、最初の精神的症状を経験した患者が症状再発ごとに抗精神薬を投与していけば再発率を押さえられることを示している。」
止めれば出ない? とすれば
結論部分になっておまけ的に出されているが、カンナビスをやめた人すべてが統合失調症への移行はなかったという研究結果(Shah et al, 2017)は衝撃的だ。これは、一度カンナビスで重篤な一時的精神障害を起こした人でもその薬物を止めれば本格的な精神症には移行しないということであり、恒久的な精神病になることを恐れる患者本人、周囲の人々への朗報だが、そればかりでなく、カンナビスが精神症を起こすという因果関係も示唆しているようにも思われる。
カンナビスが精神症を起こすのか、それとも精神症の資質をもっている人がカンナビスに引き寄せられやすく、精神症を発現させているだけか。この因果関係についてまだ決着はついていない。しかし、止めたら出ないというのでは、原因になっていることを間接的に示唆しているようにも思われる。通常ならその後20%程度の割合で統合失調症に移行するはずなのに、カンナビスをやめたらゼロになった。誤差(見落とし)の可能性は残るにしても、カンナビスが主要な原因になっていることを否定しにくい。あるいはそれでも、「止められるような人は精神症資質があまりなかった人で、それを強く持っていた人は止められず本格的精神症発現に至ったはず」というような論理でカンナビスを無実にする説は維持されるのか。この辺の研究動静は重要なので別稿で詳しく見たい。
検索2位論文:18歳前の早期発症精神症(EOP)患者の中でカンナビス使用者は一般の8倍だった
de Pablo, Gonzalo Salazar, et al. “Systematic Review and Meta-Analysis: Prevalence, Correlates, and Impact of Cannabis Use and Cannabis Use Disorder in Early-Onset Psychosis.” Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry (2026).
上記のようにGoogle Scholarでキ-ワード「cannabis “psychotic disorder” meta-analysis」で2026年の論文を検索して2番目に出てくるのがこれだ。英西米独の研究者らによる「システマティック・レビューとメタ解析:早期発症精神症におけるカンナビス使用とカンナビス使用障害の影響」。18歳以前での早期発症精神症(EOP)患者を調べたところ、その32.8%が現行カンナビス使用者で、過去にカンナビスを使用したことのある者を含めると40.2%、依存症化したカンナビス使用障害(CUD)と診断されたことのある者は36.6%と、EOPとカンナビス使用との強い関連が示された。
前述、Google Scholar検索1位論文が全年齢層の調査だったのに対して、これは18歳以下の若年層に焦点を絞っている。EOP発症について、カンナビス使用の影響を数値的に明らかにした最初のメタ解析研究だとだとしている。
例によって先行研究など導入部分の叙述に門外漢には有用な情報が含まれている。現在、全世界の15~64歳の人の4.6%がカンナビスを使用しており、過去10年間に1億8200万人から2億4400万人へと34%増えた。15~16歳では人口の4.7%に当たる1160万人が過去1年間でカンナビスを使用していた。米国では2021年、2022年に12学年生(高3に相当)の31%が過去1年間にカンナビスを使用したことがあった。米国における平均的なカンナビス使用開始年齢は17歳~22歳で、青春期に、カンナビス依存症になるかどうかの重要な転機が訪れる、としている。
カンナビスと精神症の関連は150年前から知られているが(Moreau JJ., 1973)、18歳以前にカンナビス使用を始めた場合、特に精神症発症のリスクが高い(Bagot, 2015)。使用頻度と深く関係し、ほぼ毎日使用のヘビー・ユーザーは、非使用者に比してオッズ比で3.9倍、発症しやすくなるとされた(Marconi, 2016)。
そうしたイントロの後、この研究の詳細に入っていくが、PubMedとWeb of Scienceを中心に各国の主要データベースを検索して1,634論文を選び、確立された分析モデルに沿いながら最終的に40論文(26サンプル、対象EOP患者3,473人)に絞った。それを分析した結果、EOP患者全体の中でカンナビス使用経験者が40%(過去1年間の使用では33%)と、一般の同世代の使用比率(4.7%)より8倍以上多いことがわかった。また、通常は、カンナビス使用者の22%がカンナビス使用障害(CUD、依存症のこと)になることがわかっているが(Leung, 2020)、本研究の結果では、EOP患者の40%がカンナビス使用者、36%がCUD患者であり、ほとんどのEOP患者がCUDに移行していることがわかった。
本論文は、カンナビス使用と早期発症精神症に強い相関があることを示すのみで、カンナビスが早期発症精神症を招くのか、それとも精神症傾向をもつ者がより多くカンナビス使用に走る傾向があるのか、因果関係については何も言及しない。しかし、その相関がある限り、「メンタルヘルスサービスの中にカンナビス使用について専門家が介入することの重要性を示している」と結論付けている。
