医療カンナビスは科学的根拠があまりない

マスコミが騒ぐ

「医療カンナビスはあなたの不安症やうつに役立たないとの研究」(CBS)、「新しい大規模研究によると、医療カンナビスがうつ、不安症、PTSDなど一般的な精神保健上の問題を治療できるかの科学的根拠は見い出せず」(Discovery Magazne)、「ウィードは実は不安症やうつの治療に”ほとんど正当化されない”と主要科学レビュー」(New York Post)、「マリファナは不安症など精神衛生上の問題を和らげない、と科学者」(Philadelphia Tribune)、「多くの精神障害の治療にマリファナが役立つという”科学的根拠なし” 最大のレビューが解明」(The Independent)、「マリファナは精神健康の治療に使えるか?まだそのデータなし」(NPR)、「『かなり危い』のか。この研究があなたの医療用カンナビスの考えを変えるかも知れない」(Finacial Review)、、、その他いろいろ。

「最大かつ最も包括的なシステマティック・レビュー」

なかなか騒がしい反応だ。騒動を巻き起こしたのは有力精神医療誌Lancet Psychiatryの今年4月号に出た次の論文だ(オンライン発表は3月16日、修正版は6月16日)。

Wilson, Jack, et al. “The efficacy and safety of cannabinoids for the treatment of mental disorders and substance use disorders: a systematic review and meta-analysis.” The Lancet Psychiatry 13.4 (2026): 304-315.

一般に言われる「医療マリファナ」の有効性について、これまでの諸論文を可能な限り綜合的に検証したシドニー大学などオーストラリアの研究者らの論文で、著者らによると、「精神障害と物質使用障害(SUD)の治療用カンナビノイドの効果と安全性についてのランダム化比較試験(RCT)から得られた知見の最大かつ最も包括的なシステマティック・レビューとメタ解析」という。

アメリカでも世界でも、医療用カンナビスどころか、リクリエーション(嗜好)用カンナビスまで広がりつつあるご時世に、医療用カンナビスは「効力への科学的根拠があまりない」「めったに正当化されない」と結論を出した。慌てざるを得ない。今年出たカンナビス関連研究で最も注目を集めた論文だったのではないかと思われる。

利用が進むのにエビダンスがない、有効な治療を遅らせる

最初内容紹介のところで、結論部分「すべてのエビダンスが意味するもの」は次のように記されている。

「カンナビノイドは精神障害と物質使用障害の治療に増々広く認められているが、我々の検討では効果の科学的根拠がほとんど示されなかった。臨床での利用と得られる科学的根拠の間に大きな乖離がある。こうした治療がより効果のあるセラピーの利用を遅らせ、それに取って代わってしまうことを懸念する。より大きくより代表的な参加者サンプルを含む改善された研究デザインが決定的に必要とされている。」(p.305)

カンナビノイドは、麻(カンナビス)に含まれる100種以上の成分ことだ。陶酔作用のある主要成分のTHC、それがやや弱いCBN、ほぼないとされるCBDなど大麻成分全体をさす。マリファナはカンナビスのことだが、一般には陶酔作用をもつTHC製品を指すだろう。ランダム化比較試験(RCT)とは、例えば投薬組と偽薬組を分けて効果を調べる際、年齢、性別などその他違いを無作為にばらけて(つまり統計的にそれらの影響を無にして)などして結果を見る実験手法、メタ解析、システマティックレビューは、細かく話すと難しくなるが、要するに異なる条件下で行われた多数・多様な実験、調査、研究を、確立された統計手法その他を使って一貫した研究結果にまとめ上げる手法といったところ。

この研究では、Ovid MEDLINEやPsychINFOなどこの分野の主要5つのデータベースを使って、1980年6月1日から2025年5月13日までの全言語の記事を検索し、ClinicalTrials.govなど3つのレジスターでまだ論文になっていない治験も調べ、それ以外の資料にも適宜当たり、重複を除外し、5431論文を抽出した。それをタイトルと概要でスクリーニングし、全文の評価も行い、結局、条件を満た54臨床試験(参加者2,377人、うち男764人)に関する62論文を選び出した。これらの内容を精査し、統計手法も駆使して綜合した結果は次のようなものだった。

「メタ解析の結果では、オピオイド使用障害、タバコ使用障害、コカイン使用障害、双極性障害、不安症、ADHD、精神病性障害、PTSD、強迫性障害(OCD)、または拒食症については、カンナビノイドによる有益な効果は認められなかった。一方で、カンナビノイドは、カンナビス使用障害のある患者における離脱症状やカンナビス使用量減少、および自閉スペクトラム症患者の自閉症特性の軽減には関与していた。しかし、GRADEアプローチによる評価では、自閉症特性軽減に関するエビデンスの確実性は「非常に低い」とされ、この結果にデータをもたらした2つの研究は高いバイアスリスクを示した。また、不眠症状軽減や、睡眠時間改善を示す一部エビデンスも認められた。カンナビノイドを投与された患者においてチック症状の重症度の低下が確認されたが、これはカンナビジオール(CBD)とTHCを併用投与された場合に限られていた。」(p.312)

副作用がある

コカイン使用障害への投薬では、カンナビノイド群の方がプラセボ群よりコカインへの渇望が強くなる結果が出た。全体的にカンナビノイド投与には、深刻なものでないにせよ、プラセボに比してより多くの副作用があったとしている(オッズ比1.75、95%信頼区間:1.25~2.45)。NNTH(何人治療すると1人余分な有害事象が生じるか)は7人だった。医療用カンナビスの拡大は、効果の高さより、リスクの少なさを中心に議論される傾向があるが、本研究でも副作用や離脱症状は深刻ではなく、その意味でそうした議論の方向に沿うとしている。ただし、研究で使われたカンナビノイドはSativexなど正式登録された薬品であり、一般市場に出回っている未登録の高効力THC製品が使われる状況ではカンナビス使用障害を発症する可能性があるとも警告する。

有効な治療を遅らせる

先行研究以来多くのランダム化比較試験(RTC)研究が行われてきたが、有効性に関する科学的根拠は低いままだという。例えばBlack et al., 2016でも、「はっきりした効果はまばらで、害へのリスクは高く、その根拠は多くの場合観察的研究か、精神障害は二次な対象でしかないRTCだったことを明らかにしていた」と先行研究セクションで紹介していた(p.305)。そして、「有効性の根拠がない状態下でのカンナビノイド使用が、既知の有効なセラピー、例えばうつや不安障害の治療上大きな効果を示してきた認知行動療法(CBT)などを遅らせたり、行わせなくしてしまうことが懸念される。」としている(p.312)。

効果が認められる分野

本論文の研究者らは、決して一方的に医療用カンナビスを断罪しているわけではない。少ないながら効果を出している面にも言及し、科学者らしい客観的な立場を堅持している。次の通りだ。

「カンナビス使用障害、自閉症スペクトラム障害、不眠症、チック症またはトゥレット症状の治療においてカンナビノイドに希望が持てる発見もあった。カンナビノイドは、対照条件と比較して、カンナビス使用中止の促進で最も強い効果を示し、カンナビス使用と離脱症状の軽減、自閉症特性の低減、機器測定される睡眠時間の改善、チック症状の重症度軽減などで小規模な効果が認められた。カンナビノイドは、非医療用カンナビスの代替として作用することで、カンナビスの離脱症状と使用量低減に寄与すると期待されるだろう。興味深いことに、こうした有益な結果の多くは、カンナビジオール(CBD)とTHCの混合製剤の投与によるものだった。しかし、これらの知見の確実性は「低い」から「非常に低い」レベルにとどまっている。唯一、中程度の確実性で効果を示したのは、不眠症での機械測定による睡眠時間の改善だった。自閉症、不眠症、チックまたはトゥレッテ症候群に関するデータは多くなかったが、これらの疾患に対して有効かつ安全な薬物療法が限られていることを踏まえると、今回の知見は有望なものだ。現在、カンナビス使用障害の治療薬として承認された薬剤はなく、不眠症に一般的に処方される治療法の多くには、依存性や翌日の副作用といった明らかなリスクが伴う。全体として、本論文の知見は、これら疾患に対するカンナビノイドの治療的利用に関し、より大規模かつ代表性の高い参加者集団を含む優れた研究デザインでのさらなる研究を支持している。」(p.312)

ただし、ここでもその直後に、下記のように書く。「効果のエビダンスが薄いのに、一定地域で医療カンナビノイドの利用が激的に増加しており、より強い規制的な監督が必要であることが示されている。医療従事者が患者にカンナビスを薦めるようなインセンティブを与えられている状況の中では、そのような規制が特に重要である。」

結論は、繰り返しを含むが、次のようなものだ。

「精神障害や物質使用障害(SUD)の治療でカンナビノイドの使用が増えているが、ほとんどの疾患でプラセボとの比較において有益となるエビダンスは比較的弱いことが明らかになった。カンナビノイド(主にカンナビジオールとTHCの混合製剤)の使用が、大麻使用障害、不眠症、チック症・トゥレット症候群、および自閉スペクトラム症の症状を緩和するある程度のエビデンスは存在するが、そのエビデンスの質は低かった。より大規模かつ代表性の高いサンプルを用いたランダム化比較試験(RCT)が強く求められる。カンナビノイド治療の採用が、より有効な治療法の採用を遅らせ、それに取って代わらせかねないことが懸念される。全体的に言って、有効性に関するエビデンスの乏しさ、あらゆる原因による有害結果のリスクが大きいことにかんがみ、精神疾患や物質使用障害(SUD)へのこれら薬剤の恒常的使用は、ほとんど正当化されない。」(p.313)

他にも否定的結論の論文が続く

上記研究が特に例外的なものであったわけではない。世論に押されて諸国、米国内諸州でマリファナ合法化が進むが、医療用マリファナはあまり根拠がないという知見は、医学研究分野ではほぼ定番になってきた。2026年3月に上記研究が The Lancet Psychiatryから出るのと前後して、米国医師会(AMA)が発行する内科誌JAMA Internal Medicineにも次の論文が掲載された。

Kansagara, Devan, et al. “Cannabis and mental health: A review.” JAMA internal medicine 186.5 (2026): 618-628.

残念ながらこれのフルテキストは(無料では)読めないが、結論は「現在の科学的根拠では、精神衛生的諸症状の治療にカンナビスを用いることは充分に支持されず、副作用が大きいことが示されている」というものだ。THCを主としたカンナビスがPSTD症状を改善する根拠は薄く、同じくTHCを主成分とするカンナビスの利用が不安症、うつ、ADHDに効果があるかについても不十分な根拠しかなく、不安障害患者へのCBDの単独投与も低確実性の根拠しかないという知見が出ており、逆に、THC系カンナビスは副作用が大きく、双極症の躁症状や、精神病性スペクトラムの症状を悪化させる、という。

主要紙JAMAも

主要医学誌のJAMA(The Journal of American Medical Association、週刊)2026年1月27日号のに載った次の記事も「ほとんどの医学所見についてカンナビスまたはカンナビノイドの利用は科学的根拠が不十分である」との結論を出した。

Hsu, Michael, et al. “Therapeutic use of cannabis and cannabinoids: a review.” Jama 335.4 (2026), January 27, 2026: 345-359. Online version:November 26, 2025.

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、同サンフランシスコ校(UCS)、ハーバード大学などの研究者らによるこの研究は、「PubMedデータースで、2010年1月1日から2025年9月15日に出された英語の観察的研究、ランダム化比較試験(RCT)、臨床ガイドライン、メタ解析を検索して」行われたもので、「全部で124研究が含まれ、内訳は、21臨床ガイドライン、7システマティックレビュー、3メタ解析、24システマティックレビューとメタ解析の総合、10RTC、17非システマティック型のレビュー、4パッケージラベル、30観察的研究、8その他研究(症例報告など)」だ(p.E3)。

わかりやすく基本情報を配置

なにやら難しい大規模研究のように見えるが、内容はそうではない。多くのシステマティックレビューが素人には難しい各種統計手法を駆使して結論を出すのと違い、基本データをわかりやすく読める形で示し、かつその根拠を出典付きで網羅的に配置している。著者らも「これは、採用した諸研究のバイアス・リスク評価をしていないなど本格的なシステマティックレビューではない。また、多くの採用研究は観察的なものだ」と認めている。一見したところ家庭医学ガイドの詳細版で、一般消費者にも役立つ形式になっているので推奨できる。

日本でも、(カンナビスは使わないだろうが)悩める各種症状に、いろんなサプリを自己判断で使う状況はあるだろう。しかし、それらの厳密な医学的・科学的根拠は明らかではない。医療用マリファナに手を出す人は、それと同じような(あるいは精神作用があるだけさらに大きな)リスクにさらされている。そこでこの論文を参照すれば、どのような臨床試験が行われ、各種学会がどのようなガイドラインを出しているか総合的にわかる。研究者にも役立つだろうが、何よりも一般消費者向けの目線がある。

例えば、不眠症の項目は次のような説明になっている。

「2022年の世界睡眠学会ガイドライン(Morin et al., 2021)、およびカイザー・パーマネンテ(訳注:大規模な病院網をもつアメリカの主要健康保険システム)によるガイドライン(Kaiser Permanente, 2021)は、不眠症の治療でのカンナビスまたはカンナビノイドの使用を推奨していない。世界睡眠学会はエビデンスが不十分であることを挙げ、「弱い」レベルではあるが、それを使用しないことを勧告している。/39件のランダム化比較試験(RCT)のメタ解析(対象総数:慢性疼痛を有する成人5,100名、38件は経口カンナビノイド、1件は吸入カンナビスで評価)では(AminiLari, 2022)、プラセボと比較して、カンナビスおよびカンナビノイドの使用で睡眠の質と睡眠断絶にわずかな改善があった。睡眠の質の改善では、臨床的に重要な最小限の差を示すモデル化リスク差(RD)は8% (95%信頼区間:3%~12%)、エビダンスの確実性は中程度だった。睡眠断絶の改善では、モデル化RD19%(95%信頼区間:11%~28%)、エビダンスの確実性は中等度~高度だった。しかし、このメタ解析では、妥当性が検証された睡眠評価尺度の利用が限られており、投与量との関係、長期的な治癒結果、併用薬に関するデータも不十分だった。」(pp.E7-E8)

カンナビス推進派の反応は

こうした「科学的根拠なし」の学術的論文に対して、カンナビス推進派、推奨派の方々はどういう反応をするだろうか。少なくとも確信的カンナビス使用者の間では、大した影響はないのではないか。偏見を承知で言うと、私の接した医療カンナビス推進派の人たちは、決して難病に苦しむ人たちのため崇高な使命感で立ち上がった、という風には見えなかった。「自由に吸わせろ」、そのために「医療用マリファナ」が錦の御旗になるなら大いに結構、という意識はなかったか。だから嗜好用カンナビスの合法化まで行った今、実は医療用はあまり効果はなかったと聞いても、ああそう、と思うだけ?

カンナビスは巨大産業

騒動を巻き起こした前述論文に対しても、SNSの書き込みなどを見ると、「私には効いている。別に科学的エビダンスは必要ない」という剛の者から、「科学界にはまだ偏見が強い」という意見まで様々だが、やはり目立つのは「またまたアルコール、ニコチン産業から資金が出て行われた研究」という定番の意見だ。現在合法の薬物アルコール(酒)やニコチン(タバコ)を売る産業が、必死でカンナビスの台頭を抑えている、という認識だ。やや古いのではないか。

「カンナビスにはこういう効果があるかも」といったウェブページ情報を見て行くと、カンナビス企業が提供する記事だったりする。何よりも、現在、カンナビス産業は、ニコチン産業に匹敵する巨大ビジネスになっている事実を認識していない。2022年の米国の合法カンナビス産業の市場規模は合法市場280億ドル、違法市場740憶ドルで計1020億ドル。これに対して同年の米国たばこ産業市場は903億ドルだ。今やカンナビス販売店舗の数は全米で2万店を越し、マグドナルド(1万4000店)やスターバックス(1万7000店)より多い。ちなみに、日本の食品スーパーの数は2万3000店舗だ

医療カンナビスとは何か

米国で正式に医薬品を認可するのは連邦食品医薬品局(FDA)で、カンナビノイド関連では3つが認可されているだけだ。子どものてんかん関係の難病レノックス・ガストー症候群(LGS)、ドラベ症候群(DS)、結節性硬化症(TSC)に対してエピディオレックス(Epidiolex、精製CBD)が認可され(2018年)、がん化学療法に伴う悪心やAIDS患者の体重減少、食欲不振の治療などに用いられドロナビノール(Dronabinol、製品名マリノール、シンドロス、合成THC)、同じくがん化学療法での悪心に使われるナビロン(Nabilone、製品名セサメット、THC類似の合成物質)も認可を受けている。それが厳密な意味での医薬品で、それ以外の「医療カンナビス」は州レベルで認められてはいるが厳密な意味での医薬品ではない。州によって異なるが、医者からカンナビス使用が適切だというような「証明」や「推薦」を受けて、それで州事務所から許可証のようなものを発行してもらい、一般のカンナビス店舗に行って「薬」を買う。正式な医薬品なら医者から「処方」され、どんな薬剤をどれくらいの量使うか正確に指定されるが、カンナビス店舗で買う場合は多くの場合そこまで細かくは制限されない。

今年4月にトランプ政権が、連邦や州政府が認める医療カンナビスを、規制物質法(CSA)上のスケジュール1からより規制の緩いスケジュール3に降格させたが、これでも上記事情は同じだ。今後の規則改正でカンナビス全体がスケジュール3に移行すれば、カンナビスの医薬的効果や安全性について研究がしやすくなるなどメリットが出る。しかし、医薬品の認可は別途、食品医薬品化粧品法(FDCA)により基づいて実施される。

医療カンナビスとは不思議な位置づけだ。医薬品として医者に処方されることはないが、医者からの推奨や州政府からの許可が必要だ。しかしそれさえあれば店である程度自由に買える。連邦に対して州が強い自治権をもつ米国政治制度も関係しているだろう。その不思議な形態の中で、医療カンナビスが嗜好用に道を開く結果になっているようにも思われる。医療カンナビス関係の情報提供や医師のコンサルを仲介するサイトLeafy Docは次のように記している。

「カリフォルニア、コロラド、オレゴンでは、(医療カンナビスの)利用対象となる疾患リストが最も包括的になっている。1996年の住民投票(提案215)で設立されたカリフォルニアのプログラムでは、医師に、効果があるあらゆる疾患にカンナビスを推薦することを認めており、これは結局、医師の裁量が無制限であることを意味する。コロラドも同様に、医師が有用と判断すれば、明記リスト外の衰弱症状に広く適用することを認めている。」(Hammad, 2026

オクラホマ、ミズーリ、アーカンソーなどでも同様に医師の裁量が大きく、ニューヨークも慢性的な痛みを含む広い適用症状を規定し、ペンシルバニアも不安症などを含む24症状を規定しているという。

嗜好用カンナビスが合法化された州では、医師の推奨や州の証明カードも必要なく、簡便にカンナビスが買えるようになった。しかし、21歳以上という年齢制限、用量制限や種類の制限、価格その他の面で医療カンナビスが依然として有用な場合もあるという

カンナビノイドはガン患者を早死にさせている?

カンナビノイドは、がんやがん治療副作用の痛み、吐き気と嘔吐、不安、食欲不振などを軽減する薬物として期待され、研究が進められている。実際、米FDAでも上記の通り、化学療法による吐き気と嘔吐の予防・治療用に2種類のカンナビノイド薬(ドロナビノールとナビロン)を認可している。代替治療薬の少ないこうした深刻な部面での利用こそ医療カンナビノイドは真剣に探求されるべきだが、ここでも警告が発せられている。カンナビスが免疫療法の効果に悪い影響を与えているというのだ。

『ニュージーランド医療ジャーナル』2025年7月25日号(月2回刊)に出た論文がなかなか衝撃的なタイトルで、「ガン免疫療法に併用されるカンナビノイドは早死にをもたらしているか? 注意とさらなる研究の呼びかけ」となっている。

Jansen, Ben. “Are cannabinoids with cancer immunotherapy contributing to early death? A call for caution and further study.” The New Zealand Medical Journal (Online) 138.1619 (2025): 8-13.

近年の3論文レビューに基づき、カンナビス使用がガン免疫療法の効果を弱める可能性があると指摘している。題名からして、これはカンナビノイドに相当の敵意をもった人の論文か、と思ったがそうではなかった。

著者は医療カンナビス推進の旗手

論文著者ベン・ジャンセンはニュージーランド出身でオーストラリアの代表的な医療カンナビス推進論者だ。専門的な医者として活発に医療カンナビスを処方し(オーストラリアでは一応医者の「処方」が必要)、「カンナビス医者オーストラリア」(CDA)などを設立して活発なコンサル・啓発活動を行う。さらにカンナビス産業での起業活動にも活発で、オーストラリア初のカンナビス製品卸企業BHCを設立し、現在オンラインのプラットフォームCanviewを通じて医療カンナビスその他セラピー製品を販売する。数度にわたり「カンナビス産業賞」にノミネートされ、2023年12月にはオーストラリアの規制機関、セラピー製品監督庁(TGA)から医療カンナビスの違法広告で訴えられてもいる。当時の彼の会社CDAクリニックスがウェブページで、質問票に記入するなど簡単な「オンライン・コンサルテーション」で、本来は医者の処方が必要なCBDを販売し、1989年セラピー製品法違反になったという。押しも押されぬたたき上げのカンナビス推進派、そのリーダーだ。それが、医療カンナビスへの強い警告を発した。

カンナビスを使うと免疫療法への悪影響が約3倍

論文はいたって専門的で、各種研究結果を詳細に検討している。主要3研究を検討しているが、まず最初の論文はTaha et al., 2019。

肺がん、腎細胞がん、悪性黒色腫(メラノーマ)など進行がんで免疫療法薬ニボルマブの投与を受けた患者を対象に、単独投与群(89例)と、カンナビスを併用した群(51例)の2群を比較した。その結果、がん細胞が縮小、消滅した患者の割合を示す奏効率(RR)が、ニボルマブだけの投与群(37.5%)に比して、カンナビス併用群は優位に低く(15.9%)、オッズ比は3.13(統計的に有意)だった。カンナビスを併用すると、免疫療法への反応が不良となる可能性が約3倍高くなるということだ。

生存期間が1/4以下に

2番目の研究は、Bar-Sela et al., 2020で、1番目のTahaらの研究結果を別の患者コホートで検証し、さらに発展さた。免疫療法を受けながらカンナビスを使用している患者34名と、カンナビス非使用患者68名を比較。結果は、画像診断上の腫瘍進行までの期間(中央値)が、カンナビス非使用群で13.1ヶ月だったのに対し、併用群で3.4ヶ月だった。全生存期間(OS)の中央値については、カンナビス非使用群で28.5ヶ月だったのに対し、併用群で群で6.4ヶ月と著しく短かった。

研究に欠陥も

2つの研究は、カンナビスが免疫療法に悪影響を及ぼすことを示唆するが、批判もある。Piper et al., 2024は、Tahaらの研究でカンナビス使用群と非使用群との間にコントロールされていない有意な統計的差異があり、小規模研究では、結果をゆがめると指摘。年齢で62歳対67.7歳、タバコの喫煙状況で56.9%対40%、肝転移で65%対19%の差があった。また、免疫治療の二次治療だった患者数も85%対55%と差があった。Bar-Selaらの研究についても、22の統計数値のうち、同じ統計手法を用いて再現できないものが4つあるなど解析上のミスが複数あること、コホートの患者背景に有意な差があったことも示された。

病勢コントロール率が1/3以下に

それらを踏まえて第3の研究Hadid et al., 2024が出たが、これはカンナビスが免疫療法を阻害する結果を出した。デトロイトの単一施設で行われた後ろ向きコホート研究(固形がんに対し免疫チェックポイント阻害薬を投与された患者105名対象)で、カンナビスは主にドロナビノール(経口合成THC)の形で投与された(全体の82%)。結果は、全生存期間(OS)中央値が低下し(6.7ヶ月対17.3ヶ月)、病態の安定度を示す無増悪生存期間(PFS)が短縮し(4.8ヶ月対9.7ヶ月)、病勢コントロール率も著しく低下した(10.7%対37.7%)。

「研究結果にオープンな姿勢で臨む」

この研究でも、依然としてパフォーマンスステータス、併存疾患、社会経済的地位などがコントロールされきれておらず、タバコ喫煙者もカンナビス使用群の中で優位に多く(96%対74%)、さらにカンナビノイドの使用形態も害が大きい吸引(喫煙)が多いなど、まだまだ突っ込みどころはあるのだが、カンナビス推進論者のジャンセンは、THCやCBDが免疫機構に大きな影響を与えるという他の各種研究も踏まえながら、明快な警告を発する判断を下したようだ。結論部分で次のように言う。

「医療従事者として、がん関連症状(痛み、吐き気、拒食症など)を管理する上でのカンナビスの有用性を、治療効果を弱める可能性と対照しなければならない。カンナビスはがん患者ケアで可能性を秘めた役割を果たすが、得られている初期知見からは、免疫療法施行時には注意深い配慮が求められる。/医療カンナビス産業に関わってきた者として、これら研究結果にオープンな姿勢で臨むことが大切だ。腫瘍学におけるカンナビスの療法的可能性はまだ発展段階にある。医療従事者は注意が求められ、さらなる研究が明確な指針を出すまで、起こりうる反応について患者が十分な情報が与えられるよう保証する必要がある。」(pp.11-12)

偏見なく、科学的エビダンスのみに従う態度

立派だ。自分の信念に反することでも、科学的エビダンスが出れば断固としてそれに従う。カンナビスは危険か安全か、推進か抑制かの議論はしばしば「イデオロギー対立」、「思想・信条」の問題になってしまうところがある。互いにあらゆる屁理屈を含めて、自己に有利な論点だけを取り上げて主張する。そういう中で、ジャンセンの行動は、真実のみに躊躇なく従う科学者の態度としていさぎよく、見習うべきだ。