900円の宿にありつけた

マルタからチュニジアのチュニスに飛んだ。

なぜ? マルタ滞在はEU滞在許可の関係で3カ月が限度。次の3カ月は域外で暮らしてこなければならない。チュニジアは近くていいだろう。飛行機代も片道4000円程度だ。それにチュニジアなら物価も安いはず。原稿書きの仕事でこもる必要もあったのでちょうどよい。

予約サイトにない宿

予約サイトで調べる限り、チュニスのホテル一人部屋の最低は13ユーロ(1600円)だ。マルタより安いが極端に安いわけではない。おそらく予約サイトに載らない宿でもっと安いところがあるはずだ。アジア貧乏旅行の経験からそう踏んで、チュニス到着後、探し始めた。

やはりあった。予約した13ユーロ(44ディナール)の宿は旧市街(メディナ)東側付近にあったのだが、その近く、及び旧市街南側Bab Jedid通り、チュニス駅西側付近(まとめてメディナ東・南東一帯と言ってよかろう)に多かった。安そうなところで当たった限りでは15~40ディナール(500~1400円)だった。さすがに500円の宿は怖かったので25ディナール(900円)の宿にした。

ヒルチ・ホテル

Hirchi Hotelという。場所は旧市街南東端、シディ・バシル(sidi el Béchir)広場付近。四角い尖塔のモスクがあって、その周りに野菜、果物、肉、古着、古靴などの市場が密集する。まさに庶民の街といった風情だ。(古着はともかく、古靴の市場が結構大きいのが印象的だった。)

旧市街東の勝利広場付近も同じような雰囲気だが、こちらはチュニスのメイン通りであるハビブ・ブギバ通り・フランス通りの終点(ビクトリー広場)に当たるので、より観光客に好まれているようだ。軒並み「満室」を連発された。アラビア語かフランス語かわからないが、「満員」のことを「コンプリ」と言うらしい。勉強になってしまった。

また、旧市街の北西地域(Sidi Ben Arous通り周辺)は、ある程度整備されてきていて、今後の旧市街観光の中心になりそうな雰囲気だった。趣があってよいが、ホテルは少し高そうだった。

ヒルチ・ホテルは900円でも、決して粗悪宿ではない。外装も洒落ていて、一応清潔。窓があり、一応広い。トイレ・シャワー付きで、水道はお湯も出て、何より気に入ったのはWifiが速いこと。ロビーに近い部屋だったからかも知れないが、ストレスなくネットが利用できる。

欠点

悪い点ももちろんある。ベッドのシーツがない。トイレのカバーがない。ヒーターがない(冷房は扇風機のみ)。洗面台のパイプから少し漏る。そのせいか部屋がやや湿気を帯びている。タオル、石鹸は付いてない。特に、やや暖かい地域の常で、暖房が整っていないことが一番厳しい。ヒーター付きの部屋もあったが、窓がないので、やはり明かりの入る部屋を選んだ(ヒーターはあっても安宿だと弱く、あまり暖かくない。小さい部屋にしてやっと少し暖かくなる)。1月下旬。外を歩く分にはちょうどよい気候だが(日本の晩秋か早春程度)、部屋にじっとしていると寒さがこたえる。

寒さに適応

しかし、適応、適応! 室内でジャンパーを着こみ、ずぼん又はももひきを二つはき、厚い靴下と手袋を着用していれば、何とかしのげる。靴をはくと厚靴下と同じ効果があることを知った(普通、暖を取るために靴をはかない)。手袋は、ホィールパッドを使う右手にバスケ用の指先露出タイプを使うと、パソコンいじりもできることがわかった。持ってきてよかった。シーツのないベッドは「野宿」と割り切ればいい。着の身着のまま寝る。幸か不幸か寒いので、ジャンパー含め厚着したまま寝る必要があって、ちょうどよい。さらに、ダブルベッドなのでブランケットを二折りで二重にする。夜寝る前に温水シャワーで体(または足のみ)を温めれば、何とか寝られる。それに部屋が寒いとメリットもある。冷蔵庫が要らない。買ってきた飲食物が長持ちする。そして仕事してても眠くならない。寒さに緊張して仕事がどんどん進んでしまう。

我が高級宿ヒルチ・ホテル。(手前の赤い店は肉屋さん)
シディ・バシル広場は旧市街の南東端。モスク(右)のまわりにありとあらゆる種類の市場がある。この辺は果物屋台の一角。背景の携帯電話アンテナあたりに我が高級宿の看板が見える。

(後日談)

サハラから帰ってきて、また同じ宿に泊まったのだが、何と今度は窓あり暖房ありの部屋だった。部屋の大きさこそ半分程度で天井も低いが、日本のビジネスホテル程度はある。そしてまあ暖かいこと。昼も夜もぽっかぽか。この間までの寒さとの戦いは何だったのだ、とあきれた。言葉が通じなくてあきらめていたが(アラビア語とフランス語のみ)、部屋を選ぶとき、暖房と小さい部屋を断固主張するべきだった。今後のいい教訓になった。

(こちらの人は、寒さなどあまり気にしないかのか。夏の暑さこそ問題で涼しければ極上という意識か。確かにあちらの部屋は夏は涼しいだろう。しかも広くてダブルベッドだった。それだけいい部屋を与えてあげたというつもりだったのかも知れない。暖房費を節約するため、暖房部屋は小さく、という暗黙の了解があるのかもしれない。)

暖かさの代わりに、(ルーターがあるレセプションから離れたので)Wifiがほとんどつながらなくなった。しかし、これはロビーで仕事すれば問題ない。また、部屋は乾燥しているが、水回りが依然問題で、シャワーすると水が完全には流れない。しかし、これは途上国の安宿としては許容範囲だ。洗面所に微妙な高低差をつけて水が穴から流れるようにするという非常に単純なことができていない建築が非常に多い。日本なら「欠陥建築」として告発されるところだが。

総じて、チュニスのこの安宿お勧めだ。シャワー・トイレ付きで25ディナール(900円)、ある程度まできれい、駅やバスターミナルに近い、観光名所の旧市街、「チュニスのシャンゼリゼ」にも近い。暖房のあるなしに注意すれば冬でもOK。欲張れば、窓あり、Wifi状況よしの部屋もあるかも知れない。

我が高級宿の部屋からの眺め。900円の宿としては上出来だろう。