アマゾンに応募

ブルックリン・サンセットパークのバスケ上で子どもたちがバスケ。
アメリカの公園には必ずバスケットボール・コートが2~3面あって、近所の若者や子どもたちがやってきて「玉入れ」をしている。

アマゾンに応募しよう決めたのは、公園バスケで大柄な黒人青年と1対1の対決をした夜だった。

アメリカでバスケットボールは国技のようなもので、どこの公園にも必ずと言っていいほどバスケコートの2つや3つはある。そこに近所の腕に自信のある若者、子どもが集まってきて、思い思いに「玉入れ」をしている。その中でもとりわけ体格がよく、1メーター90はある青年に申し込んで対決した。

黒人は皆バスケの達人、というのはステレオタイプだ。例外も多いことをこちらでバスケをしているうちに理解した。よしやってやろうじゃないか、と彼にも向かっていったが、歯がたたなかった。体格がいいだけでなく結構練習もしているようで、動きが速い。こうなると勝ち目はない。シュートが1本も入らなかった。全部高いところで叩き落される。遠くから打とうしても素早く近づいてきて止められる。リング下でフェイク(シュートするそぶりで相手を飛び上がらせ、落下してきたところで真打ちシュートをする)をやっても、叩き落される。それもそのはず、彼はジャンプなどしていない。1メートル90の上から手をかざしているだけ。それで全部たたき落される。

徹底的に負けて、握手して分かれ家に帰って、そうだアマゾン配送センターに応募しようと決意した。負けたけれど大きな壁に挑戦していく勇気が必要なのだ。アドレナリンが体中にみなぎり、脳にもまわった。すぐに、ウェブで応募申請を出した。

独自流通網を拡大するアマゾン

Indeed他の求職サイトにアマゾンの求人広告がいっぱいある。アメリカのアマゾンは今、宅配業者に頼らない独自の流通網を構築しようとしており、全米100カ所あまりの拠点物流センター(Fulfillment Center)以外に小分けして地域に配送する配送センター(Sorting Center)を大都市地域に建設している(例えば、Marc Wulfraat, “Logistics Comment: Amazon is Building a New Distribution Network – Quickly and Quietly!, Supply Chain Digest, July 23, 2014参照)。そのうちのニューヨーク地域を担当するらしいニュージャージー州ティーターボロの配送センターの求人があった。時給13.50ドルと他の倉庫業務に比べかなりよく、勤務時間もパートで、ある程度自由に設定できるようだった。

今どき、猫の手も借りたいくらいに人手を探しているはアマゾンくらいだろう。これは行けるかも、とふんばってみたのだ。何しろアマゾンによると、今年の4月現在で物流センター網全体で9万のフルタイム労働者を雇っているが、今後1年間でさらに2万5000人のパート労働者を雇うとしている(Jennifer Smith, “Online Retailers Heat Up Job Market,” Wall Street Journal, April 10, 2017.)。

20キロの荷物を持ち上げられるか

この67才のおじさんが肉体労働に応募する上で、一線を越える大きな決断が必要だった、ということではない。すでにいくつか倉庫業務に応募していた。日本でもアメリカでも高齢者の就職は難しい。とにかく手っ取り早く稼げればどんな仕事でもいい、という状態になっていた。しかし、このアマゾン物流センターは、ハドソン川を越えたニュージャージー州側にある。ブルックリンから行くと、マンハッタンに出てそこからさらにNJトランジットのバスに乗るなど通勤が大変だ。加えて仕事の説明に「最大49ポンド(約20キロ)の荷物を持ち上げ、10~12時間立っていたり歩いたりしなければならない」と書いてあったので躊躇していた。しかし、とにかく何でも挑戦する気持ちがないとだめだ、とこの日のバスケで教えられ、私は応募したのだ。

うんともすんとも返事のない他の求人応募と違い、アマゾンはすぐウェブ上で面接に近い各種質問を受けた。なかなか興味深い性格テストなども受けた。いきなり次の段階に進めたので悪くない印象だ。審査の状況は自分のアカウントにアクセスしウェブページで調べられる。全体的に大量の求人をシステマティックかつ合理的にさばいている、という印象を受けた。

合否判定には時間がかかる、とウェブ上の経験者のフォーラムなどに出ていた。私の場合もすでに1週間たつが返事はまだだ。性格テストで落とされる可能性は十分あるが、それはそれでしかたがない。

(後日談)2週間ほどして、「投資してくれた時間、ありがとう。しかし、手続きについてこれ以上進めないと決定しました」というメールを受け取った。要するに落ちたということだが、あまり悪い気はしなかった。ほったらかしでうんともすんとも言って来ない会社がほとんだ。きちんと落選の連絡もしてくるのは大人の対応で、さすがアマゾン、と思った。性格が悪かったか、67才に20キロの荷物は無理だと判断されたか、フリージャーナリストの経歴が恐れられたか、あるいは単純に米国内クレジットヒストリーがないのでだめだったか。理由はわからないが、とにかく次に進める。

バスケコートでは、くだんの大柄若者とその後も何度か会った。目が合うとにこっと笑って相手してくれる。が、やはりまだシュートを1本も入れていない。