ザンビア・リビングストンまで来たからにゃ、ビクトリアの滝を見に行かないわけにはいかない。と、リビングストン南12キロの世界最大規模の滝に出かけた。最大落差108m(ナイアガラの滝の2倍)、幅1.7キロ(ナイアガラの1.4倍)の滝だ。
ビクトリアの滝周辺はホテル代も高いが、リビングストンから公共バスはなく、タクシー代片道20ドル程度、国立公園入園料20ドルと、計1万円程度かかる。おいおいここまで来てケチる話かよ、と言われそうだが、私の場合、観光にそれほど興味があるわけではなく、それより、安く行ける方法探しに生きがいを見出している方なので、勘弁して下さい。死ぬ前に一度はこの滝を見なければ、と来た人は、迷わず1万円を出費すること。さらに徹底的に見たい人はジンバブエ側にも行くこと。
ビクトリアフォールズ橋は国立公園外
まず、国立公園入園料20ドルをケチるためには、滝がよく見えるナイフエッジ橋など公園内の遊歩道をあきらめ、無料で渡れるビクトリアフォールズ橋に行くことだ。国境の橋だが、渡り切って帰ってくることができる。この橋の上から見たビクトリアの滝の光景が上記写真。全体は見えないが、十分に壮大さを満喫できる。
国立公園入園料はかつては無料だったが、ここ数十年で有料になり、かつどんどん値上げされているようだ。ウェブ上の情報も次々古くなっている。公的サイトでもあまり信用できない。ジンバブエ側では昨年値上げされ、外国人50ドルとられるようになったらしい。ザンビア側は今のところ20ドルのまま。今年6月11日に入園したブログ氏の証拠写真がここにある。
地元民の有料ヒッチハイクに便乗
滝まで行くバスがないというのは、やはりタクシー代などで地元にカネを落とさせるためだろう。実際、後述するように途上で象なども出没するので、これはあまりケチらない方がいい。しかし、距離は12キロだ。これくらなら歩けるぞ、と宿から滝方向に歩き始めた。
すでに述べたように、交通手段の限られているアフリカでは、車で行く人が有料で客を拾う「ヒッチハイク」(通称「ハイク」)が広く普及している。歩いて行くうちにそういうのを拾える可能性もある。しかし、ここは観光地。やはり高料金を課す白タク営業が多いようだ。
街はずれまで来ると、いかにも「ハイク」を拾おうとしている地元青年が居た。話しかけると、滝付近の観光業で働いている若者で、通勤のため「ハイク」を探しているという。なるほど、こういう労働者が高い白タクに乗ることはできない。地元民の間で安いハイクをやっている車を拾う必要がある。
結果的にわかってしまったが、こういう地元民通勤者を探し、彼らといっしょに待っていれば安いハイクにありつける。地元民レートだと、滝まで25クワチャ(約200円)だという。観光タクシーの15分の1だ。毎日通勤で使っていると、どんな人(車)がこうした地元民ハイクをしているのかわかるようになる。何時ごろにどんな車が来るか迄わかるという。
「あ、来た来た」
と彼が手を上げて小型車を停める。女性ドライバーだった。他に2人の乗客が居て、私たち2人が乗ると満席になった。後でわかったのだが、彼女は橋手前の出入国管理事務所で働いている人だった。なるほど毎日車で通勤する人なら、ついでに客を拾えば、ある程度お小遣い稼ぎができる。通勤用ハイクを待っていた若者も、こういう車をたくさん知っていて、それを待っていたということなのだ。
車の中でおしゃべり。「へえ、日本人なのに英語話すのね。」 え、そんなに日本人は英語できないと思われているの。「私はハードに勉強したからね、はっはっは。」
その他どんな興味でザンビアに来たのか、日本で何してるか、家族は、とさすがに出入国管理事務所で働いている女性だけあって、知的好奇心が旺盛だった。そしてビクトリアフォールズ橋のたもとに着いて私たちを降ろすと、
「きょうは特別、おカネは要らないよ。橋に行って楽しんできて。」
あらら何ということだ。しかし、それはありがたい。いっしょに乗った若者も喜んでいた。
人の死ぬのを見たくない
「人が死ぬのを見たくないんだ。車に乗ってくれ。」
ドライバーの青年が物騒なことを言う。この先に象の出没箇所があり、先月もアメリカ人観光客が踏みつぶされて死んでいるという。「象が居て歩くのは危険」という話は聞いていたが、タクシーに乗せるための脅かしだろう、と思って深刻に受け取らなかった。なにしろこちらはカラハリ砂漠周辺のサバンナで本場の野生象を見てきた者だぞ。ここは舗装されたアスファルト道路じゃないか、交通も多い。万一象が出ても車に守ってもらえる、と考えていた。
だが、青年は真剣だった。私も、人が踏み殺されたという話に反応せざるを得なかった。やはりタクシーに乗せる方便では、の疑いもあったが、後でニュース記事を調べると本当だった。「5ドルでいい、乗ってくれ」という青年の車には他に乗客も居ない。ハイクで小遣い稼ぎをしているわけでもないようだ。
象の群れが本当に居た
それで乗った。正解だった。5分も行かないうちに、人が殺されたという小河川マランバ川の橋付近に来た。何と道路近くの岸辺に何十頭もの象がいた。1頭、2頭ではない。あちこちの木陰にいる象も含めて、全部で50頭は居るのではないか。岸辺で水を飲んだり、川に入って水遊びをする象も。攻撃的になるという子連れの母親象も居たし、いかにも強そうなボス象の姿もあった。
彼らはみんな同じ家族の集団なんだ、とドライバー青年が言う。この辺がテリトリーになっていて、住民たちは、この象の大群から農作物など相当の被害を受けている。しかし、殺してはダメなんだ。刑務所行きになる。保護されているんだ、と。
橋付近には、多くの車が停まって見物している。村も近く、そこからやはり多くの村人が来て見ている。ニュース記事によるとニューメキシコ州から来た米国観光客(64歳の女性)らは、車で少し近づきすぎたらしく、群れの一頭を刺激してしまい、車外に放り投げられ踏まれたという。
リビングストンに近い
橋を渡り切るとすぐ村で、人間の居住地域に近い。しかも、そこはもうリビングストンの郊外と言っていいところだ。建物がある程度連続している。もう安全だろう、ということで、車を降ろしてもらった。あとは宿まで歩いた。
サン族の村を体験した後は課題がなくなり、気の抜けた旅になるな、と思っていたが、とんでもない。次々と刺激的な体験が待ち受けて下さる。