シリコンバレー・サイクリング

建設中のグーグル本社建物。
建設中のグーグル(Google)新本社ビル。2021年5月9日撮影。マウンテンビューの現本社ビル群(Googleplex)のすぐ東に55,280平米の「巨大な金属サーカス・テント」風の社屋が建設されている。今年中に完成予定。たわんだ長方形と三角形の屋根パーツが複雑な幾何学模様を構成し、太陽光発電も行う。コロナ禍からの回復を目指す米国で3月18日、グーグルは、国内19州のオフィス、データセンター建設・増設で、今年総額70億ドル超を投資し、少なくとも1万の雇用を創出する計画をぶちあげた

2017年、マウンテンビュー市議会がグーグル本社建物の建設を許可したことを伝えるニュース。KPIX CBS SF Bay Area, Mar 8, 2017

シリコンバレーはサイクリングに向いている

テニスでひざ裏のスジをのばし、よろよろ歩きしかできなくなった。やむを得ない、自転車遠出をしよう。(使う筋肉が違うからだろう、走れなくとも自転車はこげる場合がある。)

きょう(5月9日)は、シリコンバレー・サイクリングとしゃれこむことにした。しかし例によって計画性がない。午後1時頃になって突然行く気になった。そうだ、日曜だからどこもすいているぞ。日も長くなってきたから午後8時くらいまでは明るいだろう。

コロナ禍で、BART(高速地下鉄)は30分おき。途中乗り換えで終着・北サンノゼ駅に着いたのは3時になっていた。そう、1年前にBARTウォームスプリングス(フリーモント)線が2駅延長され、シリコンバレー中心部サンノゼの北辺あたりまで郊外電車で行けるようになった。

きょうは、この延長路線を体験することと、この北サンノゼ駅からグーグル本社まで自転車で行くのが目的。帰りは近くのマウンテンビュー駅から昔懐かし重量鉄道カルトレインで、サンフランシスコ回りで帰ってこよう。

時間がやや押し迫ったが、実に快適なサイクリングだった。コロナ禍で道路の車が少ない上に、日曜日だ。どこもゆるゆる交通で、自転車レーンがなくとも安全にこげた。いろんなIT企業を通るが、人がほとんどおらず、しかし外からならいくらでも見放題だから、観光には最適。天気もいいし(まあ、いつもだ)、風もあってそんなに暑くもない(向かい風だったのが玉にキズ)。

しょっちゅう山を越えてイーストベイ通いをしている身には、シリコンバレーのまったいらな地形は願ってもない条件。広い郊外平原にIT企業が散らばるシリコンバレーは観光サイクリングに絶好の場所といえる。しかも海辺の湿地帯、小川沿いの自転車道、散在する公園など自然景観にも恵まれている。グーグルなんて海辺自然公園のすぐ隣。本社建物群の真ん中を小川沿い自転車道が走っているのだ。

2020年6月13日に開業したベリアサ駅(北サンノゼ駅)。これまでの終点、ウォームスプリング駅から2駅南に伸びた。将来はサンノゼ中心部まで伸び、カルトレインなどとつながる予定。
サンノゼ市内を流れるグアダループ川(Guadalupe River)に沿って歩行者・自転車道が南北に走る。サンフランシスコ湾南部に流れる川では唯一「River」名称がつく。他は皆Creek(小川)。(ただし、フリーモント付近で湾に注ぐCoyote Creekの方が長く、水量も多い。)
自転車道に沿い左手にサンノゼ国際空港がある。市内から空港まで自転車で簡単に行ける。空港に至る橋が自転車侵入禁止になっている名古屋空港から見るとうらやましい。
サンノゼ空港の北から空港とサンノゼ中心部を望む。
サンフランシスコ湾南部では、湾に注ぐ川は皆、このような湿地帯に出ることになる。かつては塩田だったが、現在サンフランシスコ国立野生生物保護区に指定され、湿地生態系の復元が目指されている。
湾域に面して意外とIT企業が多い。広大な土地はもうこうした海浜原野にしか得られからか。写真はフォーチュン100企業のNetApp本社。この辺はすでにサニーベイル市に入っている。

モフェット飛行場周辺にIT企業の集積

モフェット・フェデラル飛行場(旧海軍飛行場)が近づくにつれてさらにIT企業の集積が見られる。ヤフーの本社があった。日曜で人通りがほとんどなく、交差点の真ん中からも写真が撮れた。
ヤフー本社のすぐ横にはロッキード社ミサイル宇宙部門(LMSC)の広大な施設がある。ロッキード社は世界最大の軍需企業で、1950年代~1980年代まではシリコンバレー最多の従業員を擁していた。他のIT企業とは異なり敷地内には簡単に入れない模様。
1933年にモフェット・フィールド海軍飛行場が建設され、その周辺にロッキードを含め高技術軍需企業の集積が進む歴史的背景があった。シリコンバレーが生まれた要因として、研究開発の拠点となったスタンフォード大学とともにこの軍事施設の存在が重要だったとされる。現在は米航空宇宙局(NASA)が所有し、モフェット・フェデラル飛行場、及びNASAエイメス研究センターとして使われている。グーグルが、2014年から60年契約で400ヘクタールをリースしている。写真は 1983年当時のモフェット・フィールド海軍飛行場(The U.S. National Archives, Public Domain)。建物は現在もほぼそのまま残り、特に正面の巨大な格納庫ハンガー・ワン(築面積3.2ヘクタール。気球船の格納庫として1930年代に建設)はシリコンバレーの象徴的巨大建造物として国史跡の一部となっている。現在、グーグルがリースし、有毒物質除去を含め改修工事中。西(マウンテンビュー側)から東方向(サニーベイル側)を望んでいる。飛行場の向こう側の水域(塩田)は現在ではほぼ干拓され、そこにヤフー本社、ロッキード施設、その他IT企業が立地。私のサイクリングはこの東側から来て飛行場の右手をまわり、この写真撮影個所の背後を左手に行き、グーグル本社方面に向かっている。
モフェット・フェデラル飛行場をグーグルが60年リースしていることからもわかるように、この地域一帯はグーグルの拠点だ。グーグル本社は飛行場西側だが、東側周辺(つまりヤフー本社があるあたり)も整備が進んでいる。写真は、路面電車VTA Light Railのロッキード・マーティン駅前に並ぶグーグルの(左から)MT1、MT2、MT3ビル。
そのすぐ右隣りには、グーグル・クラウドの建物群が並ぶ。この後方に新社屋(1265 Borregas Ave.、16,950平米)が建設される予定。
モフェット・フェデラル飛行場を南西側から望む。NASAのエイムス研究センターのサインが見える。遠くにハンガー・ワンの巨大な格納庫。
滑走路の南側に、ノートンで知られるセキュリティソフト企業セマンテックの「世界本社」。
モフェット・フェデラル飛行場の西側にはスティーブンス・クリークが流れ、川に沿ってやはり快適な歩行者・自転車道が走る。これを下っていけばグーグル本社周辺に出られる。
スティーブンス・クリークの右岸に建設中のグーグル新社屋ベイビュー・キャンパス。後述の建設中新本社屋と似た「金属サーカス・テント」風の建物だ。グーグルは新社屋をこういうデザインで統一するつもりなのか。しかもこちらは2棟あり、計102,190平米と、新本社の2倍の大きさになる。

シリコンバレーに広大な自然地域

スティーブンス・クリークの先には、やはりこのような広大な平原が広がる。塩田から湿地への復元が図られている。
歩行者・自転車のためのトレイルが整備されている。あまり知られていないが、シリコンバレーは実は広大な自然が満喫できる場所でもある。大部分が国立野生生物保護区に指定され、IT企業の拡大から守られている。
湾南岸地域に広がるサンフランシスコ湾野生生物保護区。写真:Larry Jordan, flickr, (CC BY-NC-SA 2.0)

グーグルが拠点を構える場所

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スティーブンス・クリーク河口から西に向かうとグーグル本社建物群が広がる。左(西)に3棟の比較的大きなビルがあり、パーマネンテ川を挟んで右側にグーグルプレックスの一連の建物がはじまる。そのさらに右側に新しい本社建物を建設中。写真は、南側上空から北方向を望んだもの。グーグル本社が、ショアライン公園やその先の野生生物保護区に隣接していることがわかる。写真:Tom Foremski – Silicon Valley Watcher, (CC BY-NC 2.0)
西側3棟のうちの一つ(上記空中写真参照)。グーグルの本社建物群はかつてシリコン・グラフィックスの本社建物だったところだ。新興企業のグーグルはそういう形で既存建物に入る場合がほとんどだったが、今になって本格的な新社屋を建設し始めたということになる。
主要3棟とグーグルプレックスの間にパーマネンテ・クリークが流れている(上記空中写真参照)。川に沿い歩行者・自転車道がマウンテンビュー中心部方面から続いてきている。自転車通勤にはよい。
本社ビル群の一部、グーグルプレックス。大学のキャンパスのような雰囲気だ。構内に自由に入って行ける(建物内には入れない)。日曜なのでグーグル社員は居ないが、観光客がたくさん来ていた。
日曜なのでカフェテリアはむろん閉まっている。
どこかで見た人形も。
グーグルプレックス東のチャールストン公園のさらに東に、この新本社ビルが建設中(本記事最上段参照)。
新本社ビルの北側公園域には円形劇場Shoreline Amphitheaterがある。屋根が奇妙な形をしているので、遠くから目印になる。こちらは日曜なら開いているはずだが、コロナ禍のため閉鎖。

実は、本当のグーグル本部は別に?

主要IT企業の本部建物としては、クパチーノにあるアップル本社ビルが有名だ。円周1.6キロ・ドーナツ形の「宇宙母船」型の建物は圧巻で、グーグルの新社屋も顔負けする。しかし、Jesus Diazさんのこんな意見がある。「本当のグーグル本部は実は秘密の場所につくられている、と私は思いたい。おそらく地球のマントル深く、あるいは遠く離れた火山島にあり、レーザー光線を出すサイバーシャークに守られている、と。」

クパチーノにある「宇宙母船」型のアップル本社。円周が1マイル(1.6キロ)ある。写真:Arne Müseler, Wikimedia Commons, CC-BY-SA-3.0

重量鉄道カルトレインで帰る

これできょうの行程は終わり。マウンティンビュー駅に向かうつもりが、間違って次のサンアントニオ駅の方に行ってしまった。サンフランシスコとサンノゼを結ぶ鉄道は旧式のカルトレインだ。いかにも鉄の塊といった感じの重量車両。衝突しても壊れないだろう。
やはりほとんど人が乗っていない。シリコンバレーの幹線鉄道だというのにWiFiもない。自転車は特別車両に載せる方式。列車が着いたら、黄色で大きくBike Carと表示された車両を探す。

サンアントニオを午後8時10分に出て、終点サンフランシスコに9時20分着。ちょっと遅くなった。さらに、暗くなったので、カルトレイン駅からマーケット通りのBART駅まで道に迷った。そういえば、カルトレイン・サンフランシスコ駅に来たのは20年ぶりだ(通常は南のミルブレ駅でBARTに乗り換え)。BARTプラットホームに降りたときには何と最終電車の直前。コロナ禍の特別スケジュールのようだ。あやうく夜の山道を6時間自転車こいでコンコードまで帰るところだった、と胸をなでおろす。やはり旅は小さなものでもスリルがあり、ボケ防止にいい。