経団連会長室にパソコンが入った

経団連会長室にこれまでパソコンがなく、中西宏明氏の就任で初めて設置された、会長から電子メールが来たので職員はびっくりした、という新聞記事が話題を呼んでいる。昭和末期の話ではない。2018年10月現在の記事だ。

それまでの経団連会長がまったくパソコンを使っていなかったのか、単に会長室にはなかったというだけなのか真相はわからないが、私はこれで2~30年前の国際NGOの話を思い出した。途上国のNGOから、日本のNGOはなかなか電子メールを使ってくれないので困る、という声を聞いた。国際電話やファックスばかりで高くついてしまう、と嘆いていた。

電子メールなら実質無料で遠く離れた国の人と緊密に連絡を取り合える。途上国のNGOが一も二もなくこれに飛びついたのは言うまでもない。

要するに、余裕のあるうちは人は自分の行動形態を容易に変えない、ということだ。慣れ親しんだ電話やファックス、郵便、経団連会長であれば秘書への口づての命令、伝言。それで用が済んでしまうのなら、何やら難しい新技術を使って苦労する必要はない。もちろん、金持ちではない日本のNGOもその後、比較的早く電子メールを導入したし、経団連会長も今年になって電子メールを導入した。しかし、なしで済ませられるなら、新技術導入はぎりぎりまで先送りにする。しごく経済原則にあった現象が起こっただけだ。

私も安いものを買うため、ヤフオクやアマゾン(の中古品購入)、米国内だったらCraigslistなどを頻繁に使う。背に腹は代えられないからだ。ネット上取り引きはけしからんとの批判もある。「人と人が顔を見合わせて売買する経済の方が……」などと。もちろん、ネット取引には問題がないわけでなく、何より新しい利用方法に慣れるための試行錯誤コストはばかにならない。できればやりたくない。しかし、カネがなければ選択の余地はない。安く買わせて頂いて、こんなに安く買えるのに何で皆利用しないのだろう、と不思議に思ったこともある。新しいものに飛びつかない「贅沢」をする余裕がなかった、ということだ。

現在、日本のIT利用は他のアジア諸国に比べて遅れているという。スマホ保有率は東京が87%なのに、香港、広州、台北、北京、ソウル、上海、シンガポール、クアラルンプールはすべて95%越え。中国などではスマホ決済のキャッシュレス経済が進み、利用率は日本6%に対して中国98%。一般商店はもちろん、屋台や自販機などでも使われているという。中国はまだ貧しい。だからコスト削減できる便利なIT技術にすぐ飛びついた。飛びつかないでいる贅沢ができない。日本の人はまだ余裕があるので、古い行動形態を続けられる。

いいんではないか。貧しく不利な立場に置かれている人たちは、必死に新しい技術に飛びつき、それで、古いままの社会を追い越すチャンスが与えられる。そうやって世界は互いに発展しあってきたのだ。