市民運動の活発なコンピュータ利用の影には、地道な技術支援・訓練の活動がある。日本ではパソコン・メーカーなど
が街でパソコン講座を開く事例が多いが、非営利団体の活動が活発なアメリカでは、市民団体もパソコン訓練、技術支援の活動を、市民、非営利団体向けに開い
ている。その中でも特にユニークな活動をしているのが、このコンピュメンター(本部サンフランシスコ)だ。
コンピュータ技術援助団体「コンピュメンター」のダニエル・ベンホリン事務局長が説明する。「だから、たいていの 大都市にはこうした施設があって、NPOの人たちが気軽に訪れてコンピュータを習ってこれます。こうしたコンピュータ・ラボは、技術資源共同会議 (TRC)という協会をつくって連係しています。」
ベンホリンさんは、TRCの有力加盟団体の一つ「コンピュータ・アクセス」を創設した人だ。サンフランシ
スコのゴールデン・ゲート・ブリッジを望む美しい公園にNPOがたくさん入る建物があり、コンピュータ・アクセスはその中に一〇台以上のマックを構え、コ
ンピュータ講座を開いている。アメリカでは、こうした市民団体が一般市民又はNPO向けに講座を開く例が数多い。
サンフランシスコ都市圏を中心に、四〇〇〇人以上のメンターが登録されている。一九九四年だけで八五五人が新しく メンターに応募してきた。非営利団体からメンターの要請があると、データベースの中から得意分野、地域などを勘案してボランティアを選び出して派遣する。 九四年には、九〇四の非営利団体からの要請があり、その内三二七のマッチメーキングが成立した。
メンターは単なる技術マニアではだめで、団体の事情をよく知り、それにあったシステムづくりを支援できる人でなければならないという。そして、単なる一時的なお助けマンに終わらせず、長期的な関係づくりを目指す。
「私たちはスーパーマンやローンレンジャーではありません。問題が出た時だけ突然現れて、さあ直った、さ よなら、と消えていくんではなくて、恒常的な関係をつくることが目的です。テレコミュニケーション関係の技術援助の場合、三—六カ月に渡って恒常的な関係 をもちます。各NPOの活動の中でそのニーズにあったコンピュータ利用をめざすのです。」
例えば最近では、ヘイワード(サンフランシスコ対岸)のエデン情報紹介(エデンI&R)のホームレス支援 データベースの開発に一〇人のメンターが参加した。それまでこの非営利社会福祉団体では、古いパソコンと電動タイプライターが一台ずつあるだけだったが、 この支援を経て本格的なデータベースが立ち上がり、一四台のマッキントッシュがLAN(構内ネット)結合された。緊急に住宅を必要とするホームレスの人が 駆け込んできても、すぐ空きアパートが検索でき、どこの福祉機関で保証金をローンしてくれるかなどがわかる。
ヘイワード市のあるアラメダ郡には二七〇の社会福祉団体の連合体「アラメダ郡緊急サービス・ネットワー ク」(ESN)があるが、これを結ぶ情報ネットワークづくりもコンピュメンターのボランティアが手伝っている。空きアパートやサービス施設リストなど、 ホームレスの人たちのための情報を広域でシェアする予定だ。
その他、高齢者支援組織、保育サービス、精神障害者自立プログラム、エイズ患者支援団体など、社会福祉関
係のNPOを対象にした支援が多い。最近では、公立学校での先生や子どものパソコン・トレーニング支援も増えている。今学校にどんどんパソコンが増えてい
るが(本章五参照)、これを使える先生が少ない。一九九四年にサンフランシスコ学校区に三三人、隣のバーリンゲイム学校区に七人のメンターを派遣した。
コンピュメンターもこの基金からの助成を受けることで大きく成長した。活動の中心を、ネットワークづくりの分野に 移すことになり、新たに「ネットワーク開発プログラム」を設置した。ハンズネット、ザ・ウェル、ピースネット、エコエットなど市民ネットワークへのアクセ ス援助を初め、LAN構築などの支援に重点をおく。最近の「情報スーパーハイウェイ」フィーバーの中でこの面での活動は非常に活発になり、財団なども、社 会的弱者をネットにつなぐための助成を強化していると、ベンホリンさんは言う。
「コンピュメンターができたばかりの頃は、非営利団体に対する基本的な技術支援を行なう価値と必要がある
ということを助成機関に何度も何度も説明しに行かねばなりませんでした。ところが今では、この同じ助成機関が、その助成団体を何とか情報ハイウェイに乗っ
けてくれと私たちに熱心にアプローチしてくるのです。皮肉にも、基本的な技術支援は今でもなおざりにされているのですが、それでも機会の窓が広がっている
のは確かです。非営利セクターが技術的に第一歩を踏み出すチャンスですし、コンピュメンターのメンターとスタッフがそれと手を組んでこの時期をとらえるこ
とが大切です。」
「日本ではどうか知りませんが、アメリカのコンピュータ文化の中には民主主義的なわかち合いの精神が残っていま す。マイコン革命の初期から、人びとは情報を積極的にシャエアしようとしました。例えばスティーブ・ウォズニアック(アップル社創設者の一人)は別に百万 長者になろうとしたのではありません。単なるワイルド・キッドでした。こういう人たちが、ホームブルー・コンピュータ・クラブ(対抗文化世代のコンピュー タ会議。ここを中心に初期のパソコン産業が発展した)に出かけ、これをつくった、あれを発見したと情報をシェアしあう。そしてガレージに帰って自家製のコ ンピュータをつくったのです。それがビッグ・ビジネスになった。今、アップル社は情報をシェアしようとはしないかも知れません。しかし、個人は、一人一人 の人間は、以前からの情熱を決して失ってはいません。だから、ボランティアにも積極的に参加します。」
コンピュメンターのことが新聞記事などになると、決まってボランティア志望がたくさん舞い込む。アメリカ
の辺ぴな所から援助の要請が来ても近くのコンピュータストアなどに募集広告を出せば必ずどこかでマニアが見つかる。様々なコンピュータネットワークに募集
を出しても同じことだ。最近はデータベースに登録する意味があまりなくなっている位で、メンターを登録しても適当な援助対象団体が見つからずかえってがっ
かりさせてしまうと言う。
レビューのため新作ソフトがたくさん送られてくるジャーナリストからの寄付もある。マイクロソフト、ロータス社な どとは特別の契約関係にあり、新作ソフトをまとめて大量に寄付してもらっている。ソフト会社としても、ソフトを地域に寄付して社会貢献したいという希望を もっているが、どこに寄付していいかわからないし、そのための寄付事業体制をつくりあげるのは大変なことだ。そこでコンピュメンターが出てきて、企業と非 営利団体の間の仲立ちをする。
NPOに渡るソフトは海賊版などでなくすべて正規のソフトである。ソフトを入手したNPOは正規のユー
ザー登録をしてサポートを受けられる。バージョンのアップグレード・サービスもある。雑誌社やジャーナリストからの寄贈品の場合は、使用済みソフトを配布
することになるが、これは転売ではなく(実費のみによる)寄付の行為なので法律的に問題にならないという。