この投資差別と地域マネーの流出への抗議が強まるなか、その是正をはかる連邦家屋抵当公開法(一九七五年)、地域再投資法(一九七七年)が制定された。しかし、銀行の投資活動に関する情報公開規定が不充分であり、また住民側に過大な投資差別証明義務を負わせていることなどにより、充分な効果は上がっていないと言われる。こうしたなかで市民によるさまざまな地域経済づくりの試みが生まれることになった。
数多い地域物々交換プロジェクトの中でもユニークなのは、オレゴン州ユージン市の「ハローぺージズ物々交換ネットワーク」だ。ここでは八三年から、コンピュータを使った交換経済づくりをめざしている。
まず、年会費二〇ドルを払ってこのネットワークに加わる。交換したい物(あるいはサービス)ができた時点で、それを自分の名前・電話番号とともにコンピュータに登録してもらう。これはコンピュータのある事務所に電話をかけて行なう。コンピュータにはカード式データベース・ソフトが組み込まれていて、多くの加入者の中からぴったりウマの合う交換相手を瞬時に割り出す。そこで人と人とが直接合って取り引きを行なう。取り引きが成立すればデータベースの情報はすぐ更新され、新しい交換材料ができればまたコンピュータに情報が入力される。
コンピュータが人と人との交流をさまたげるなどということはここではない。逆に、コンピュータによって物と物、人と人とが結びつけられ、人的交流をともなった経済活動が可能になった。
LETSは八三年、マイケル・リントソらを中心とした「ランズマン・地域サービス」(LCS)によって開発されたシステムで、現在バンクーバー島の十二地域で稼動している。
具体的に内容を見ると、まず月に一度、交換申し込みの情報紙が出される。これはコソピュータからのプリントアウトで、「自家栽培野菜売りたし」「タンス買いたし」「ステンドグラスの修理します」等の情報がぎっしりっまっている。人々はこれをもとに取り引きを行ない、LETSの事務所に電話して適当な額で決済しあう。LETS特製の小切手やクレジットカードで決済し、後でコンピュータの「残高」を変更してもらう方法でもよい。「残高」には利子がつかない。また発生する緑のドルの「所得」は課税対象となる。
システム入会金一五カナダ・ドル、一件につき四五緑セントの取り引き手数料、一行にっき三〇緑セントの情報紙広告料がかかる。システムの経費もここで得た緑のドルでまかなわれる。
次のステップとして、一般の小売店をこのシステムにまきこむことが考えられている。個人問の物々交換とちがって、一般小売店では、商品の卸し時に必ず通常の貨幣が必要である(そこまでLETS経済が広がるのは先のことだ)。したがって商店側としても全額縁のドルで物を売ってしまうことはできない。が、商店のマージンになる部分だけは緑のドルによる支払いを認めることができる。商店主たちも地域で生活しているのであり、地域通貨さえあればある程度生活がなりたつからだ。手始めにガソリン・スタンドなどが、値段の四%までは緑のドルでOKという商法を試みはじめている。
市民運動もいよいよ社会の根幹たる金融にまで手をのばしてきたわけだが、このような代替通貨をつくる試みは法律上問題ないのだろうか。LETSでは「表現の自由の保証される国なら、このような試みはまったく合憲的である」としている。つまり、他者から受けた奉仕にドルの価値をつけてみるのは自由だし、その価値をコミュニティー成員の中に返すことを約するのも、まったく人問としての権利、表現の自由の範ちゅうに入るという。
確かに、LETSのような経済システムを広げていくためには、現行法制の若干の見なおしが必要だともいう。例えば、緑のドルの「所得」に課税されるにもかかわらず、緑のドルによる税金支払いが認められないのはおかしいと主張する。また、一方で緑のドルが限定的にしか使用できないにもかかわらず、その「所得」が通常所得と同じに扱われ、社会福祉給付が削られる矛盾も指摘している。
LETSのソフトウェアは無料である(ただしシステム採用には一〇〇ドルの登録料が必要)。すでに北米各地から一五〇以上の申し込みがあった。バンクーバー市では本格的な都市型LETSシステムの実験がはじまっている。今後、カナダ、アメリカの地域社会で、このコンピュータ式物々交換が広まっていくことだろう。
マイケル・リントンさん。後年(2000年1月)、カリフォルニア州サンタクルーズで。