アメリカの「非営利団体」制度

 岡部一明 (『技術と経済』1986年4月、「海外の話題」欄)

 市民団体に助成をするのは前回紹介したアップル社だけではない。(同じく前回紹介した)ポートランドの情報技術研究所(ITI)の例で言うと、アップル社が12台のマイコンと3台のプリンターを寄付した以外に、例えば地元電力会社のパシフィック・パワー・アンド・ライト社が電話システム一式と「トラック1台分の」事務用品(机、イス等)を寄付している。人間工学の企業であるアンスロ社は、屋外講習会などのためデモンストレーション用車を寄付した。この他、むろんノースウェスト地域財団、オレゴン地域財団などの民間財団からも多額の援助があった。

 第三セクターたる財団が活発な助成活動を行ない、アメリカ社会の活性化に一役買っているという事実は日本でもよく知られるようになってきた。しかし、企業までがなぜこのような活発な寄付活動をするのであろうか。実はここにあるのが「非営利団体」制度の果たす大きな役割である。同制度は財団と並んで米国第三セクターの活力をときあかす鍵である。

 非営利団体は、言うまでもなく福祉・教育・宗教団体、各種市民団体など、営利を目的としない活動を行なう団体である。しかしアメリカでは、この言葉は単なる一般語ではなく、厳密に規定された法律用語の地位を獲得している。

 各州が独自の法律に基ずき非営利団体の資格要件を定め、民間団体からの申請を受けて認可を行なう。非営利団体の法的資格を得た団体は数多くの優遇措置を受ける。例えば寄付活動を促進するため、非営利団体への寄付は税控除となる。つまり、企業や個人が非営利団体に寄付すると、その寄付額は(その企業や個人の)所得には算入されず税金がかからない。企業にとっては寄付をあたかも「経費としておとす」ような措置が可能になるわけだ。

 日本でも、公共法人、公益法人、「その他公益を目的とする事業を行なう法人又は団体」等に対する寄付には同様の税控除が行なわれている。しかしその対象となるには様ざまな制限がもうけられ、一般の市民活動団体への寄付が税控除になることはまずない。ところがアメリカでは非営利団体の地位は比較的容易に取れ、各種市民団体も気軽に申請する。連邦国税局の統計では、現在米国には約80万の非営利団体が存在するという。

 非営利団体の法律は州によってまちまちであるが、ここでは、1980年より比較的整った非営利団体法(1980 Corporation Code, Section 5000-9927)を発効させたカリフォルニア州を例にとり、やや立ち入った解説を加えよう。

 カリフォルニア州の非営利団体は下表のように分類される。

公益法人 Public Benifit
  科学系団体
  文学系団体
  教育系団体
宗教法人 Religious
共益法人 Mutual Benefit
特別タイプ

 このうち、通常、公益法人と宗教法人は税法により「慈善目的」の団体と見なされる。市民運動団体は多くの場合、「教育的」公益法人として非営利団体の資格を得る。広い意味での一般公衆教育に相当するからである。宗教法人は憲法に定める宗教の自由といった観点から、より緩やかな規制が適用される。共益団体は社交クラブ、テニスクラブ、職業団体など会員内部の福利を目的としたものである。特別タイプは以上のいずれにもあてはまらず、かついずれのタイプとしても資格申請できる団体(生協、商工会議その他)である。

 非営利団体の資格をとることによるメリットは次のようなものだ。

・助成資金が得やすくなる
 政府機関、財団からの助成は、通常非営利団体の資格取得を要件としている。
・各種税制優遇(後述)
・機関紙・通知等の郵送費が割安となる
 アメリカの郵便制度には、料金が通常の5分の1以下になるバルクメール(大量差し出し郵便)というカテゴリーがあるが、非営利団体の場合、その料金がさらに半分になる。
・有限責任
 営利法人の場合と同様である。団体の損益に対して個人の経済的責任が有限。つまり、損害を埋めるために個人の財産が没収されるようなことがない。

 また目に見えないメリットとして、非営利団体形成のための諸手続きが、団体の機構を確立させる上でよいインパクトを与えることがあると言われる。ただし、これは、フレキシブルな市民団体の組織を固定化する可能性もあり、諸刃の剣だ。

 非営利団体形成のデメリットとしては次の2点があげられる。

・手続きの繁雑さ
 多くの書類を作成しなければならない。資格申請はもちろん、資格取得後も、年次報告や厳密な会計報告が要求される。
・弁護士費用
 細かい法律上の知識が必要となるため、法律家の助言が必要になることが多い。

 非営利団体への税制優遇は各種税法の中に規定されている。国税法(Internal Revenue Code)501条などで非営利団体は連邦所得税が免除される旨が規定されている。さらに501条(C)の(3)などに規定された非営利団体の場合は、その団体への寄付が税控除になる。むろん州ごとに独自に認可される非営利団体が即こうした税制優遇を受けるわけではなく。国税局に別に税免除申請をして認可される必要がある。寄付税控除非営利団体でも「公共慈善」的資格と一般的資格(「私的財団」という言葉が使われる)の二通りの区分があり、前者の方がより寛大な税制優遇を受ける。例えば「公共慈善」的非営利団体への寄付は、寄付者の確定所得の50%までの金額を税控除できるのが、「私的財団」的非営利財団の場合は20%までである。

 州税でも同様の優遇がなされる。例えばカリフォルニア州の場合、歳入課税法23701条(d)により、費営利団体への法人税(フランチャイズ・タックス)が免除される。非営利田nt内への寄付も税控除になる。この場合、「公共慈善」「指摘財団」の差はなく、確定所得の20%の額までが控除できる。

 アメリカの市民団体が何かにつけて大規模な活動を行なうのは、こうした税制優遇を柱とした非営利団体制度があるからだと言えよう。
 
 


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