2000年6月22日、場所:東京自治研究センター
主催:市民運動全国センター、市民政調、東京自治研究センター、市民立法機構
二〇〇〇年六月、活発な市民参加制度を取り入れている米カリフォルニア公益事業委員会(CPUC)からロバート・フェラル市民参加局長が来日し、同二二日、東京で講演会を行なった。市民運動全国センター、市民政調、東京自治研究センター、市民立法機構が主催したもので、市民参加に関心を寄せる日本の市民活動家、専門家らと活発な交流を行なった。下記は講演とその質疑応答の全記録である。()内は翻訳者(岡部一明)による注。
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皆さん、今晩は。今回の訪日は、前に日本を去ってからずいぶん久しぶりのものとなった(注:フェラル氏は一九五三年一二月、船員サービス関係の仕事で横浜に来ていたアメリカ人両親の下に生まれた。生後三カ月でアメリカに移転した)。私を招待してくださった主催者の方々に心から感謝したい。きょうは、私の行政機関、カリフォルニア州公益事業委員会(CPUC、以下「コミッション」とも呼称)を例に取り、アメリカの規制機関の市民参加がどのようになっているか話したい。また、CPUC内での私の仕事(市民参加局長)だけでなく、より広く、アメリカ全体の政治過程での市民参加についても話す。住民投票(イニシアチブ、レファランダム)についても少し触れ、最後に、なぜアメリカでこのような市民参加制度が取られているかについて説明したい。その後、皆さんからの質問やコメントの時間をとる。皆さん、いい質問がたくさんあると思う。それによって私も皆さんのされていることから多くを学びたい。
CPUCには五人の委員(コミッショナー)がおり、六年の任期で州知事に任命される。現在、その内三人のコミッショナーが前知事・共和党のピート・ウィルソンに任命された人、二人が(一九九九年末にに選出された)新知事で民主党のグレイ・デービスに任命された人だ。コミッションは州憲法に規定された広範な権限をもち、カリフォルニアの何千という私営の電話、エネルギー(電力、ガス)、水道、鉄道など公益事業会社の料金、スタンダード、サービスを規制している。公営の公益事業は規制しない。CPUCは、これらの企業が低料金で、安全で信頼のおけるサービスを行わせることを任務とする。
市民参加局は一九八三年に設立された。当時、多くの人びとが、電気料金の高騰など深刻な問題についてコミッションに意見を反映させようとした。しかし、CPUCの仕組みがわかりにくく、このやや司法的なプロセスの中で意見を効果的に決定に反映させるのが難しかった。そこで市民は、カリフォルニア州議会にはたらきかけ、法律を通し(California Public Utilities Code, Section 321)、一九八三年、この市民参加局が設立された。当時私は州議会で(議員秘書として)はたらいていたが、二年後にそれをやめ、CPUCの二代目市民参加局長に就任した。
私たちは、CPUCへの市民参加を支援する他に、コミッショナーに助言する役割も果たす。何が効果的な市民参加の妨げになっているかなどについて進言し、市民参加促進を促す。
まず、消費者への情報提供。公益事業会社が料金やサービスの変更を申請する際、請求書の中に書面でその旨知らせることを義務づけている。顧客には毎月、電気や電話の料金請求書が送られている。この中にそうした情報を差し込むのだ。請求書挿入資料(ビル・インサート)と呼ぶ。公益事業会社がそうした情報配布のコストを負担するということだ。公益事業会社の新しい提案(料金値上げ、新サービス導入その他)で具体的にどうなるのか、何が問題か、市民がコミッションに意見を出すため、いつ、どう行動すればいいのか、をこのビル・インサートで知らせる。
私たちの局ではそうした挿入資料をレビューして、わかりやすいか、正確な情報かをチェックする。市民は私たちの局に意見書(手紙)を出せるということも、そのビル・インサートの中に明記させる。それによって市民は公益事業会社の様々な計画、申請について意見を寄せる。私たちはそれを読み、必要に応じて返事を書く。そしてコミッショナーにその手紙を回覧する。最後に、それら意見書を正規の事案ファイルに収める。これがインフォーマル・コメントと言われるものだ。
CPUCではもちろんこれ以外に、より全面的かつ公式な審議参加プロセスがあり、これへの参加方法ついてもビル・インサートの中に明記する。
数年前にコーラーIDについての決定を行なった時のことを例にとろう。これは日本でも導入されている技術(発信者番号表示システム)なのでわかり易いと思う。カリフォルニアの主要地域電話会社パシフィック・ベルが出してきたこのサービス申請には、市民が電話番号プライバシーを守ることを難しくするような問題が含まれていた。ご存知の通り、いや、日本ではあまり知られていないかも知れないが、カリフォルニアは非常にプライバシーを重視するところだ。だれが自分についての情報を取り、いつどのようにそれを流すか、自分で決められることを強く求める。コーラーIDサービス申請についてのビル・インサートが配布された後、私たちは八〇〇〇通以上もの手紙、電子メールを受け取った。ほとんどはプライバシーに憂慮する内容のものだった。自分の番号を表示させるかどうか自分でコントロールしたいとしていた。また、電話に出る前にだれからの電話かわかるので、コーラーIDをぜひ使いたいという人も多かった。そうやってやはり自分のプライバシーを守りたい。つまり賛成、反対双方の人にとってプライバシーが主要な関心だった。
一〇団体以上が正式な参加者(インターベナー)として登録し、この審議過程に入ってきた。消費者団体、プライバシー保護団体、低所得者、各民族コミュニティーを代表する団体などだ。これらのグループが問題を調査し、意見陳述を行ない、証人となる専門家を呼び、パシフィックベルの主張に対する反対尋問を行なうなどのプロセスに入っていく。
こうした一般からの審議参加者(インターベナー)以外に、CPUC内部にも消費者を代表する局がある。「消費者権利擁護局」(Office
of Ratepayer Advocates)という。これも審議過程に参入してくる。この局の役割は、消費者代表が入ってきていない事案の審議でも、消費者利益を代表して発言することである。行政の膨大なリソースを動員して消費者の立場に立った調査・論点を出して決定過程に参加する。この局については後で質問があれば詳しく述べたい。
審議過程の最後で「相当の貢献」が認められたグループは、簡単に言えばかかった費用の請求書をコミッションに提出する。どれくらいの時間(人件費)がかかり、郵送費、電話料その他経費がかかったかを出す。事案毎に決定への貢献も詳述して提出する。その後、行政判事(Administrative Law Judge)がそれを検討し、独自の判断から貢献度を裁定し、どのような支払いが行なわれるべきかコミッションに勧告する。
このプログラムは裁判制度をモデルにしている。裁判でも負けた方が裁判費用を支払うということがある。私の働いてきた一五年間でCPUCは二〇以上の団体・個人に総額約一二〇〇万ドルを助成した。
この助成制度は市民団体がリスクを犯して参加するインセンティブとなっているだろう。特に複雑な事案の場合、準備調査に膨大な時間をかけなければならない。外部の専門家も雇わなければならない。当然出費がかかり、参加にリスクが伴う。
時には、インターベナーが「相当の貢献」をした場合でも、コミッションは「部分的貢献」と判断して、要求する全額は払ってくれないことがある。これは完璧なシステムではない。カリフォルニアの多くの市民団体は、インターベナー基金は審議プロセスの最後でなく最初に出されるべきと主張している。これも非常に重要な問題なので、興味があれば後の方でもっと詳しく話したい。ともかく、システムは不完全でも、参加促進にとって大きな支援、力づけになると私は思っている。
ここで市民参加局長として私の役割は、インターベナーの貢献がどれくらいの財政的支援に見合うかコミッショナーが的確に判断できるよう、裏方で助言することだ。しばしば難しい状況になることもある。ある事案で決定に貢献をしたグループが、他の事案ではコミッションを厳しく批判しているような場合がある。コミッショナーも人間だ。インターベナー団体の貢献は認めるとしても、批判されたことにいい感情をもっていない。組織の中では個人的感情は別にしなければならない、ということをコミッショナーにやんわりと助言するのも私の仕事のひとつだ。ほとんどの場合うまくいくが、そうでない時もある。
インターベナー基金の資金は公益事業会社が出す。最終的には消費者からの料金収入から出ているということだ。コミッションは、この資金援助のコストを料金増額という形で回収することを認めている。しかし、料金を払う消費者にとってもこれは意味ある出費だ。時にインターベナーは、消費者のため一事案で何億ドルもの節約してくれることがある。私たちは一五年間にインターベナー団体に一二〇〇万ドルを支払っただけだであることを想起してほしい。
公益事業会社がインターベナー基金に出すお金など、例えばPG&E(カリフォルニア州最大の電力・ガス会社)のような巨大公益事業会社にとっては微々たるものだ。年間八〇億ドルの料金収入がある彼らは数百万ドルをインターベナー基金に出費するにすぎない。ほとんど無視できる額で、全体の料金への影響はわからないくらいだ。
実際、そうした形で起こされた告発の一つが、結局、パシフィックベル社に対する高額の罰金裁決をもたらしたケースがあった。一九八六年、同社の不正な電話勧誘商法が明かになって、CPUCは一六〇〇万ドルの罰金と六〇〇〇万ドル以上の料金返済をパシフィックベルに命じた。サービスや料金について顧客に誤解を与え、余分なサービスを購入するよう圧力をかけていたのだ。
CPUCはその一六〇〇万ドルの罰金で教育基金を設置し、カリフォルニア州民がよりよい消費者になっていくため消費者団体に助成していく事業をはじめた(通信教育トラスト、Telecommunications
Education Trust)。私もその基金のスタッフとして入り助成事業にたずさわった。一九八七年度から六年間に一〇〇以上の消費者団体に一六〇〇万ドルを助成した。(電話だけでなく)通信事業全体での多様な問題についてカリフォルニア消費者への教育活動を促進した。
この公聴会の手続きについて詳しく言うと、まず、だれでも発言できる。早く来た順、待ちリストに名前を書いた順に発言する。発言希望者の身分チェックなどは行なわない(外国人、外国人労働者でも話せる)。テープレコーダー、写真の使用も認める。多くの人びとが発言するよう奨励する。英語を話さない人には、例えば(中米系の人たちのため)スペイン語などの通訳も用意する。耳の聞こえない人や難聴者のため、手話通訳も用意する。
コーラーIDについては、約一年半、電話会社、消費者団体、多くの一般市民からの議論、意見を聞いた後、コミッションが裁決を下した。コーラーIDを認可したが、条件としてプラバシー保護について消費者に充分情報を与えること、特に、発信電話すべてが自動的に番号非表示になるような選択(完全ブロッキング)を確保することを規定した。コミッションは数団体にインターベナー基金の助成を行なった。ほとんどの消費者団体、一般市民は結果に満足していたようだ。ハッピーではなかったのはおそらくパシフィックベルだけだったろう。コミッション裁決のプライバシー保護規定のいくつかは、コーラーIDサービスの価値を減じるものだったからだ。
また、これらの過程を通じて重要なことは、公聴会だけでなく、コミッションの公式会議自体もすべて公開だということだ。例外が二つあって、CPUC自身が対象になっている裁判について話し合う時と、CPUCスタッフの人事についての話合う時だ。その他はすべて公開の会議で、一般市民もその中で発言できる。(注:通常、公式会議の最初の二〇分間に、市民がその日の議題について自由に発言する時間が与えられる。公聴会と同様、身分による制限はなく、だれでも発言できる。通常一人三分程度の制限を設けられる。こうした発言をパブリック・コメントといい、公式会議での発言の権利は各州にある公開会議法 Open Meeting Act で保証されている。)
トップが参加の重要性を認識すること
一五年間、市民参加局で活動してきていろいろ教訓がある。まず何より、市民参加はトップが熱心に唱導しなければならない。重要な決定権をもつ人が熱心でないと、そういう雰囲気はスタッフの中にもすぐ広がり、参加プロセスは効果的に動かなくなる。
第二に、市民参加はいくつかのレベルを設けるべきだ。まず一般の市民が、特に時間やエネルギーをかけなくとも簡単に意見を表明できる体制をとる。同時に、市民団体その他専門的力のある人たちが、正規の審議プロセスに対等の参加者として全面的に介入できる体制をとる。
また、何が問題なのかについて市民の理解を深める消費者教育が重要だ。出されているいろんな解説資料が、私たちの機関のような中立的立場の者からレビューされることが必要だ。情報が片寄ったり不正確にならないよう見守る。
「代表なくして課税なし」が二〇〇年前の革命戦争のスローガンだった。市民の声を聞く原則はほとんどの政府機関に組み込まれている。もちろんCPUCほどまで組み込んでいるところは少ないと思うが。最も理想的な形で言えば、市民参加は政府機関がよりよい決定を出す助けになる。市民の憂慮や有用な意見を広く知ることができるからだ。市民が何と思うか関係ないと言ったり、そうした態度をとれば、市民は、個別イッシューでの意見の差異に関わらず、その政府機関に対決しプレッシャーをかけはじめるだろう。そのプレッシャーは議員や州知事のところにも行く。CPUCの予算は州議会と州知事によって決められるので、コミッションはそうした被選出役職者の言うことは聞かなくてはならない。日本でも「落選運動」というのがはじまったと聞いた。それと同じ様な活動がはじまるということだ。
もちろん勝利する住民発議住民投票もある。二つ例を出そう。一九八八年にカリフォルニアの保険会社の規制を改正する住民投票が起こされ、これは通っている(Proposition 103)。一九九六年にはマリファナを医療用には認める住民投票が組織され、これも通った(Proposition 215)。興味深いことに、こうした住民投票の制度もカリフォルニアでは、CPUCが設立されたのと同じ一九一一年にはじまっている。カリフォルニアのプログラッシブ(革新主義)時代を象徴する出来事であった。アメリカの人類学者のマーガレット・ミードが言っていることをここで思い起こそう。
「思慮深い熱心な人びとの小さなグループが世界を変えられることを疑ってはならない。実はそれだけが世界を変えてきたのだ。」
きょうは、立派な活動をされている多様な市民団体の方々の前で話する機会がもて、非常に感謝している。私が生まれた土地に帰れたことをうれしく思う。次に皆さんの質問やコメントを頂きたい。また、この場で質問、コメントしきれなかったことがあれば、Eメールを送って欲しい。ありがとうございました。
各州に何等かの公益事業規制の機関がある。州によっては代表が選挙される機関のこともあり、カリフォルニアのように任命される機関であることもある。私の知る限りでは市民参加局のようなものがあるのはカリフォルニア州だけだ。
非常にいい質問だ。審議に参加してくる団体のほとんどはすでに一定の活動をしている確立された市民団体だ。それら団体の多くは一般からの寄付、会費その他である程度の財政的基盤を確立している。我々がローンを提供するようなことはない。そして確かにお金は審議の後にしか出ない訳で、必ずしもいいプログラムではないとの批判もある。
例えば、非常に活発に決定過程に参加してくる消費者団体のひとつに公益事業改革ネットワーク(TURN、本部サンフランシスコ)というグループがある。これは看護婦労働組合などをやっていた一人の女性が退職後、一九八三年につくった団体だ。市民に呼びかけて寄付を募った。消費者のためCPUC審議過程に専門的な形で参加していく、そのために資金が必要だ、会員になって二〇ドルとか二五ドルの会費を払ってくれ、と呼びかけたわけだ。現在一万人以上の会員がいるから、それが一定の財源になる。消費者の声を出すことが重要だと思う人、公益事業会社とのトラブルで怒った人、その他が会員になる。
よくある制度とは言えない。裁判など司法的手続きの中でそのようなプログラムが行なわれることがあるが(環境汚染の裁判などで罰金が環境復元の市民活動などに支給される制度がある)、規制機関プロセスの中で行なうことは珍しい。一九八七年にこのプログラムを設立したが、当時のコミッション議長が以前労働運動をしていた人で、非常にアイデアのある人だった。その後九四年にも、同じ様に罰金を原資に助成基金をはじめようとしたが、その時は電話会社が私たちを裁判に訴え、止めさせられてしまった。コミッションはそのようなことを設立する権限はない、との判決が出た。現在、私たちは州議会にはたらきかけ、立法によりそのような権限を得ようとしている。が、現在のところ、まだ実現していない。
アメリカでは公営の電話・電力事業がある。カリフォルニアでは公営の電話事業はないが、公営の電力事業はある。市、あるいは電力区などと言われる専門自治体型の特別区が運営していたりする。これらの多くも七?八〇年前の市民の革新主義運動の時代にできたものだ。また、カリフォルニアの水道事業の約四分の一は公有公営の公益事業になっている。市が設立されるとまず最初に水を自分たちで確保したいと思うからだ。マーク・トウェインが昔言った。「ウィスキーは飲むためのものだが、水はたたかうためのもの」。
こうした公営の公益事業は、市議会など選出機関によって運営されている。考え方としては、議員たちが市民が望まないような電力料金、水道料金を決めた場合、次の選挙で落とされる形でチェックされる、ということだ。公営公益事業は自身による規制が機能するシステムと言える。特別区のような特別自治体で公益事業を行なう場合もあるが、この場合でも、特別区の理事やディレクターが郡議会や市議会を通じて任命されるようなことが多く、最終的には自治体議会を通じてチェックされる。
(質問)特別区のようなところでは、独自の決定機関である理事会、コミッションなどにより運営されているのではないか。
確かに、特別区の理事会が周辺市議会から任命されるのでなく、独自に選出される場合もある。その場合は特別区制度の中で直接にチェックされる訳だ。こうした特別区で最もよく知られ、かつ重要なものはロサンゼルス水道電力局だろう。「チャイナタウン」という映画の中で出てきたので知っている人もいると思う。これは局(Department)という名前がついて紛らわしいのだが、市の部局ではなく、独立した特別区自治体だ。ロサンゼルスの市域とは別個な領域をもち、領域内の市が共同してその理事会を任命している。
政党間のバランスを取ることは一切していない。知事は四年の任期だが、CPUCのコミッショナーは六年の任期だ。だから、前の共和党知事に任命されたコミッショナーが今でも三人残っているというだけのことだ。今年末にはその内の一人の任期が切れる。民主党知事が三人目のコミッショナーを任命し、民主党が多数を占めることになる。現在は、やや微妙なところにいる訳だ。民主党州知事下で、完全に掌握しきれない共和党多数派コミッションがある状態だ。時々、州知事が好まない決定も出てくる。
行政判事は公務員だ(注:コミッショナーのような六年任期の任命職でなく永続的な雇用保証のある公務員スタッフである、ということ)。実際に審議の場をつかさどり、ほとんどの案件について仮決定(コミッションへの勧告)を下す判事だ。CPUCには五人のコミッショナーしかいないが、常時八〇〇件もの事案が動いている。コミッショナーがすべての案件の審議に出席することはできない。そこでCPUCに四〇人近い行政判事がいる。男女ほぼ半々で、弁護士の資格をもつ者、エコノミスト、会計士、技術者などがなどが行政判事になっている。彼(女)らの仕事は、証言が行なわれる「証拠記録の蓄積の場」(会議)を取り仕切り、そしてコミッショナーへの勧告となる仮決定を下す。その後、コミッショナーがそれを承認したり、却下したり、修正したりするわけだ。行政判事も独立した立場であり、仮決定をコミッショナーに蹴られた場合でも、代わりの決定となるものをコミッショナーといっしょに考えていく立場にいる。CPUCの決定はすべての証拠的な記録に基づいて行なう、というのが基本で、その原則の下に行政判事もコミッショナーも独自の立場から作業するということだ。
インターベナー基金の配分の場合でもこれは同じ。行政判事が仮決定を下し、コミッショナーがイエスかノー、あるいは修正を加える。その際、市民参加局は、行政判事が出した仮決定を見て、それに対する意見をコミッショナーに述べる。仮決定が厳しすぎる、助成出資が少なすぎると見れば、コミッション(の会議)に行き、市民参加を促進させるならもっと積極的に助成すべきだ、と主張する。このインターベナー基金の配分については、主に行政判事と市民参加局がコミッションとの関係でいろいろ動く。その他の部局はあまりかかわらない。
CPUCの中に私と同じ様な立場の職は他に二つしかない。CPUCスタッフ全体を監督するCPUC総局長(Executive
Director)、もう一人はCPUC法務局長(主任弁護士、General Counsel)だ。こうした職を恣意任命職(Pleasure
Appointee)と言う。(注:CPUCの中にはもう一つユニークな職がある。消費者の立場にたって独自の研究調査・提言を行なう消費者権利擁護局(Office
of Ratepayer Advocates)の局長は、州知事に直接任命される。コミッションからも完全に独立してモノを言える立場だ。)
カリフォルニアではほとんどの人が自分を中産階級(ミドル・クラス)と考えている。したがって中産階級が(市民参加の)主要な力になっていると言ってよいだろう。今指摘されたいわゆる「納税者革命」の中で、現在でもその影響が残っているのは、一九七八年に通った住民投票「提案一三」(Proposition
13)だ。提案一三は不動産税も下げたが、毎年の不動産税額をきちんと予知できるようにすることが主要目的だった。カリフォルニアではこの住民投票以前は、土地や家の価値が上がれば不動産税も上がるという方式だった。住民投票後は、不動産を売りに出さない限り一定の税額という体制になった。
アメリカでもその傾向はあるが、それがすべてではない。確かにあらゆる問題で会議に来て意見を言う人というのは居る。そういう人を「ファナティック」ということもできるだろう。しかし効果をもたらす市民参加のケースというのは、一般の人びとが衝き動かされて出てくるような参加だ。コミッショナーとしても、一般の人々の強い関心と、圧力団体がつくりだす表面的な勢いの違いを容易に判別できる。
また、CPUCの公聴会、公開会議というのはカリフォルニア中で年間約六〇〇回も開かれている。いくらファナティックな人でも全部に参加しきれない。実は、会議によっては市民がだれも来ないようなものもあるのだ。
(岡部発言:日本ではたまにごく限られた形でしか公聴会が開かれないので、一部の人だけが押しかけるという事態になるのではなか。州の一機関にすぎないCPUCだけで年六〇〇回の市民参加の会議が開かれている。一日に二?三回(ヶ所)の公聴会が開かれているということだ。参加の機会はふんだんにありすぎて、市民が参加しきれないということの方がむしろ大きな問題。そこでアドボカシー活動に特化した専門的NPOの必要が出てくる。)
インターベナー基金の助成は、専門家や弁護士の費用を時間給で払うというものだ(証言の時間だけでなくその準備の時間も含めて)。市民団体の多くはスタッフの中に弁護士を抱えているので、そうしたスタッフ弁護士への給料に当てられることも多い。団体が弁護士を雇う資金にこのお金を使うという形だ。
CPUCが払うのは、あくまで当該事案について活動してもらった分のみだ。しかしその額は、例えば弁護士費用であれば、公益事業会社が弁護士に払っている額とほぼ同じでなければならないという法規定がある。したがって結構な高額支払いになる。例えば弁護士がある事案について二〇〇時間だけ活動したとしても、時給二〇〇ドル程度は払うので、消費者団体としてはそれでスタッフ弁護士の一年の給料を払える。
インターベナー基金だけでNPO運営を支えているのではないし、それを目的にしているのでもない。消費者団体の一般的な運営資金は、会費、寄付、助成など他のところから出ている。周知と思うが、アメリカではNPOへの寄付が税控除になり、寄付を促進している。
コーラーIDの計画は、ビル・インサートで知らされただけでなく、メディアが興味をもって盛んに報道したという点が他と異なっていた。人びとは新聞記事も見て、この問題に関心を向けてきた。メディアは、人びとが読むだろうと思うことを取り上げる。アメリカでアンリステッドの顧客(プライバシーのため電話帳に番号を出さない人)が最も多い一〇地域の内九地域までがカリフォルニア州内にある。カリフォルニアンはプライバシーに非常に関心の高い地域だ。
(質問)コーラーIDについては、プライバシーが洩れるという問題と、電話を受ける側がプライバシーを守れるという両方の議論があるということだが、その議論は今でも続いているのか。
確かに、パブリック・コメントを見た限りで非常におもしろいのは、ほとんどの人が自分の番号は相手に送りたくないが、かけてきた相手の番号は知りたいと思っていることだ。コーラーIDに関しては若干の議論はまだ残っているが、一応決着はついた段階だ。一九九五年に、連邦通信委員会(FCC)の裁決で、カリフォルニア州ほどのプライバシー保護は認めない方針を出し、それがかなりの論争を巻き起こした。正確に言うと、カリフォルニア州(CPUC)では、消費者が特に選択をしない限り自動的に「自番号は相手方に表示されない」(完全ブロッキング)方式をとった。しかしFCC決定はその反対で、もし消費者が特に選択をしなかった場合、デフォルトとして「自番号が相手方に自動的に表示されてしまう」(選択的ブロッキング)方式をとった。(注:後者の場合、かける都度、特別の番号を回せば表示ブロックはできるので「選択的ブロッキング」と言われる。CPUCの対連邦政府訴訟は、最終的に連邦最高裁で却下され、一九九六年七月から、カリフォルニア州でも選択的ブロッキング方式でコーラーIDサービスがはじまった。日本でもこの方式を踏襲して、一九九八年から発信番号表示サービスがはじまった。)
司会:皆さん、長時間ありがとうございた。時間が来ました。フェラルさん、本日は本当にありがとうございました。
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