シティーリペア(街修繕、City Repair


 

街を修繕するNPO シティーリペア

 あなたは交差点でゆっくり時間を過ごしたことがあるだろうか。交通の多い危険な交差点は、急いで渡ることはあってもゆっくり過ごすことはない。 が、狭い近隣地域で、交差点こそ地域生活の中心になるのではないか。そんな考えの下、交差点をカラフルに染め上げ、連絡板からリサイクル品交換、たい肥発 酵施設まで取り付けて市民空間化する「シティーリペア」(街改修) の運動がポートランドで起こっている。


「九番街・シェレット通り」交差点プロジェクト

 「シティーリペアは、地域がネイバーフッド内で、芸術的・環境的・街づくり的なプロジェクトをつくりだすのを支援する団体だ。交差点をきれいに染 め上げるとか、小学生が公園にベンチを設置するとかいろんなプロジェクトがある。私たちは、そのためにどんなスキルが必要か、行政のどの部署に相談すれば いいかを住民にアドバイスし、必要なら外部の職人やボランティアを紹介する。」

 土木用具やペイントなどがおいてある作業工房のような事務所でシティーリペアのオフィスマネジャー、エリカ・リッターさんが説明してくれる。


エリカ・リッターさん

 近くの「九番街・シェレット通り」交差点の「シェアイット・スクエア」プロジェクトを見て来たばかりだった。住宅街の交差点の路面がレンガに組み 替えられ、お日様や木の楽しそうな絵が路面全体に描かれている。四つ角には掲示板や連絡ノート、たい肥製造容器、本の回し読み図書棚、リサイクル品の持っ てけ市、簡易ガーデンその他がしつらえてある。無味乾燥な交差点が公園のような楽しそうな空間に変わっていた。このような住民による地域空間づくりを背後 から支援するのがシティーリペアだ。

 「物理的な環境をつくることで、コミュニティーをつくり、近隣を強くすることを目指す」とリッターさん。街の物理環境をよくする以上に、地域住民 が一緒にこのような改修作業に精を出すことに意味があるという。「住民が互いのスキルを堪能することを学び、いっしょに作業する。何らかの地域の問題をと もに解決する。人々が直接に知り合うことができる。一緒にやりませんかと近所に声をかけるだけでも大きなステップだ。」

 九 番街・シェレット通りの「シェアイット・スクエア」プロジェクトは交差点リペアとしては最初の試みで、一九九六年に基本作業が行われた。地域生活 の中心となる空間をつくろうとした。地域によっては公共空間は道路しかない場合もある。だったら四つ角を地域生活のセンターにしてしまおう、というわけ だ。市当局は「公道」をそんな風に勝手に変えるのは認められないとしが、強行突破で「リペア」してしまった。市は罰則の適用を通告してきたが、市議会に訴 え、市議と市長の賛成を得る。二〇〇〇年一月にポートランド市議会は、交差点を住民が公園的空間に替えるのを公式に認める条例を可決している[ 1]。日二五〇〇台以下の交通の交差点、隣接住民の一〇〇パーセント、隣接四区画(ブロック)住民の八〇パーセントの支持、設計の市交通局による認可、決 定の議事録、署名など地域住民の支持の証拠の提示などを満たせば、合法的に「公道」の住民による改変が行えるようになった。二〇〇六年五月までに、市内四 〇箇所で何らかのリペア・プロジェクトが行われた[ 2]。この動きは、オレゴン州ユージン、ワシントン州オリンピア、カリフォルニア州ロサンゼルス、サンフランシスコ都市圏、カナダのオタワなど五〇地域に 広がる趨勢である[ 3]。

角にパラソルがあって、紅茶が飲める
 

ソーシャルキャピタルづくり

 シティーリペアは、住民のつながりをつくる仕掛けづくりのNPOと言っていい。パットナムの言う「ソーシャル・キャピタル」づくりそのものを目指 しているようなNPO活動だ。交差点や公園の改修、壁や歩道のペイント、ビルの屋上のガーデン、屋根につくるエコガーデン、小公園「ポケットパーク」整 備、都市のアサファルト面に土に水を吸い込ます溝作りなど、芸術、環境の要素を多分に織り交ぜて街を変える。環境の物理的改変を通してソーシャル・キャピ タルづくりを目指すのだが、単発の地域イベントも重視している。

 例えばTホースという モービル・ティーハウスが有名だ。小型トラックの荷台を簡易キッチンに変え、周囲にハンググライダ―のような屋根を即座に広げられるようにした移 動式ティーハウスだ。これがいろいろな地域のイベントに出ていく。

 「なかなか変わっているが、人々の間にコミュニケーションをつくり出す最高の仕掛けだ。」とリッターさんが言う。「奇怪なティーハウスがイベント に突然やってきて、翼を広げ無料のティーを出しはじめる。何だこれは、変なもんだな、と人々は互いに話し始め、ティーを飲みながら自然に打ち解ける。」

 ここまでやるか、と感心するくらいよくできたコミュニケーションづくりの手法だ。「人々を結びつけるのに何か行う必要さえない。ティーを出すだ け。降って沸いた環境の中で人々の心が自然に和んでいく」とリッターさんが言う。

 あるいは市内数十箇所で毎年行う「村づくり集合」(Village Building Convergence)の一大イベント。一〇日間ほどにわたってコンサート、ダンス、討論会、各種環境技術のデモンストレー ションが行われる。リペアが行われた場所で人々が集まり、シティーリペア活動の紹介・普及の場ともなる。二〇〇二年からはじまり、二〇〇四年に一〇地域、 二〇〇五年に一五地域、二〇〇六年には三二地域と、毎年イベント開催の輪が広がっている。
 

 1 - City Ordinance No. 175937: Conditions of Revocable Permit to Modify City Intersections (Passed by Portland, Oregon City Council 09/19/01.

 2 - City Repair Project, *City Repair Project's Placemaking Guidebook*, Second Edition, 2006, p.21.

 3 - pp. 144-150.
 


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