出張論
                     (岡部一明、2000.7

 日本に出張すると、限られた時間に最大限のことをやろうとする。往復の飛行機代を払っている。滞在する一日ごとに宿代、食費その他がかかる。できるだけ効率的に動き、やれることをできる限りやろうとする。

 サンフランシスコの自宅に帰ると、とたんに気が抜ける。費用対効果の観念がなくなる。コストを払って何かのミッションを行なうという意識がなくなる。

 が、それでも私は、毎日暮らすアパートの家賃を払っているのだ。家で安穏に生きるだけでも、寝て食いその他諸々の生活費がかかっている。なのに、なぜベンチャー(事業)をしているという意識がなくなるのか。

 と考えるうち、生きること自体がベンチャーだ、という真実に気がついた。人は皆、高い旅費を払ってこの世界に出張旅行(ビジネス・トリップ)にやってく る。往復旅費、つまり生まれて育つ費用、死ぬ時の葬式・身辺整理の費用を相当額払う。それにプラス、この世界で一生を送るための莫大なコストを払いなが ら、私たちは人生というという事業(ビジネス)を遂行している。人生、それは人びとが行なう最大のビジネス、最大のビジネス・トリップ(出張旅行)。

 何かをやり遂げるため、何かの成果を出すため、私は日本に行った。では私は、この人生という出張に、何の目的で、何のための成果を出そうとしてやってきたのか。

 何かの手段としての出張でなく、それ自身が目的であるような出張。他の何かの「ためにする」出張でなく、それ自身の中身が目的である出張、をしているの かも知れない。それが人生であるとしたら、おそらく私は日本に行く出張の時も、それ自身の中身のため、ひたすら一期一会の旅をすべきなのかも知れない。


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