雲南奥地・シャングリラ(香格里拉)から徳欽へ
岡部一明 2015年4月26〜28日
(シャングリラ方面から玉龍雪山(右、5596m)方面を見る。麗江の反対側からの眺望)
シャングリラ(桃源郷)という名の付く地域
ハノイから中国雲南省のシャングリラ(香格里拉)まで1500キロ、48時間、バスを乗り継いできたのだけれど、それはまあ置いといて、このシャングリラから徳欽までの旅を写真でご報告します。
雲南は麗江と大理という有名な観光地があって、とてもいいところですが、それらの奥がさらに魅力的。シャングリラ(桃源郷)と名づけた町があり、
5000〜6000m級の山々が連なり、長江(揚子江)とメコン川とサルウィン川の上流が狭い範囲に流れる「三江並流」地帯がある、少数民族が多くチベッ
ト文化圏がはじまる、日本文化の起源とも関連など、興味は尽きません。
麗江は高度2400mですが、シャングリラは3200m。チベット自治区との境界に近い徳欽は3400m。途中、4200mの峠を越えました。雲南省の最高峰、梅里雪山(6740m)がちらっと見えました。白馬雪山(5429m)も。
(シャングリラの町並み)
シャングリラの初印象はちょっとがっかり。社会主義的都市計画に基づく広い通りが縦横に張り巡らされ、とても桃源郷の感じはしませんでした。26日夜着いたのですが、大きなホテルのビルが多く、ネオンをぴかぴか輝かせていました。1晩で出ようという気が。
(シャングリラ)観光開発は急ピッチで。
27日朝、シャングリラを出て、最北部の徳欽へ。マイクロバスで約5時間。62元(約1200円)。街を出るとすぐ、広い草原が広がっていました。牛を放牧しています。シャングリラはこういう盆地の低地部につくられた街なんですね。
チベット文化圏へ
少数民族の人たちにたくさん会うようになります。
チベット風住宅の村。
チベット人の村
標高3000mを越す道路沿いで牛の放牧。
長江(揚子江)の上流
深い谷を下りていくと、そこに長江(揚子江)の上流、金沙江が流れています。
道路は下まで降りて行き、この金沙江を渡ります。
そしてまた、山を駆け上がって行きます。
やがて白馬雪山の勇姿が((5429m)。
人生最高峰4200m
標高4200mの峠で一時休憩しました。歩いただけで息切れがします。4200mは私の人生最高峰。
眼前には5000m級の山並み。2つ隣り合ったU字谷も。ヨセミテと同じ氷河に削られた谷です。
雲南省最北の街・徳欽
徳欽に着きました。谷あいの街です。
徳欽は坂の街。熱海のような感じもします。シャングリラと違って狭いです。
チベット族の人たちの家並み(街の北側)
カネがない!
ここで想定外の金欠病に。ATMも銀行もあるのに両替ができない。クレジットカードでキャッシングができず、予備に持ってきたドルの現金もシャングリラ
でなければ両替できないとのこと。ホテルでも換えてくれない。チベット系住民に外貨を持たせたりするとどんな外国勢力から何を仕入れてくるかわからない、
という治安対策か。いずれにしても換えられる都市部できちんと換えておく旅の鉄則を怠った私が悪い。
これから、メコン川上流(瀾滄江)の方を下り、維西経由で麗江に帰る予定だった。しかし、金がもたない。このまま行けば途中で食費がなくなり、バス代がなくなり、ホテル代がなくなり、野宿で凍死するだろう。標高が高いので夜は0度近くなる。
必死で調べる。ネットはつながるのは幸いだった。打てる手は全部打ったと思う。ベトナムの銀行でつくったVISAカードは中国で使えないことが多いのは
経験済みだが、日本でつくったVISAカードが使えないというのはあまりない。クレジットカードの引き落としで事故はなかったか調べる。ちゃんと前月の引
き落としはできていた。有効期限4月いっぱいだが、4月いっぱいは確実に使えるのか。使えると判明。ネットで調べると中国のATMにはパスワード6桁しか
受けつかない機械があるのでその時は最初に00を入れる、とのアドバイスがあった。やってみるがやはり駄目。時間によって引き出せる時と引き出せない時が
あるとの情報も。時間を変えて何度もやったがだめだった。
結局、シャングリラでは何の苦もなくキャッシ
ングできたので、やはり徳欽のATM(両替政策?)が問題だった。
途上国ではラオスのようにドルが普通に流通する国もあれば、ベトナムのように半ば公然とやみドル市場ができている国もある(「ドルのコンビニ市場」とい
う言葉を聞いた)。だからいざという時のためにドルの現金を持っていればたいていの場合セーフなのだが、中国では無理だった。ブラックマーケットは締め付
けが強いらしく、まず見ない。ホテルの人の反応からもそれがわかる。特にこういうときに焦って無理に手を出すと危ない目にあう(ケニアで経験済み)から止
めなければならない。
オンラインでホテル・バス予約(つまりカード支払い)ができるサイトはないか。次に行く維西には、AGODAなど主要ホテルサイトに登録されたホテルは
なし。しっかりしたホテルはないということだろう。庶民の乗り物、一般バスのオンライン予約サイトはあるわけがなかった。維西からホテル代が節約できる夜
行バスで大理などに出られるルートはないか。ない。維西の銀行でドル両替はできるか。チベット省境からは少し外れる。銀行の人はできると言った。しかし、
彼とは言葉(英語)が通じてない可能性が高い。ネットで画像を調べると維西はいかにも山村という風情で、外貨両替ができる銀行があるようには見えない。い
ちかばちかで行ってみるのは危険だ。
いざとなれば、パンと水だけで1、2日は暮らしていける自信はある。しかし、高度3000mで野宿は難しいぞ。東北大震災の際は、夜中一晩中歩き続けて帰る覚悟も決めて現地に行ったが・・・。
止むを得ない。シャングリラに引き返すことに。麗江でかみさんと落ち合う予定あるので、またここに戻ってくるのは日程的に不可能。メコン川上流(瀾滄江)の方は断念。非常に悔しいが、しかし、旅は山と同じだ。常に撤退する勇気を持たねばならない。
見えた、梅里雪山!
翌28日、挫折を感じながらシャングリラ行きのバスに乗り、同じ道を引き返す。
バスの切符は買い換えられるということを知ったのは収穫だった。
そして、さらにすごい収穫が。バスの中からほんの一瞬だけ梅里雪山が見えた。すかさずシャッターを切った。
徳欽に来る人はだいたい雲南最高峰、梅里雪山(6740m)を見にくる。しかし、雲に隠れてだいたい見えない。昨日来るときもまったく見えなかった。しかし、このときだけ、ほんの一瞬、その姿の一部を私に見せてくれた。感謝感激。災い転じて・・・
しかし、それにしても高い。このバスのいる場所は、標高4000m近い。白銀の雪山が見え始めたとき、高度が高いので雲じゃないかと思った。
標高は8000メートル級のヒマラヤ山脈にかなわないが、梅里雪山は未踏峰。長江、メコン川、サルウィン川上流の深い谷にけずられた急峻な斜面と、厳し
い気候が人を寄せ付けない。1991年には、登頂を試みた日中合同登山隊がなだれに巻き込まれ17人全員が死亡している。
小ポタラ宮
シャングリラに着いてすぐ、この地でもっとも有名な観光スポット、いや聖地、松賛林寺(ソンツェンリン・ゴンパ)に向かう。ラサのポタラ宮に似ているので、小ポタラ宮とも言われる。
4月に65歳になって初のシニア割引はこの小ポタラ宮入場になった。125元が75元(約1400円)になった。すばらしい場所での初回体験だ。
階段登りがきつかった。何しろ標高3500m。
中にも入ってみました。観音様?
中では僧侶が修行を続けていた。静かで落ち着いた雰囲気で、感じさせるものがあった。前庭を散策しながら、ようやく、わかった、と思った。徳欽
での金欠非常事態は、このラマ経の仏様のおはからいだったのだ。シャングリラに来たのに、小ポタラ宮にも寄らず、素通りしていくとは、なんと言う物事を判
らない俗人か。ちゃんと帰ってきて、ここに来なさい! という思し召しだったのだ。
了解しました。ありがとうございます。すばらしい体験させていただき、チベット文化の存在が私の世界観の中にしっかりと組み込まれました。
さくらもチベット起源?
詳しくは:
岡部一明『アジア奥の細道』(Amazon KDP、2017年)、2060ページ、写真1380枚、398円
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