アメリカの社会ベンチャー「ジュマ・ベンチャーズ」の
クリス・ダイグルマイアーさん、来日(2002年6月)

6月19日(水)夕方、成田 着                                        
6月20日(木)終日 GISPRIシンポ(東京)
6月21日(金)3:00-6:00pm 一橋大シンポ
6月22日(土)1:00-3:30pm 沼津講演 7:00pm 京都講演
6月23日(日)1:00-4:00pm 名東教育文化フォーラム(名古屋)
6月24日(月)4:40-6:10pm 九州大学講演、7:00-9:00pm NPOふくおか講演
6月25日(火)12:30-3:00 名古屋大学講演、 夜、ベンチャー学会講演(東京)
6月26日(水)夕方、成田発

 2002年6月、アメリカから社会ベンチャー(社会起業)の活動家が来日し、全国5都市9箇所で講演会が行なわれた。名古屋でも東邦高校、名古屋大学の2箇所で講演が行なわれた。

 来日したのはサンフランシスコでホームレス青少年たちのためにビジネス型自立支援活動を行なっているジュマ・ベンチャーズのクリス・ダイグルマイアーさん。問題をもった青少年たちに単に福祉サービスを提供するのでなくて、自分たちでビジネスを起こして自立していく道を目指す。

 障害者その他社会的に不利な立場に置かれた人たちが、単に福祉に頼るのでなく、ビジネスで自立していく。社会的なミッションとビジネスを結びつけて新しい社会的事業を起こす人びとを「社会起業家」(Social Entrepreneur)と呼び、今アメリカで活発化してきている。ジュマ・ベンチャーズはその中でも最先端。こうした非営利ビジネスを育てるインキュベーターも設立し、青少年起業支援を全面化させている。

 今回来るダイグルマイアーさんは、6月20日(木)の地球産業文化研究所主催のシンポジウム「社会的価 値創造に向けた企業とNPOの新たな挑戦」に出席するために来日した(http://www.gispri.or.jp/)。これだけでなく、ぜひ他でも 講演会などを組織できればと、関係者が奔走する中で、全国的なキャンペーンが組織された。
 

ジュマ・ベンチャーズ(Juma Ventures)

 新庄がグランドでホームランを打つ時(あるいは三振する時)、スタンドでアイスクリームを売っているのはだーれだ?
 答:ジュマ・ベンチャーズでベン&ジェリーのアイスクリーム販売をはじめた少年たち!

 ジュマ・ベンチャーズは14才から29才までの低所得、又は問題をかかえた青少年に雇用機会と職業訓練の場を提 供するNPOビジネス。アイスクリーム店など5つのビジネスで150人以上の青少年を雇い、年商100万ドルを越える。サンフランシスコ・ジャイアンツの 本拠地パックベル球場でも売店を出す他、スタンドでアイスクリームなどを売る。「ジュマ」は西アフリカ・ガーナのアカン語で「仕事」の意。

 ホームレス青少年の支援組織「ラーキン街青少年センター」(LSYC)の内部プロジェクトとして 1991年に発足。96年に正式独立。「ビジネスを長期的な社会変革の手段として用い、それによって青少年に雇用を提供し、職中での本格的な職業訓練、広 範囲の生活技術学習、責任ある大人からの身近な支援、積極的な未来に進む機会を保証していく」ことを目的にする。

 まず1994年に第1号ビジネス「屋台のアイスクリーム」(Ice Cream on Wheels, ICOW)を設立。地域の祭りや催し物会場などで小さいカートでアイスクリームを売るビジネスだ。次いで95年春から96年春にかけてサンフランシスコ市 内に3つのアイスクリーム店舗をもつ。社会貢献企業もしくは社会的責任企業として有名なアイスクリーム・チェーン「ベン&ジェリー」(全米120店舗)と のパートナーシップによるものだ。チェーン店をジュマベンチャーズが請け負い、青少年が運営する。

 同じくこの時期、球場でのアイスクリーム販売事業にも乗り出す。サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠 地3COM球場内の売店及び流し販売だ。現在は新しく市内に建設されたパックベル球場でも同ビジネスを行なう。ここを本拠とするサンフランシスコ・ジャイ アンツ球団、フットボールのフォーティー・ナイナーズ球団はいずれも社会的貢献を積極的に行なう企業として有名である。

 2001年からは、青少年向けビジネス・インキュベーター「事業センター」(EC)をはじめた。ハイテ ク産業も含め範囲を拡大した起業支援。センターは全米最大のマルチメディア産業集積地「マルチメディア・ガルチ」(サンフランシスコ中心部のSOMA地 区)にあり支援を受けやすい。アメリカには現在約900のビジネス・インキュベーターがあり(下記参照)、起業家経済の牽引力になっている。社会ベン チャー型のインキュベーターはこれがはじめて。
 

クリス・ダイグルマイアー(Kriss Deiglmeier)

 ジュマ・ベンチャーズのチーフ・ストラトジスト(最高計画責任者)。1963年生まれ。シアトル地域で育つ。カリフォ ルニア大学バークレー校経営大学院卒(MBA)。ラーキン街青少年センターの運営ディレクター、ユナイテッドウェイ(キング郡)の企業寄付キャンペーン・ ディレクターなどNPOでの活動の他、百貨店ノードストロームでのマネジャー経験もある。過去5年間はジュマ・ベンチャーズで活動し、97年1月から01 年12月までの最高運営責任者(COO)時代に、ジュマベンチャーズを100万ドルから530万ドル規模の組織に成長させた。現在チーフ・ストラトジスト として組織全体の舵取りを行なう。特に社会起業ビジネス、インキュベータ事業に責任をもつ。夫との間に二児。
 

社会起業、社会ベンチャーとは

 社会問題に対して、ビジネス的なアプローチで対応する非営利事業活動。NPOの中にビジネス原理を取り入れる最近の傾 向の典型事例。例えば、福祉分野のNPOなら、不利な立場におかれた人たちが福祉サービスに依存するのでなく、積極的に自分たちのビジネスを起こして自立 をめざす。ハイテク産業やベンチャービジネスの盛んなサンフランシスコ、シリコンバレー地域で特にこの種の活動が活発で、「ベンチャーフィランスロピー」 を目標に掲げるロバーツ事業開発基金(REDF本部サンフランシスコ、http://www.redf.org/)が、有力な社会起業家支援組織として知 られる。

 社会ベンチャーの中では、確かに多くの付加コストがかかり、純ビジネス的には利益が上がるとは言えない。職業訓 練、カウンセリング、生活支援、その他様ざまな付加サービスが必要であり、そのスタッフ人件費がかかるからである。しかし、それは狭い市場内だけの計算で あって、社会全体を見れば、福祉依存が軽減されて行政コストが削減され、新たな税収が生まれ、人々が積極的に自立を目指すことによる本人、家族、地域への 計測不可能な社会的便益もある。社会総体の立場から、公共資源を含めたリソースがどう効果的に動員されるかをみたとき、その非営利ビジネスの社会的経済合 理性がよく把握される。そうした社会経済的な立場からのイノベーションを目指すのが社会ベンチャーである。

 ちなみに、ロバーツ事業開発資金は、サンフランシスコのプレシディオ公園の中、社会変革財団として有名 なタイズ財団設置のソーロー・センターの中にある。このタイズ財団(http://www.tides.org/)はアドボカシーNPOに社会ベンチャー 原理を導入した代表事例で、ベンチャー・フィランソロピーを実践するとともに、米最大規模のNPO育成インキュベーターを運営する(タイズ・センター、 300団体以上が加入。岡部一明『サンフランシスコ発:社会変革NPO』御茶の水書房、2000年、参照)。また、このセンター内に全米の社会起業家の連 合体「社会ベンチャーネットワーク」も入っている。
 ジュマ・ベンチャーズは、REDF助成事業の発端となった非営利ビジネスであり、その主要「投資先」のひとつである。

インキュベーターとは

 立ち上げ起業を支援する事務所センター。アメリカの活発な起業家経済を支える秘密と言われ、全米に約900のビジネ ス・インキュベーターがある。立ち上がりの困難な時期に、安価な共同事務所を提供し、会議室、コンピュータ、コピー機その他設備を共用し、さらに経営アド バイスや会計サービスを行ない支援する。全米ビジネス・インキュベーター協会(NBIA[http://www.nbia.org/])によれば、75% がNPO運営によるもの。地域おこし非営利ビジネスとしての性格も強い。1998年の調査によれば、インキュベーターは北米でこれまでに19,000の新 しいビジネスと245,000の雇用を創出。平均3300平米の事務所スペース(共用部分含む)に平均20の小ビジネスが入る。ジュマ・ベンチャーズは、 社会ベンチャーの分野にこのインキュベーター・モデルを取り入れた先進事例。(タイズセンターは、アドボカシーNPOにインキュベーターを導入した事 例。)

 日本新事業支援機関協会(JANBO)によれば、日本には2002年2月現在113のインキュベーター施設がある。内、非営利が90施設(79.6%)、営利が23施設(20.4%)。


訪日詳細


6月20日(木)
10:00am-17:30pm 第12回GISPRIシンポジウム
「社会的価値創造に向けた企業とシビルソサエティの新たな挑戦」
国連大学国際会議場(ウタントホール)
主催 (財)地球産業文化研究所
(〒105-0001 東京都港区虎ノ門2丁目1番1号 商船三井ビル3階
   電話:(03)5563-8800、FAX:(03)5563-8810 E-mail:info@gispri.or.jp
 http://www.gispri.or.jp/sympo020620.html)
後援 経済産業省
10:10-11:30 特別講演
 「グローバルコンパクト?グローバリゼーションと企業市民―」
  フレデリック C. デュビー(国際連合グローバルコンパクト事務局長)
13:00-13:20 キーノートスピーチ「企業と社会の新しい関係に向けて」
  谷本寛治(一橋大学大学院商学部研究科教授)
13:25-15:00 セッション1「企業の社会的責任とサステナブル・ソサエティ」
15:20-17:20 セッション2
 「ソーシャルアントレプレナーとソーシャルイノベーション」
 *ダイグルマイアーさんが出るのはこのセッション2。他のパネラーは、杉山
   定大(経済産業省大臣官房政策企画室長)、杉山さかえ(北海道大学グ
   リーンファンド理事長)、宮城治男(NPO法人ETIC代表理事)

6月21日(金)
3:00-6:00pm 第13回<企業システム論>オープンセミナー
ダイグルマイアー「ジュマベンチャーズの取り組み」
場所:一橋大学 本館3階 30番教室
主催:一橋大学谷本研究室
http://obata.misc.hit-u.ac.jp/~tanimoto/home/openseminar.htm

6月22日(土)
1:00-3:30pm 沼津講演
場所  沼津 産業振興プラザ 5F会議室AB
主催者 ダイグルマイアーさん講演会静岡実行委員会

7:00pm-9:00pm 京都講演
「地域課題への取り組みと社会起業 ―アメリカの先進事例から学ぶ」
場所:キャンパスプラザ京都2F第一会議室
主催:大学コンソーシアム京都
   〒600-8216 京都市下京区西洞院通塩小路下ル
   TEL(075)353-9100(代表)     FAX(075)353-9101
http://www.consortium.or.jp

6月23日(日)
1:00-3:00pm 名東区教育文化フォーラム
場所:東邦高校大会議室
 〒465-8516 名古屋市名東区平和が丘3丁目11番地
 電話: 052-782-1171  FAX: 052-782-7151
 E-mail: t-mail@toho-h.ed.jp (担当:浜田)

6月24日(月)
4:40-6:10pm 九州大学講演
7:00-9:00pm NPOふくおか講演

6月25日(火)
13:00〜15:00 講演「ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)〜ジュ
            マ・ベンチャーズから学ぶ〜」
会場:名古屋大学国際開発研究科 多目的オーディトリアム(8階)
主催 名古屋大学経済学研究科経営管理学修士コース運営委員会
後援 東邦学園大学・短期大学、市民フォーラム21・NPOセンター、パ
    ートナーシップ・サポートセンター
問合せ先:名古屋大学経済学研究科 MBA Admissions Office
             Tel.052-789-5713

7:00-9:00pm 日本ベンチャー学会女性部会講演
渋谷「こどもの城」セミナー室
連絡先:ハッピーコム
〒107-0061東京都港区北青山3-9-9-10B
tel:03-5778-3055  fax:03-5778-3054
http://www.happycom.co.jp
 


全記事リスト(分野別)


岡部ホームページ

ブログ「岡部の海外情報」