ポートランドに見る新しい市民社会モデル


ポートランドの「リビングルーム」Pioneer Court Square
 

スティーブ・ジョンソン来日(2006年12月)

 
 ポートランド(オレゴン州)は、アメリカで最もNPO型の社会が成功している街と言われます。活発なアドボカシー活動、行政への強力な市民参加、街づく りの全米モデル、実質的な力をもった近隣組合制度などなど。アメリカの生み出した新しい市民社会モデルの最先進事例、そのガバナンスの到達点がここにある と思われます。このポートランドから、NPOやソーシャルキャピタル論に詳しいスティーブ・ジョンソン博士(ポートランド州立大学都市研究プランニング学 部教員Adjunct Professor)が、日本社会情報学会の招きで2006年12月に来日しました。東京で開かれる国際シンポ「コミュニティ資源の形成とICT」(12月23日、於:東京 国際フォーラム)で基調講演の他、全国9都市で16講演。
 

ポートランドの市民参加を理解するために ―>ポートランド自治モデル

NPOが自転車の街づくり −Bicycle Transportation Alliance
ソー シャルキャピタルをつくるNPO −City Repair
市民参加制度としての近隣組合 −Office of Neiborhood Initiative
ポートラ ンドの謎 −パットナムの分析
市民 助言委員会を通じた市民参加 −Commissions, Boards, Citizens' Advisory  Committees,  Citizens' Task Forces
流域ごとの水系 保護 −Watershed Council

アメリカの自治体制度の基本については ‐>『アメリカの自治体制度』
 

ポートランドの秘密


高速道路を撤去してつくった河岸公園は緑の芝生がまぶしかった。
 

 例えば主著Bowling Aloneでアメリカの社会的つながり(ソーシャルキャピタル)の崩壊を描いたロバート・パットナムは、最近著Better Togetherでその稀有な例外・ポートランド について最終章を割いて詳論しています。市民団体や公的会議への参加、新聞への投書、署名活動や自治活動 など多様な指標から、70年代に平均的な米国都市であったポートランドは、他が軒並み社会的指標を下落させる中、数十年間で3倍から4倍の高いレベルに成 長したと言われます。全米が高速道路ラッシュに沸いていた70年代初頭、ポートランドでは中心部の4車線自動車道を撤去し水辺の公園がつくられました。 72年に32歳で市長になったニール・ゴールドシュミット(後に連邦交通省長官、オレゴン州知事)の市政下で次々に改革が行なわれ、特に全市に張り巡らさ れた半ば公的な近隣組合の制度は、住民自治を実現する制度的保証になったと言われます。中心部公共交通機関の無料化、自転車道の整備、スプロール化を抑え る都市成長境界(UGB)の設置など、その都市計画は全米モデルとなり、さらに都市圏全体で、独自の首長、議会をもった広域自治体・メトロを発足させ大都 市圏ガバナンスのモデルともなっています。


ポートランドでは市電(ライトレール)網が発達している。
ポートランドの公共交通機関は、都心部料金ただ。乗り放題。
 


いたる所に自転車ロードが設置されている。
 


市役所の支所的存在の近隣連合事務所がNPOとして組織されているのが特徴的。
(近隣連合の一つ、Southeast Uplift事務所で。)

 パットナムのポートランド分析の基礎となったのが、スティー ブ・ジョンソンのポートランド研究です。彼らは頻繁に交流し議論をたたかわせあったよ うです。自らもポートランドのNPO活動に長期にわたりかかわってきたジョンソンは、1960年代から1999年までの市民のNPO、行政参加の変遷を克 明に分析しました。その中で、パットナムが言うような伝統的市民組織の崩壊に代わり、アドボカシー的な市民運動組織が成長しているという興味深いNPO段 階論を展開しています。またコミンションや住民助言委員会など、行政の中に設けられた市民参加機関がソーシャルキャピタル創出の新しい基盤となりつつある という仮説も打ち出しています。パットナムとジョンソンは批判しあいながらも互いに学びソーシャルキャピタル論に新しい展開を生み出しつつあるようです。


市議会の様子。ポートランドの市議は市長を含めて5人だけ(前に並んでいる人)。
多数の市民がつめかけて、次々に発言する。


ネイバーフッド団体を支援する市の近隣参加局(ONI)
ディレクターのアマリア・アラーコンさん。
 

カウンターカルチャー世代から

 このスティーブ・ジョンソン博士は、かつて70年代の環境誌「レイン」の編集長でした。そう聞いて、そちらの方に強く反応する人も居るかも知れません。 ポートランドから出ていたこの良質のオルタナティブ・テクノロジー誌は、当時の台頭するエコロジー思想の象徴的存在でした。彼らの出した本 Stepping Stoneなどともに、これらに強く反応するあなたは筋金入りのカウンターカルチャー世代です。かの若き青年たちが今学者になって、その思潮の根源を 「ソーシャルキャピタル論」として追求している。そういう事例の一つがジョンソン博士です。
 ジョンソン博士は、2001年にも来日し、日本各地で講演を行なっています。‐>名古屋の東邦学園大学での講演録
 

コンピュータ市民運動の草分け

 ジョンソン博士はまた、コミュニティーメディアの先駆者としても知られ、コミュニティーラジオ、ビデオ、パブリックアクセスチャネルなどの運動に関わった他、1980年代には当時普及してきたパソコン利用の市民運動を主導しました。その経験は1985年の段階で日本にも伝えられ、「コンピュータは体制側の管理手段」としか考えていなかった日本の市民運動に大きな影響を与えました。(当時のジョンソン氏によるパソコン支援NPOの活動市民運動によるコンピュータ利用についてのインタビュー

スティーブ・ジョンソン(Steve Johnson)

 ポートランド州立大学教員(Adjunct Professor)。1945年オレゴン州ポートランド生まれ。ポートランド州立大学都市研究プランニング学部博士課程修了。70年-80年代を通じて 環境NPO活動にたずさわり、環境と調和したオルタナティブ技術を推進した。とくに環境誌『レイン』の発刊とその編集長としての活動(74-84年)は有 名。NPOのコンピュータ利用支援での実績の他、地元・ジョンソン・クリーク水系の環境保護、市民参加型の計画手法の開発に成果をあげた。90年よりポー トランド州立大学都市研究センターの地域研究マネジャー、97年から同大学NPOマネジメント研究所の特別研究員に就任。同大学の都市研究学部、公共管理 学部などで教鞭をとる。博士論文The Transformation of Civic Institutions and Practices in Portland, Oregon 1960-1999は、2002年のアメリカ政治学会都市研究最優秀博士論文賞を受賞。研究員、教師、地域活動家の3役をこなしながら、大学の地域連携活 動に重要な役割を果たしている。国際的にも広く活動し、今年も4月に英バーミンガム大学で講演した他、9月にオーストラリア各地、10月に仏独英で講演 し、12月に日 本に招かれているもの。編著書に『レインブック:適正技術資源』『ホームを知る:地域自治へのガイド』『ポートランド圏の都市自然資源ハンドブック』な ど。現在、 博士論文を基礎にしたソーシャル・キャピタルに関する著書を執筆中。


ポートランド州立大学は地域に開かれている。
塀がない、というより、街を歩いているといつの間にか木々が多い公園のようになってそこが大学キャンパス。
その辺の街の全体が大学であり、大学が街並の一部であり、、という感じ。
 

*ポートランドを肴に、ジョンソン博士と、今後の市民社会ガバンナンスの基本方向を考えましょう。



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