高速バスと自転車で名古屋・栃木間2000円
昨年12月に帰国してから、危篤状態になった母の見舞いと父の介護のため、名古屋と実家(栃木県那須郡那珂川町)を何度も往復することになった。JR青春18切符(鈍行乗り放題)があるときはよいが、ない時期は、栃木通いは経済的に難しい。JR鈍行でも、路線バスを含め片道1万円かかる。そこで、いろいろ検討し、
東京圏まで高速バス2000円+そこから自転車で栃木県那珂川町まで
という方法を編み出した。高速バスは、名古屋から新宿や東京駅までなら朝発でも最安2000円、ディズニーランドや大宮までは夜行2000円の便がある。別にディズニーランドに行くわけではない。あそこは旧江戸川の河口にあたり、関東平野を縦断する自転車ルートに乗るには絶好の場所なのだ。旧江戸川、江戸川、利根川を伝って群馬県中央部まで行けるし、鬼怒川、思川その他関東平野を南北に走る河川堤防をたどって栃木県まで行ける。川の堤防上のアスファルト道路というのは車も来ないし、比較的平坦で、最高の自転車道なのだ。実家のママチャリを使うので1日では行けなかったが、途中にネットカフェはいくらでもある。また、高速夜行バスで大宮まで行けば1日走行が可能だ。
2017年9月10日、茨城県常総市三坂町の映像
江戸川河口から栃木県北部まで
乗ってきたママチャリは京葉線浦安駅近くの駐輪場(1日100円)に停めて、高速バスで名古屋帰還。ディズニーランドからの夜行格安バスは若い人ばかりで、じいちゃんは私だけだった。
諸用事を足して、駐輪期限が切れる1週間後に再び名古屋から浦安に戻り、自転車で栃木県那須郡那珂川町を目指した。午後1時頃出発して旧江戸川、江戸川本流を遡上。予定通り、約50キロ上った春日部付近までこいで、午後7時頃、ネットカフェに入った。
江戸川サイクリングロードは快適なのだが、あいにくこの日は天気が悪かった。予報では午後に雨が止むはずだったが、夕方までみぞれだった。しかも今年一番の寒さ。そして風が強い。北からの向かい風だ。自転車乗りは、時にこのような荒ぶれる自然にも対峙しなければならない。
堤防上は寒さと強風で耐えがたく、街に降りる。住宅街の路地をジグザグ順路で走ったので、実際の走行距離は60キロ以上になっただろう。こいでいるので、上体や足は濡れても寒くなかったが、手足の先、顔が冷たかった。帽子や防水手袋など防寒対策が不十分だった。
春日部に着く頃にようやく雨がやみ、風も下火になった。そうなるとほんとにここは走りやすいサイクリングロードなのだが。
スーパーで買い出ししてネットカフェに入る、というのがいつものパターンになった。1000円以下で翌日までの食料を確保して、暖かいネットカフェに入るとほっとする。ドリンク、特にオレンジジュースが飲み放題なのがありがたい。寒い中を走っても結構水分を消耗しているらしく、がぶ飲みだ。明日は天気が良くなるという予報。おいおい、本当だろうな。
利根川・渡良瀬川・思川ルートをとる
本当だった。2日目はうって代わって快晴で、風もなく、これ以上ないサイクリング日和。こういうものだ、自転車乗りの生活とは。昨日はまったく写真なしだったが、きょうは写真で報告。
私のオリジン(出身地)は関東平野か
関東平野を自転車で行き来していると、この地域への愛着がどんどん深まる。俺も、那須野が原を馬で駆け回った那須与一ら野武士の血が流れているんではないかと思ったりする(彼が生まれたとされる居城「神田城」が我が那珂川町にある)。新幹線、あるいは車で走ってもこういう気持ちにはならない。自分の力でペダルをこいで走り回ると、身体がその土地と一体化し、愛着が湧いてくるのだ。
アメリカで暮らすと、常に自分のアイデンティティ、オリジン(出身地)を意識させられる。アメリカで私たちはエイジャン・アメリカンであり、日系人だ。私も日本がオリジンになるわけだが、もっと細かく言うと関東平野かもしれない、と今回思えた。平野に張りめぐられた川、そこを伝ってはぐくまれた河川交通と文化の伝播。川から舟運の益、水産物の恵み、農業の基礎となる水を得ながら暮らしてきた人々、その民家、伝統集落、、、それらがたまらなく懐かしい。
関東平野「高速自転車道網」の夢
堤防は優れたサイクリングロードだ。まず、どこまでも長く続く。しかも河川沿いの主要都市を結ぶ。そして、滝でもないかぎり、緩やかな勾配だ。川は登り下りすることはない。また、堤防は洪水を防ぐためのものだから必ず一定の高さがあり、眺望が良い。そして多くの場合自然が豊富だ。川本体の水以外に、広大な河川敷、その中の藪、草原、林、竹林、畑、氾濫原、石の河原などが広がる。河岸側にも広大な農地が広がり、舟着き場を中心にはぐくまれた伝統的集落が点在する。
堤防には、水害時の緊急車両、工事車両などの走行のため、簡易なアスファルト道路が通る。一般の車は入れない。しかし、自転車なら入れる。安全で快適な自転車走行ができる、ということだ。自転車道をつくれとサイクリストが要求する前からこんな優れたサイクリングロードが全国の河川沿いにあった。正式に「自転車道」と命名されなくても、すでに優れたサイクリングロード網だ。
そして、関東平野はでかい。地平線まで田園が続く。日本では最も広いだろう。カリフォルニアにだって、セントラルバレーを除くと、この規模の平原はあまりない。そしてこの広大な平地に大小の河川が配され、堤防サイクリングロードが伸びているのだ。
特に江戸川・利根川ルートには日本最長150キロのサイクリングロードが整備され、東京から群馬県渋川まで快適に行ける。宇都宮・栃木県北部方面もそれに次いで好条件。鬼怒川、小貝川、五行川、田川、思川などに沿って自転車道が伸びる。関東平野に「高速自転車道」網をつくろう。本格的なツーリング車で時速30キロで走れば、関東地方各地に5時間で行けるようになる。ガソリンをばらまいて行くより、自転車で行った方がかっこいい。そんな関東平野の自転車文化圏がつくれればすばらしい。