ひさしぶりにサンフランシスコに来て、街中心部にホームレスの人たちが一段と増えたのが気になった。ヨーロッパはもちろん、ニューヨークなど米東海岸諸都市よりも多い。カリフォルニアが、ニューヨークほど寒くならない暖かいところであることも関係するが、リベラルな街で、彼らをことさら排除しない、シェルターや無料食事など彼らを支援するNPO活動も盛ん、などの要因もあるだろう。
市庁舎のあるシビックセンター地区からケーブルカー路線にかけてのテンダロイン地区、さらに中心街マーケット通りをはさんで南のSOMA(マーケット通りの南)地区、ミッション地区東部などが、そうした「blighted area」(荒廃地区)といわれる地域だ。私はこうした地区のど真ん中に宿をとった。恐るべき高家賃のサンフランシスコでは、私の入れるのはこんな地域の宿だけ。ドーミトリー(タコ部屋)だが、それでも1泊40ドル(5700円)する。これがbooking.comで見つけたこの街最安宿。
正直、最初はこわかった。しかし何日か居るうち慣れ。彼らは奇行や不衛生な行動はあるものの、暴力的ではなく、危害を加えるようなことはまずない。隣人と思って普通に通り抜ければいいのだ。
都市論の巨人リチャード・フロリダによると、ゲイの人たちが多い街と、クリエイティブな立ち上げ企業の多い街とは統計的に有意な関係があるという。「移民、ゲイ、芸術家」など一見産業に関係なさそうだが、こうした層が多い街ほど、クリエイティブな価値観と文化が生まれ、新興産業も多く生み出されるという(リチャード・フロリダ『クリエイティブ資本論』邦訳2008年、ダイヤモンド社)。
この「ボヘミアン・インデックス(指標)」にホームレス層を加えていいだろう。ホームレスの人たちを受け入れ、少なくとも排除せず、共生をはかるような街こそ、古い考えにとらわれない活力ある自由な発想を生む。実際、サンフランシスコのスタートアップ企業が多い「マーケット通りの南」地区は、ホームレスの多い地域と完璧にオーバーラップする。AI革命の震源OpenAI社もこういう地域の中にある。
確かにAI先進地サンフランシスコでは、パンデミック期が終わった後も、思ったほど都市中心部の事務所スペースの空きが減っていない。しかし、リモートワークの普及とも相まって、大企業が大量の従業員を中心部高層ビルに押し込んでビジネス、という「大量投入大量生産」のビジネスモデルは過去のものになりつつある。むしろ、かつて町工場や倉庫が立っていたような荒廃地域(そして相対的に家賃が安い地域)に、活力ある企業経済が勃興している。スタートアップが猥雑な都市周辺部空間から小規模で活発な新興ビジネスを展開する。労働力大量投入の中心部高層ビルの賃貸状況ばかり見ていると時代の本質が見えないだろう。
この地が、クリエイティブな活動を生む別の何かに変わる未来に期待する。