気候変動で他の人類は滅びた 残ったホモサピエンスは?

周囲はバイデン勝利に沸き立ち、私自身も大いに興奮している。だが、そういう時だから、ここは敢えて下記の遠大な研究を取り上げる。大統領選の過熱報道の陰で、目立たないが、重要な学術研究の発表があった。古人類の絶滅で、気候変動が主要因となったという。


我々以外の人類も居た

過去には多様な人類が存在していた。最近ではネアンデルタール人、デニソワ人、そして現生人類(つまり、我々ホモサピエンス)が数十万年にわたり地球上に併存し、それ以前にもホモ属、オーストラロピテクス属などの多様な人類種が棲息していた。しかし、ほとんど絶滅し、我々だけが残った。なぜ彼らは滅んだのか。気候変動か、ホモサピエンスとの競争に負けたか、いや、彼らは滅んだのでなくて交雑し、我々の中に生き残っている、などいろんな説が出されている。

ホモ属人類6種について絶滅要因を調査

そういう中、この10月半ばに、ホモ属人類6種の研究から、気候変動が主要な絶滅要因だったとの研究結果が出された(Pasquale Raia, et al., “Past Extinctions of Homo Species Coincided with Increased Vulnerability to Climatic Change,” One Earth , Volume 3, Issue 43, October 15, 2020; 解説は例えばsci-news.com記事)。

Pasquala Raiaをはじめとしたイタリアの研究者、そして英国、ブラジルの学際的研究者チームが、充分な考古学的記録のあるホモ属(ヒト属。つまり霊長目ヒト科ヒト族ヒト属)のホモ・ハビリス、ホモ・エルガスター、ホモ・エレクトス、ホモ・ハイデルベルゲンシス、ホモ・ネアンデルタレンシス、現生人類について古気候の変化との関係を調べたところ、絶滅の直前に寒冷化など明確な気候変動があったことを確認した。

ホモ・ハビリスは280万年前からの生存が確認できる最古のホモ属人類だ。ホモ・エレクトスは、約200万年前から7万年程前まで極めて長期間にわたり繁栄し、北京原人、ジャワ原人などにみられるように初のユーラシア大陸進出も果たした成功組人類だった(我々ホモ・サピエンスは長くてあと数万年、計30万年程度存続すればいい方だろう)。約30万年前に出現したホモ・ネアンデルタレンシス(ネアンデルタール人)は現生人類とも長く共存し、交雑もした直近の絶滅人類。絶滅時期は2万数千年前、4万年前などの説がある。

研究者らは、世界2,785の「考古学的記録」の出土化石、石器などの情報と、1000年単位の精度をもつ降水量、気温など過去500万年の古気候記録とをつき合わせ分析を行った。近年絶滅リスクの測定などで開発が進んでいる「気候ニッチ要因分析」(CNFA。生息域の地理的広がりで気候ニッチを数量的に把握する)の手法も用い、環境の変化から変種に進化した可能性なども考慮し、明確な絶滅(termination of phyletic lineage)に至ったと考えられるホモ・エレクトス、ホモ・ハイデルベルゲンシス、ホモ・ネアンデルタレンシスについて、絶滅直前に劇的な気候変化があったことを示した。3例すべてで年平均5度程度の地球全体の寒冷化があり、ホモ・エレクトスについては湿潤化、他2者については乾燥化の変動もあった。また、ネアンデルタール人については、ホモ・サピエンスからの競争要因も確認した。

寒冷化とそれに伴う食料不足がこれらの人類を襲う。絶滅の直前、ホモ・エレクトスとホモ・ハイデルベルゲンシスについては、生息域(気候的ニッチ)が半分以上縮小し、ホモ・ネアンデルタレンシスも約4分の1を失っていた。200万年近く存続したホモ・エレクトスは最終氷期(ヴュルム氷期、7万年前~1万年前)の始まりとともに彼らがそれまで経験したことのない寒冷化に襲われ、絶滅した。暖かい気候に適応した彼らは最も温暖な地域にのみ追い立てられていた。この時期の彼らの化石は東南アジア地域で見つかるという。

(なお、この論文では触れられていないが、現生ホモ・サピエンスたちも、約7万4000年前に絶滅の危機に瀕したとする「トバ・カタストロフ理論」がある。インドネシアのスマトラ島トバ湖にあった火山が地球の歴史200万年で最大規模の噴火を起こし、火山灰に覆われた地球が寒冷化。ホモ・エレクトスなどが絶滅するとともに、現生人類も総人口1万人程度までに減少した。このため遺伝子の「ボトルネック効果」が起こり、人口70億人に達した今もホモ・サピエンスの遺伝子は比較的均質になっている、とされる。)

ネアンデルタール人以外では初の人類絶滅研究

古人類の絶滅については、これまで主に、考古学的記録の多いネアンデルタール人の絶滅が詳しく分析されてきた。それ以前の人類に関してはほとんど研究がなく、その点で今回の研究には画期性があった。「本研究は、気候変動が我々の祖先すべてに共通する絶滅要因であったことについて最初の強力な証拠を提供した」と論文は結論づけ、次のようにも言う。

「確かに最近の人類諸種は、その認知スキルにより火の制御、衣服、移動能力などを結合し、生存に対する気候変動の影響を和らげてきた。自らの局所気候を操作し、また、よりよい環境に速やかに移動してきた。実際に最近、保護的局所気候条件が絶滅の危機を回避したとする研究も出てきている。しかし、技術的に最も発達し、可塑的で、多様な生態系に拡大したホモ属諸種でさえ、地球的変動には対応しきれなかった。」(Pasquale Raia, et al., Ibid., p.485)

現生人類への警告も

論文の結語は、下記の通り、我々ホモ・サピエンスに対する警告となっている。

「我々自身の未来は、地球のサポート機構であるエコシステムと全生命系の健全性に決定的に依存している。本研究の分析は、今後の人為的気候変動の力について強い警告を発している。それは我々より適応力の弱い他生物種を直接的に絶滅の危機にさらす。地球の全野生生物、その延長として我々自身に向けられた脅威が、一般に考えられているよりはるかに深刻である可能性を示唆している。」(同上)