リスボンで入った宿が近郊鉄道シントラ線上にあった。シントラまで行けば、その先のユーラシア大陸西端、ロカ岬が近い。行かない手はない、とある日、車上の人に。
リスボンは、日本の大都市と同じように、地下鉄だけでなくこうした地上を走る鉄道が重要な交通の一部になっているのがいい。リスボン中心部は白壁と赤い瓦の伝統的町並みだが、郊外に行くと、やや高層の四角い団地が続く。それをぼんやり見ながら約40分でシントラ着。駅の左にロカ岬に行く403の路線バスが待っていた。観光客がたくさん待っていた。往復10ユーロの乗車カードを販売している。ちょっと高いのではないか。しかし、岬までは思ったより時間がかかったので、妥当な料金かも知れない。
バスは30分置きに出発。くねくねと曲がった細い道を、これもやはり40分程度は乗った。凹凸の多い地形と狭い耕地と、地中海世界よりは濃い緑の丘陵地帯。とても寂しい田舎の風景で、私の栃木の故郷を思い出した。観光客の多いバスに時折地元の中高生らしき若い人たちが乗ってくる。ますます昔を思い出した。
大陸の端を見られるのは限られている
岬に着いた。ユーラシア大陸の西の端。先は絶海だ。曇って、重苦しい大西洋だが、地の果ての光景としてはふさわしい風景かも知れない。灯台の先にさらに本当の端まで行ける展望台があり、そこに観光客がたくさん集まっていた。
ユーラシア大陸、あるいは地球上の大陸というものの端を、こんなに明確にみられる地点は限られている。ユーラシア大陸の北端(北極海に面したチェリュスキン岬)と東端(ベーリング海峡に面したデジニョフ岬)は、極寒の遠隔地で、普通の人はまず行けない。南端はマレー半島の先(タンジュン・ピアイ)なので行けるが、すぐ目の前にシンガポールの島があり、その先にさらにインドネシア諸島が続いている。「地の果て」の峻厳さはあまり感じられない。その点、このリスボン近郊のロカ岬は、簡単に行ける上、その先に大西洋の大海原が広がるのみで、地の果てのロマンを存分に感じられる。
私の旅もそろそろ終わりに近づいた。大陸最西端に足跡を記すのも似つかわしいだろう。一通り物思いにふけり周りを散策した後、また同じバスに乗りシントラに戻り、同じシントラ線鉄道で、宿のあるダマイアに帰った。半日の「小さな旅」。同線運賃はプリペイド式カードだったので不明だが、リスボン中心部までなら片道2ユーロ25セント。列車はかなり頻繁に来る。