エーゲ海にアトランティス伝説 3600年前のサントリーニ島大噴火

紀元前1600年頃、サントリーニ島で大噴火

紀元前1600年頃、エーゲ海のサントリーニ島で巨大噴火(ミノア噴火)があり、巨大カルデラができてほとんどが海に沈んだ。巨大地震や津波で周辺の古代文明が破壊された。正確な年、規模はいまだに火山学者間の議論が続くが、英文Wikipediaのまとめによると(こういう時は多くの人の意見が入るのでWikipediaは有用)、 噴出物は30~80立方キロ(DRE換算)で火山爆発指数(VEI)は6と7の間と推定される。VEIのレベル7は1万年に5回程度しか起こらない巨大噴火。広島型原爆数百万発に相当するともいう。1991年のピナツボ山噴火は6だった。噴煙は成層圏の30~35キロ上空に達し、35~150メートルの津波を引き起こした。島の居住地を壊滅したのはもちろん、110キロ南のクレタ島北岸にも損害を与えた。火山灰は、27キロ東のアナフィ島でも3メートルに達した。噴出物質は数年に渡り地球を覆い、気候変動を引き起こした。その影響は世界各地の氷床コア、古木の年輪などに刻まれている。

クレタやサントリーニを中心としたミノア文明の衰退とこの噴火の関連が活発に議論されている。中国ではこの時代を記録した『竹書紀年』に、夏から殷への王朝交代期にあたる紀元前1618年前後に「黄色い霧、うつろな陽光、三つの太陽、7月の霜、飢饉、五穀の衰退」があったと記述されている。古代エジプトでも第2中間期にあたるこの時期、豪雨で王朝衰退が顕在化し、ピラミッドも次第に建造されなくなった。アトランティス伝説や『旧約聖書』の「出エジプト記」(モーゼが海を割る)との関連を指摘する議論もある。

一夜にして海底に沈んでしまったというアトランティス大陸の神話は、古代ギリシャの哲学者プラトンが『ティマイオス』『クリティアス』に記した。ミケーネ文明やトロイア戦争など、寓話が実は史実を一定程度反映していることがわかったように、アトランティスも何らかの歴史的事件を反映している可能性がないとは言えない。荒唐無稽なものも含めて1700余りのアトランティス仮説が出ているそうだが(平川陽一『アトランティス―失われた帝国の謎』2001年)、研究者の間で最も活発に議論されてきたのはこのミノア噴火との関連のようだ。

サントリーニ島 位置図。地図:OpenStreetMap
エーゲ海南部の島サントリーニ島の衛星写真。海底火山の噴火で巨大なカルデラができ、その外輪山が島になっている。 Photo: NASA, Wikimedia Commons, public domain
ピレウス港(アテネ近郊)を出港。エーゲ海キクラデス諸島の最南端サントリーニ島に向かう。ピレウスから南に約250キロ。ディロス島など他のキクラデスの島にもいろいろ行きたかったが、冬の間、クレタへの接続便があるのはサントリーニ島だけで、一択だった。
船は大型船で、空席が目立った。おっと、船の外観を撮影するのを忘れた。上記港に停泊する客船とほぼ同じだった。
エーゲ海。といっても普通に海だが。
朝出て夕刻にサントリーニ島に到着。大型船が着ける新港、アティニオス港は中心都市フィラから離れている(南へ4キロ)。確かに火山の島は異様な地形だった。海に火山岩でできた急峻な崖が迫り、頂上部の比較的平らな土地に住宅が密集する。
住宅が白系統に統一されている。遠くから見ると山頂に雪がかぶっているように見える。
同上。
中心都市フィラの下にある旧港に下りてみた。小さなボートが着ける小さな港。冬で人がほとんどおらず、無人の街に来たようだった。
下から「頂上」の住宅域を見上げると…。
旧港からフィラの街まではケーブルカーで登れるが、冬で休業していた。急峻な坂道をつたっても登れる。
入った宿。このように白く角ばった建築が多い。床はコンクリートのような固い材質。夏は涼しいだろうし、虫もわきにくいと思われた。

巨大噴火で埋もれた古代都市・アクロティリ遺跡

いよいよお目当てのアクロティリ遺跡に行った。3600年前の巨大噴火で埋没したミノア文明の都市。発掘されたのはまだその一部だが、保全のため建物で覆われている。
陽光が入り、温度調節された建物内に遺跡が囲われている。
アクロティリの街は20ヘクタールの広がりがあり、上下水道網を有し、複数階の建物もあった。他の多くのエーゲ海文明同様、海上交易を通じて他の島々、ギリシャ本土とつながりがあった。とくにクレタのミノア文明とつながりが深かった。それが全て火山灰に埋もれたため、保存状態のよい遺跡が出てくる。
ポンペイのように遺体が発見されないのは、噴火の予兆があり充分な避難時間があったためと推定されている。貴金属も持ち出したとみられ、あまり発見されない。土器など携行できないものは多く残された。
特にフレスコ画の保存状態がよいのはミノア文明として貴重。フィラの新先史期博物館で。
同上。
同じく出土した「青い猿」の壁画。クノッソスなどクレタの文明と同様、自由な精神を感じさせる
土器も多く出土する。
アクロティリ遺跡の先の方に、火山性の岩できたレッドビーチがある。含まれる鉄分で赤色になるという。ほとんど人が来ない隠れたビーチだった。落石の危険があり立入禁止になっている。