故郷アフリカに帰ってきた

飛行機が、熱帯雨林地帯だろう、雲海の上を過ぎ、アフリカ南部の砂漠地帯が見えてきたとき、私の心に高揚感がおそった。ついに故郷に帰ってきた。

いや、私は純然たる日本人だ。アフリカ系ではない。だが、ここが故郷だったことを知っている。

日本人はアフリカから来た

日本人はどこから来たのか、起源をめぐる議論が延々とある。しかし、日本人は(も)アフリカから来た。それでいいじゃないか。

縄文人がどうの、弥生人がどうの、という「ちっちぇ議論」はここではいい。私もあなたも、日本人もモンゴロイドも、私たちホモサピエンスは皆5万年以上前、アフリカらか来た。以上。ピリオド。終わり。

この複雑な地形と多様な気候をもった大陸は、多くの異なる人々をはぐくみ、様々な遺伝子の混交を生み、太古の原人からホモサピエンスまで多様な人類、ホモ属をつくりだした。現在でも、この大陸に生きる人々、おおざっぱに「黒人」と分類されてしまっているが、彼らにはユーラシアに生きる人々よりもはるかに多様な遺伝子がはぐくまれ、数百万年にわたる豊かな進化史の痕跡を残している。

確かにアフリカは日本からは空間的にも文化的にも遠い。肌の色も違うかも知れない。だからか、私たちはアフリカから来たにもかかわらず、起源をこの地にまでたどろうとする意欲が薄いのかも知れない。

コイサン族登場

が、ここでコイサン族に登場して頂く。狩猟採集民のサン族、遊牧・牧畜民のコイコイ族(ホッテントット族)は言語、身体的特徴が互いに似ており、合わせてコイサン族と言われるようになった。(サン族はかつて蔑称でブッシュマンと呼ばれていたが、現在はサン族と言われる。しかし、ブッシュに棲む人々という意味で誇りをもって自称する人々も多いという。コイコイ族はホッテントットと呼ばれてきたが、これは事情を知らなくても明らかな蔑称に聞こえる。彼らの舌打ち音(後述)を揶揄する侮蔑語だと言われる)。

現在でこそ、アフリカ南部のカラハリ砂漠などに追い立てられてしまっているが、数万年、数十万年前の太古には南、東アフリカの相当広い世界に棲息していたとされる。ある時期にはホモサピエンスの最大多数の人々であり、人類と言えば彼らだった。人類の中でも最も古い時代の遺伝子をもつと言われ、熱帯雨林のむこう、カラハリ砂漠周辺に隔離されることで、過去の激動の人類進化史を今日に伝えている。

私たちに似ている

このコイサン族の人たちが私たちモンゴロイドに似ている。例えば下記の画像、動画参照。

コイサン族(サン族)の人。Photo:Ian Beatty, Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0 DEED
ナミビアのコイサン族(サン族)の兄弟姉妹。Photo: Nicolas M. Perrault, Wikimedia Commons, CC0
ナミビアのコイサン族(サン族)家族。Photo: Rüdiger Wenzel, Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0 de

その他にも例えば、https://www.reddit.com/r/AfricanHistory/comments/10o75bl/the_khoisan_people/#lightbox

まったく別の音を使う言語

彼らの言葉にはクリック音(舌打ち音、吸着音)という極めてユニークな音素がある。例えば下記のビデオ参照。声帯から出る声以外に、頻繁に「トントン」とか「チャチャ」という舌打ち音が入るが、これが言葉の一部になっている。世界中に多様な言語があるが、こういう音を使うのは彼らと、その影響を受けた周辺諸民族だけだ。(周辺のバンツー系民族の中ではコーサ語とズールー語にクリック音が入っている。)

私たちも舌の遊びでこの種の音を出すことはできるが、普通これは言葉としては使われない。世界中の言語が束になってかかっても、それらと根本的に異なる別の音素を使う言語と言えるだろう。

おそらく下の方の動画は、日常的には現代社会の中で暮らす若い世代のコイサン族なのだろう。言葉も失われて新しく学んだのではないか。その分、聞き取りやすいが「習った言葉」という感じがする。不思議なもので、砂漠で暮らす半裸の人々を見ると遠い感じがするが、こうして普段はTシャツでも着てその辺を歩いていると思われるような若者を見ると、なおさら私たちに近いように感じられる。

アフリカを出る頃のホモサピエンスは彼らみたいだったか

コイサン族は決して、後代にモンゴロイドと混血したわけではない。確かにアフリカ東岸沖マダガスカルには東南アジアからオーストロネシア系の人々の移住があったが、コイサン族の人々はそうした影響を受けていない。むしろ彼らは、モンゴロイドよりずっと古いホモサピエンスで、現生人類の中でも最古の遺伝子をもつ人々であることが人類学的に証明されている。つまり、彼らがもしモンゴロイドに似ているとすれば、それはモンゴロイドが何ほどか彼らの特徴を受け継いで変化させてきたからかも知れない。

日本人の起源で百家争鳴だが、こっちの方がよほど知的好奇心を駆り立てられる。5万年前アフリカを出たホモサピエンスは、実はコイサン族のような人たちだったのではないか。それがユーラシア大陸でコーカソイドやモンゴロイドに分化・進化していった。アフリカに残った人々の間でも進化が継続し、現在「黒人」と言われているニグロイドの人々も生まれた。コイサン族は、以後の多様な人類の原型となる人たちだったのでは。

彼らの姿がずっと気になっていた。いつか彼らのところに行ってみたい。しかし南部アフリカは遠い。それでずるずる後回しになっていた。が、私の人生も長くはない。今回、思い切って来ることにした。自分のルーツを探す旅だ。