ニューヨークに居た頃、ブルックリン南部の自宅からマンハッタンまで、よく自転車で行っていた。私の生活スタイルとしては、このサンフランシスコ湾岸都市圏(ベイエリア)でも同じ風にしたい。
しかし、コンコードからサンフランシスコまでは相当遠い(約50キロ)。その上、ベイブリッジが自転車で渡れない(途中のヤルバブエナ島ートレジャーアイランドまでしか行けない)。やや北のリッチモンド・サンラファエル橋が近く自転車走行可能になるらしいのだが、予算不足その他で工事が遅れている。ここが通れるようになれば、さらにゴールデンゲート橋(自転車走行可能)を経てサンフランシスコに行けるが、かなりの遠回り(7~80キロ)。とてもじゃないが、気楽に通える距離ではない。
少なくとも狭義のベイエリア(サンフランシスコ湾岸)の一角であるイーストベイ北部、特にバークレー、エリサリート、リッチモンド界隈に簡単に行けるような自転車ルートを開拓しておきたいと思い、8月20日、息子からもらったマウンテンバイクでコンコード宅を出た。
グーグルマップで順路選定
自転車ルート選びは、何はともあれまずはグーグルマップのお世話になる。日本ではまだ始めてないようだが、アメリカのグーグルマップでは、「ルート・乗換」のところで、自転車での行き方を指定できる。するとAIが距離、勾配、自転車レーンの有無などを考慮して適当な自転車ルートを選定してくれる。勾配変化の模式図も示してくれ、推定所要時間まで出してくれる。距離や勾配、舗装か砂利道かなども考慮してAI様が計算してくれるのだろう。実際上、問題がある場合もなくはないが、とりあえずはそのお薦めにしたがって行くのが順当なところだ。
自宅からイーストベイ北部のリッチモンドまでを指定すると、ウォールナッツ・クリーク市域からアルハンブラ・バレー・ロードを通る2時間36分の順路を選定してきた。イーストベイ山地の真ん中を横切るルートだ。
きつかった。とても2時間半では行けない。道を間違うこともあり、その2倍はかかった。コンコードのある内部平原とサンフランシスコ湾岸の間には山岳部(East Bay Hills)が横たわる。せいぜい標高300メートル台のなだらかな山地だが、登ったり下ったりが多い。自転車走行にはきつい。
山の多いサンフランシスコ都市圏
ニューヨークは真っ平らな平原地帯にあり、どこに行くにも平地を走ればよかった。(加えてイーストリバーやハドソン川にかかる橋は皆自転車走行可能だったので、どこへでも自転車で行けた。)
しかし、サンフランシスコ湾岸地域は起伏が多い。サンフランシスコ自体、坂の町として有名だし、南部のシリコンバレーの西にはサンタクルーズ山系がせまり、ゴールデンゲート橋北のマリン郡にはタマルパイアス山(標高782メートル)がそびえ、そして湾の東では南北に伸びるイーストベイ山地が、カリフォルニア中央平原(セントラルバレー)への広がりを遮断している。
ニューヨークに比べてだけでなく、ロサンゼルスに比べてもサンフランシスコ圏は地形が複雑だ。そもそも、カリフォルニアの単調な海岸線の中にあって、東京湾ほどの湾が入り込んでいること自体がその複雑さの一環。だからこそサンフランシスコ地域は港湾都市として発展する一方、風光明媚な地形により優れた観光地になった。しかし、この複雑な地形は都市圏がさらに発展するには障害だったろう。ゴールドラッシュの時代から西海岸で最も早く開かれた地域でありながら、ニューヨークはもとより、ロサンゼルスにも都市圏成長で先を越された。(といっても、9郡から成るベイエリア -サンフランシスコ都市圏は通常こう呼ばれる- の人口は800万人近い。)
LAのサンフェルナンド・バレーと比較
コンコードやウォルナッツ・クリークのある内部平原はディアブロ盆地(Diablo Valley)と呼ばれる。この地域の南西にそびえる標高1173メートルのディアブロ山の名前をとっている。自転車をこぎながら、ディアブロ盆地は、ロサンゼルスのサンフェルナンド・バレーに似ているな、と思った。あの内陸盆地都市域も、ロサンゼルス本体とはガブリエル山脈、サンタモニカ山脈などによって隔絶され、別世界の様相を呈している(同じロサンゼルス市に属しながら、分離独立する住民投票などが組織されたりする)。ディアブロ盆地も同じだ。サンフランシスコ都市圏の北東部、山を越えたところに別世界のような独自都市域が存在している。
10年ほど前、サンフェルナンド・バレーからサンタモニカ山脈を越えてサンタモニカ、パロスバーデス半島など太平洋岸までサイクリングしたことがある。あの時の山越えの方が、今回のイーストベイ山地越えより楽だったのではないか、とと思えた。(もっとも、逆方向に、サンタモニカからサンフェルナンド・バレーへ向かったらやはり大変だったかも知れないが。)