あなたがもしバスケットボールをする人なら、アメリカで友だちをつくるのは簡単だ。言葉はいらない。「クソー、失敗!」「ナイッシュー!」などと叫んでいればいい。あなたが真摯なプレーをしていれば、地元の若者たちに好まれ、公園バスケコートに行くたびに仲間に入れてくれるようになるだろう。中学か高校でバスケ部に入っていた人なら、うまいと褒められて一目置かれるようになる。ある程度でかい顔もできる。NBAや大学バスケなどはともかく、近所の公園でやっている「草バスケ」はそんなにレベルの高いものではない。
ぶらっと公園に行くだけでいい
前回紹介したように、アメリカの庶民レベルで最も人気のあるスポーツはバスケットボールだ。プロスポーツや高校、大学などの学校スポーツでは(アメリカン)フットボールにかなわないが、やはりあれはちょっと危険というイメージがあって、一般市民はあまりやらない。広いグランドも必要だし、用具もそろえなければならない。チームをつくる必要もある。野球は比較的安全だが、やはり広いグランド、用具、チームが必要だ。
それに比べてバスケは、ボールさえ持っていけば、ゴール(リング)めがけて一人玉入れをすることができる。アメリカの近隣公園には、まず必ずといっていいくらいバスケコートが2~3面あり、近所の子ども、若者が玉入れをしている。固い地面とゴールさえあれば、安全だし、場所も取らず、用具はボールだけで遊べる。
一人で玉入れをやっていると、腕前を見てそのうち、いっしょに3対3をやろうか、てなことに自然となる。ほとんど半面コートで3対3(あるいは適当に2対2または4対4)だ。全面コートでやるというのは正式な試合以外、まず見ない。たまたま来た者の間で自然にできるチームだから全面を確保するのが難しいということもあるし、あまり広いコートを走りたくない、ということもあるだろう。私もアメリカに来てから半面コートばっかりで、日本の社会人バスケでやっていたような、速攻で全面コート走り抜けレイアップ(シュート)、というようなプレーができず、もう日本では使いものにならないではないかと思う。
グループが自然にできる
バスケコートがふんだんにある環境だと、こういうことになるということだ。日本ではバスケコートが少ない。いや、学校体育館以外にはほとんどない。社会人は正式にチームをつくって、学校体育館の一般開放や市営体育館を正式利用、という形にならざるを得ない。こっちでも本格的にやる場合はクラブをつくるが、一般の人がそこまでやることはまずない。ブラっと近くの公園に行けば、好きなだけプレーできるのだから。しかも、行きつけていると、そのうちに、同じレベルの者がだいたい集まってグループをつくるようになる。「おれは毎週日曜の午後、あの公園のバスケコートに集まってくるグループを大切にしたい」てな具合で、毎日曜そこに出向くようになる。だいたい顔ぶれが決まってくる。相当うまい者たちだけで集まっている場合もある。オーラ全開で私などは入れない。
スポーツをやっていれば、大切なのはうまいかへたか、どんなプレーをするかだけであって、言葉は関係ない。ゴールが決まれば皆うれしいし、負ければ悔しい。相手のファウルには本気で怒るし、味方がディフェンスをさぼっていると、ちゃんとやれとうるさい。自然と一体感が生まれる、友達になる。どこの何者かあまり知らないが、精神的につながる感じがある。あなたが頭一つ秀でていれば尊敬されて、その後のいろんな関係拡大があるだろう。
アメリカの「公園デビュー」
日本でも、赤ちゃんが少し大きくなって、公園で遊ばせるようになると、お母さん方の「公園デビュー」の難関が待ち受けている。そこで、嫌われずに皆さんの輪に入っていければ、以後の子ども遊ばせが楽になる。バスケの公園デビューも同じようなテクニックが求められる。あまりにも自分勝手だったり、まじめにやらなかったりすると嫌われて仲間外れにされる。その公園バスケの傾向をよく見ながら、次第次第にその輪の中に入っていく技術が必要だ。
私の場合は、若い時のバスケ経験はなく、50代になってから周りに元気な学生がたくさん居たのでのめり込んだ口だ。だからうまくない。ドリブルさせただけで、こいつは下手だ、とわかってしまう。しかし、アメリカの若者たちも本格的なクラブチームでやった者でなければ、そんなにうまくない。皆自己流のフォームだ。ただ、自己流でも意外とシュートが入ったりするので油断はできない(この点、私のバスケスタイルと似ている)。
小兵でも大柄な若者に挑戦する
アジア系は小さいので見くびられる。その上、私はおじいちゃんなので、外見だけでは全然相手にされない。ぼんぼんスリーポイントを入れてアピールしていないと「3対3やるか」の声はかかって来ない。こっちから1対1やらないか、と挑戦する場合も多い。黒人やヒスパニック系の大柄な若者にも挑戦していく。大学で学生に挑戦し続けてきたから、実力差のある相手に挑戦するのは慣れている。
「え、おまえが俺とやるのか」とニヤニヤされて、始める。もちろん圧倒的に負かされることもあるが、そんなに皆うまいわけではないので、私が勝つこともある。黒人が皆、バスケ名手だというのも一種のステレオタイプだということがわかってきた。予想外の展開にびっくりされ、それで珍しがられ仲間に入りやすくなる。
日本の社会人バスケで鍛えられた甲斐があった。私のようなヘボを暖かく迎い入れてくれた諸兄・諸姉に感謝だ。日本で社会人バスケをやっている人たちは、だいたい若いころ学校の部活でやっていた人たちが多い。基礎ができている。アメリカの公園でやっているバスケ若者たちよりずっとうまいと思う。
何食っている?
私が年寄りのわりに走り回るので、「お前何歳だ?」とよく聞かれる。「何食っているのだ?」とも。もちろんそういう時には、日本文化のためにも「スシ、サシミ、テンプラ…」と答えるわけだが、そうすると「ふーん」と納得してくれる。(実際は、高い日本食はここ数カ月食っておらず、即席ラーメンが主になっているのだが。食い物は問題じゃない。毎日地道に練習すればじいちゃんでもある程度体力をつくれる。)
私をイジメの出しに使うやからも居る。1対1で、一番弱そうな者に私の相手をさせ、「おじいちゃんにコテンパンにやられる」のをからかうのだ。そういう時には、もちろんわざと負けてやる。こんな状況にならないように、その集団で一番うまそうなの、体の大きいものに挑戦するのが私の流儀だ。
まずい、だんだんじいちゃんのほら話になってきた。こういうのを年寄りの「リア充ブログ」というらしい。気を付けよう。とにかくアメリカでは、バスケが庶民の間で最もポピュラーなスポーツだということ。公園に行って一人でもやれるし、やっていれば自然と仲間に入れるという絶妙なスポーツ。アメリカ・デビューには持ってこいのなので、渡米する人はぜひ、バスケをたしなんでおこう。