その時は突然来た。「ほら、インパラが居るぞ。」
タンザニアに入ってからのバスで隣に座った現地乗客が、いい景色だから写真を撮れと、言ってきてうるさい。そのうち私もしかとするようになったのだが、何、インパラだと。
窓の外のサバンナを見ると、なるほど、シカに似た華麗なインパラが群れを成して草原を歩いているではないか。牧場に牛が居るから撮れ、と同じレベルではなく、私もあわてざるをえない。
「ほら、今度はキリンだ!」
なるほど、あの背の高いキリンも群れを成して道路のすぐそばまで来ている。一挙に撮影モードに。まさかダルエスサラームまでの国道で、サファリレベルの野生動物が出てくるとは思っていなかった。午後も遅くなっていた。スマホのバッテリーはほぼ切れている。私はあわててノートパソコンを出して起動し、USBコードをスマホにつないだ。ノートパソコンに残っている電源をスマホに供給しようというわけだ。
ある程度は写真が撮れた。しかし、どれも大慌てでシャッターを押したので、まともに被写体をとらえていない。端の方に辛うじて入ったり、角度が大きくゆがんだり、その上、この景勝地を走るバスの運転手はスピードに取りつかれたかのように猛烈な速度で走るので、動物の群れが目に入ってもすぐ後ろに飛んで行ってしまう。
群れを成したインパラやキリンやゾウやシマウマやカバや、蒼々たる大型動物が間近に来ていた。それら集団のほとんどを逃した。しかし、辛うじてカメラの片隅に、あるいは遠くに写り込んだ動物を、トリミングしたり引き延ばしたり角度を回したり鮮明度を上げたりで、何とか下記のような画像にまで編集した。これが限界。
ザンビアとの国境の街トゥンドゥマからバスは一直線に東海岸(インド洋岸)のダレスサラームに向かったのだが、途中、国道A7号線のミクミ国立公園付近で、同公園に接する道路を通った(ミクミ集落からモロゴロの街の間)。そこでこんな光景に出くわしたのだ。バスは、何もない(つまり自然の中を走る)鉄道と違って人間の住む集落地域を通るからいい、と思って窓からタンザニアの人々の暮らしを見させて頂いていた。完全に虚を突かれた。
サファリ趣味はないので、そこまで動物には…と言っていたのに、キリンの御姿を見た途端、一挙に目の色を変え、写真を撮りはじめた。