俺の晩年、こんなでいいのか (ヌクスで)

カードが使える

「大丈夫、クレジットカード使える。」
言葉ではないが、マネジャーの男がジェスチャーでそう言っているのがわかった。

ウズベキスタン西北部端ヌクスの宿。よかった、現地キャッシュ(スム)が残
り少なくなっていた。出国間際にまた現地通貨を引き出したくなかった。

「クレジットカードを渡せ。」「暗証番号は?」
え?あんたに教えるの?
「じゃあ、ここに入力しろ。」
て、何の機械?あんたのスマホじゃないの?

「暗証番号はこれだな、XXXX。」
彼のスマホにちゃんと私の暗証番号が表示された。
おいおい、何だよ。

「俺がこのカードでATMで引き出してくるんだ」と彼は言っているようだった。それがこの宿で「クレジットカード使える」ってことの意味らしかった。
実直そうな男だ、別に悪さをするつもりでなく、まじめにそうしようとしているようだ。

だったら俺がATMで金を下ろしてくるまでだ。そのカード返せ。

ATM故障

この辺では唯一らしいATMはすぐ近くにあった。ところが、なぜか私のカードを
入れると反応しない。暗証番号を入れる前、何らかの機械のトラブルだ。

宿に帰って、ドル現金が残っているかどうか探す。ない。円は使えるか。「円は使えない」「銀行だったら替えてくれるぞ」とマネジャーの男は言う。

銀行はATMのすぐ後ろにあった。円は替えられない、と行員が言う。ATMが反応しないぞ、とATMまで連れて行って見せる。確かに機械がおかしいというのは理解したようだ。隣にあった銀行専用ATMをクレジットカードが使えるように設定を変えた(そんなことができるらしい)。そっちはカードを受け付けた。ところが今度はその機械から金が出ない。現金が切れたらしい。行員は本部に連絡して現金を持って来させるようだ(後で本当に本部行員が現金ケースを持ってきて中に入れたので、そういうことだとわかった)。

じゃあ、他のATMを探してみよう。駅ならATMがあるだろう、と駅に行くが、セキュリティーチェックにひっかかり中に入れてもらえない。「切符は持っているのか」「駅内にATMなんかないぞ」。退散。

18年前もヌクスに来ている。あの時はこんな立派な駅舎ビルは見なかった。みすぼらしいバスターミナルに着いた。まわりに出てた屋台でカミさんへのお土産を買ったのを覚えている。18年でこの街もずいぶん立派になったものだ。ヌクス駅は駅ビルも立派で、周りに車がたくさん走っている。ビルも多い。駅の隣にフィットネス・ジムまである。ヌクスにくる道はアメリカのような広い高速道路だった。昔をはっきり覚えているわけではないが、少なくとも印象はがらりと変わった。

現在のヌクス駅。

雨が降ってきた

変わってないのは気候だけだ。あの時は冬来て、何て寒い所だ、と震えたが、今
回はブハラまでの熱暑は消え、ちょうどよくなった。秋のように涼しい。

別のクレジットカードを使ってみよう。また宿に戻り、バッグの奥深くしまった予備カードを取りだし、それでまたATMへ。やっぱりだめだ。

そのうち雨が降ってきた。18年前も確か雪が降ったな。この辺はカスピ海が近
づいたからか、完全な乾燥地帯というわけでもないらしい。

行員もATMの所で作業している。少し待て、という。待てと言っても雨宿りをす
るところもない。寒くなってきた。寒いのに喉がかわく。近くの売店で水を買った。そしたら炭酸水でまずかった。ああ、俺はこんなところで何をしているのだ。こんなことであたふたする人生が俺の晩年でいいのか。

現金が来た

そのうち本部から現金ケース運び屋らしい人が到着した。現金輸送車でなく普通の車で一人だけ、警護なし。ATMの中にケースを入れる。使ってみろ。今度はちゃんと反応し、カネが出てきた。ウズベク出国1日前だから2000円程度だけだ。それと残りの現金合わせて2400円の宿代払ってやっと中に入り、これを書いてる。

我が思い出のATM、と銀行。