2月3日に横浜港に帰港し19日から乗客が下船したクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号で、乗員・乗客3,711人のうち657人が新型コロナウイルスに感染し、7人が死亡した(3月12日現在)。後手後手に回った日本政府の対応が国際的にも批判された。その後の他のクルーズ船感染問題のレポートでも、これは悪い見本として「公衆衛生上の失敗(public health failure)」「浮かぶ細菌工場(floating germ factory)」などと言及され続けている。
しかし、同じく感染が確認されて3月9日にカリフォルニア州オークランド(サンフランシスコ湾のサンフランシスコ対岸の街)に入港した別のクルーズ船グランドプリンセス号でのアメリカの対応はどうだったのか。驚くべきことに、未だに全体で何人感染したのかの数が明らかでない(3月14日現在)。海上待機中の3月5日にヘリコプターから検査キットが下ろされ、乗員・乗客3,533人のうち46人に検査が行われ21人の感染が確認された。しかし、それだけだ。それ以後の発表、報道がない。
日本の失敗に十分学びながら、模範的な対応をしてくれるとアメリカの対応を注視していた。しかし、まったく期待外れだ。ペンス副大統領は6日に、乗客全員に検査を行うと言明していた。しかし、その後、何日たっても検査状況、最終的な感染者数の発表がない。不思議だったのだが、きょう(日本時間3月14日)になって、上陸・隔離された乗客たちの一部から断片的な証言が出るようになって唖然とした。ほとんど検査が行われていないようだ。例えば下記参照。
https://www.modbee.com/news/local/article241138521.html
https://www.buzzfeednews.com/article/stephaniemlee/grand-princess-coronavirus-testing
https://www.sfgate.com/bayarea/article/Grand-Princess-cruise-Travis-AFB-coronavirus-15129775.php
むやみに検査ばかりしても医療崩壊を招く危険があるという議論はわかるが、こうしたクルーズ船に乗っていた乗客を検査するのは極めて優先順位が高いだろう。実際、これらの記事を見ると、下船する前に全員検査すると言われた(しかしされなかった)、隔離される軍事基地内で検査される言われた(しかしされていない)という話だ。検査するにはそういう要望を出す必要があると言われた、しかし出しても検査されない、とも。英国に退避させられた乗客たちは検査されたという伝聞証言もある。乗員・乗客3,533人のうち何人が感染したかさえわからないようでは、対応の正否を云々する以前の問題だ。隔離された人たちに頻繁に体調検査などはされているようだが、感染状況がわからないで二次感染の恐れはないのか。海上待機中、6日間自室に隔離されたにもかかわらず、基地への移動の際はみんな一緒にバスに乗せられ(つまり、感染してたかも知れない人もしてなかった人も一緒)、しかも手続きの遅れで長時間中に閉じ込められたという。乗客の多くは高齢者だ。突然重症化する危険もある。健康な人でも検査がなければ隔離から出られるかどうか判断できない(まさか、14日の隔離期間が終わるまでには検査が行われるのだと思うが)。
カリフォルニア在住の私は、年末年始の休暇帰国中に母が危篤になり、アメリカに帰るのが3月にずれ込んだ。そこに訪れたコロナ禍だ。感染が多い日本からアメリカに帰るのはまずいかも知れないと憂慮した。たとえアメリカが日本からの入国を禁止しなくても、一緒に住む友人や周囲にあらぬ不安感を与える。それで感染状況について慎重に情報収集していた。しかし、今週あたりから、形勢は逆転。日本よりアメリカの方が感染者数・死者数とも多くなってしまった。日本の感染検査数は少ないが、アメリカも同様かそれ以下で、そもそも、どれだけの検査が行われているか米政府は正確にはつかめていないようだ。
在住者として、大雑把な国であることはよく承知している。アメリカはかなり悪くなるのではないか、むしろ帰らない方がいいのか、また、移動は避けるべきか。混乱の中で社会的に正しい行動をとろうとしているが、いろいろ情報収集の中で焦りを感じる。アメリカよ、頼むからしっかりやってくれ。